補足説明


「高い超伝導転移温度を持つ超伝導体の発見」

青山学院大学 理工学部 秋光 純

 従来の超伝導体は大きくわけて銅の酸化物からなる銅酸化物超伝導体と、銅酸化物以外の超伝導体、非銅酸化物超伝導(BCS理論に基づく超伝導体と言う意味でBCS超伝導体とも呼ばれる)に大別できる。それぞれの特徴は、前者の銅酸化物超伝導体においては銅と酸素からなる二次元面を有し、超伝導転移温度(Tc)が高い(最も高いもので130K程度:-143℃)。また後者の非銅酸化物超伝導体は、数種の金属元素からなる金属間化合物や銅を含まない酸化物などがあり、これらの超伝導転移温度は最高でも23K(-250℃)程度であった(図1)。
 応用の面では銅酸化物超伝導体はいわゆるセラミックスであるため、合成・成型・加工が難しく、特に導線に加工するのは非常に困難である。一方、非銅酸化物超伝導体、特に金属間化合物の超伝導体はTcは低いものの、それ自体が金属であるため非常に合成・成型・加工が容易である。実際にも、実用化されているのは金属間化合物の超伝導体であり、金属系超伝導体で高い超伝導転移温度を持つ新しい超伝導体が得られれば学術的にも、特に応用面においても非常に興味深く、有益であると考えられている。
 これまで理論的(BCS理論)には、超伝導転移温度を決定するパラメータとして、物質が構成する格子の振動数が重要であると考えられてきた。特に超伝導転移温度を高くするためには、その格子の振動数を高くすれば(格子が速く振動すれば)良いと考えられてきた。その振動数を高くするためには、物質を構成する元素が軽いことが挙げられている。
 しかしながら、実際にはその超伝導転移温度は理論的にも、せいぜい30K以下であると考えられ、金属間化合物における超伝導体の大半が20K以下と非常に低い。以上のことを踏まえ、我々はより軽い元素で構成され、金属的性質を示す物質に着目し、新しい超伝導体開発を行った。
 種々の元素の組み合わせの結果、Mg:B=1:2の組成比からなる「二硼化マグネシウム:MgB2」において約40Kで超伝導性を見い出した。この「二硼化マグネシウム:MgB2」の結晶構造はマグネシウム(Mg)で構成される六角形の面と、硼素(B)で構成される六角形の面が交互に積層する非常に簡単な構造を有する(図2)。その構造解析を粉末X線回折法で行った結果が図3である。図3よりすべてのピークにMgB2の結晶構造であると考えられる指数をつけることが出来、試料が単一相であることがわかる。超伝導体特有の現象であるマイスナー効果は、磁化率の温度依存性の測定から見られ約40Kからマイスナー反磁性である大きな反磁性成分が観測された(図4)。その超伝導体積分率は約50%と非常に高く、バルクの超伝導体であることが分かる。また電気抵抗率の温度依存性の測定から、やはり約40Kから急激に電気抵抗率が減少し、約38Kにおいて零抵抗を確認した(図5)。以上の結果より、「二硼化マグネシウム:MgB2」が約40Kで超伝導を示す物質であることを発見した。
 これまで23K以下であった金属間化合物超伝導体において、「二硼化マグネシウム:MgB2」は最も高い転移温度を持つ物質であり、その超伝導転移温度は約2倍程度上昇し、これまでの記録を塗り替えた。このことはこれまで理論で考えられていた超伝導転移温度の限界を遥かに凌ぎ、従来の理論を覆すことと考えられる。すでにバンド計算等が行われており、その結果から、MgB2を形成している硼素のバンドは広がっており、超伝導に不利であると考えられており、自体は「渾沌」としている。このようなことから「二硼化マグネシウム:MgB2」における超伝導機構は全く新しいものであると考えられる。
 応用面においては「二硼化マグネシウム:MgB2」を含むマグネシウム金属等の合金においても超伝導性が損なわれることなく、合成・成型・加工が容易であり、マグネシウム:Mg、硼素:Bの二つの元素から構成されており、超伝導材料の原料としても安価であるため、このMgB2が製品化されれば従来の材料より低いコストで高性能な超伝導材料になると考えられる。特に薄膜においては、このMgB2が二元系物質であることから成膜が容易であることが考えられ、これを用いた安価で高性能な超伝導デバイスを作成することができる。研究段階ではあるが、すでに超伝導ワイヤーも作成されており、産業界に一石を投じるものと考えている。
 今後は、この「二硼化マグネシウム:MgB2」の発見を契機に、「二硼化マグネシウム:MgB2」の詳細な物性測定、超伝導機構の解明を進めていくと共に、より高い超伝導転移温度を有する物質の開発を視野に入れ研究を進めていく予定である。



This page updated on February 26, 2001

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