(お知らせ)
平成13年2月5日
理化学研究所
科学技術振興事業団

「分子の鎖でナノワイヤー配線」
−ナノテクノロジー電子素子実現に新技術−

 理化学研究所(理事長:小林俊一)と科学技術振興事業団(理事長:川崎雅弘)は、導電性の分子の鎖を"ナノワイヤー"として用いて、任意の点から別の任意の点まで自由に配線できる技術を世界で初めて開発しました。理化学研究所 表面界面工学研究室の青野正和主任研究員(大阪大学大学院工学研究科教授)と大川祐司研究員らによる成果。新世代のデバイスとして、分子を用いる「分子ナノエレクトロニクスデバイス※1」は、現在の半導体デバイスに変わる技術の一つとして期待されており、今回の新しいナノテクノロジー技術は、その実現につながる大きな一歩となります。
 本研究成果は、科学技術振興事業団(JST)の戦略的基礎研究推進事業(研究領域:量子効果等の物理現象、研究統括:川路紳治 学習院大学教授)に係わる研究テーマ「人工ナノ構造の機能探索」の一環として得られたものです。
 研究成果の詳細は、英国科学雑誌「nature」2月8日号で発表されます。


1. 背景

 シリコン半導体素子は、超微小化と高集積化の一途をたどり、コンピューターの能力を目覚ましく向上させてきました。シリコン半導体素子では、シリコンに微量の不純物を混ぜてn型やp型の半導体としていますが、超微小化が進むことによって、一つの素子に含まれる不純物原子の数が極端に減少するため、もはや原理的に半導体として動作することができません。その限界は、素子寸法が数10ナノメートル(nm:1nm は 10 億分の 1 m)以下になると顕在化し、今のペースで超微小化が進むと約10年後にはその限界に達すると予測されます。
また、光リソグラフィーを用いた微細加工技術も、紫外光へと短波長化を進めることで微細化の限界に挑戦していますが、数10nm程度が限界とされています。このため、電子線リソグラフィーなどの適用が検討されているものの、やはり数10nm程度が限界で、実用性のある原子・分子レベルの極微細加工の手法はいまだ存在していません。
 このような状況の中で、ナノメートル程度の寸法でも動作可能な新しい概念の素子の開発がいま世界的に精力的に進められています。例えば、電子1個でスイッチのオン・オフを制御する単電子素子や、有機分子を素子として用いる分子デバイスなどが提案されています。これら新しい概念のナノ電子素子が実用化されるためには、まだ多くの課題を解決しなければならず、そのひとつの大きな問題は、個々の素子を電気的に連結する有効な技術がないことでした。したがって、ナノ電子素子を実現するキー技術として、ナノメートル程度の極微小な幅を持ち、電気をよく通す "ナノワイヤー" を任意の位置に任意の長さで作り込む技術の開発が切望されています。

2. 研究の成果

 今回、開発に成功した技術は、有機分子膜の分子に走査トンネル顕微鏡(STM)の探針によって電圧パルスを加え、連鎖重合反応を起こさせることでナノワイヤー配線を作成するものです。分子がドミノ倒し的に次々と化学結合して行く連鎖重合反応を巧みに利用して、ナノワイヤーとしての分子の鎖を電子回路チップ上の任意の位置に任意の長さでつくることができます。すなわち、適切な分子(具体的にはジアセチレン化合物分子)が秩序正しく並んだ平坦な膜を作製し、その上の1点にSTMの探針を用いて適切な電圧パルスを加えると、そこから連鎖重合反応がスタートして分子の鎖(ポリジアセチレン化合物)が自発的に成長していきます。その成長の経路上に前もって分子の乱れを STM の探針によって作っておくと、分子の鎖の成長をそこで止めることもできます。こうして、2〜3nmの短いものから 300nmに達する長いものまで、任意の長さのナノワイヤーを任意の位置に作ることができます。言い換えれば、任意の点から別の任意の点までの配線を分子の鎖を用いて行うことが可能となりました。
 連鎖重合反応によって作られる分子の鎖は、構造が完全で分子の連結に乱れがなく(それゆえ電気を通しやすい)、かつ安定です(室温で崩れることがない)。また実用化の観点からみるとき、連鎖重合反応は最初の刺激を除いてゼロの消費エネルギーで進行し、かつ短い時間で終わるという魅力的な利点をもっています。これは、最近、とみに注目されている物質が自己組織化する機構を有効に利用するという視点とも密接に関係しています。

3. ナノワイヤー配線による実例

 下図の@からCにナノワイヤーによる配線の一例を示します。下図は、ジアセチレン化合物分子が秩序正しく配列した膜を STM によって観察した像です。像の中央に見られる黒い点は、STM の探針によってあらかじめ作られた構造欠陥(直径約6ナノメートルの穴)です。@の点 Aに探針を置いて刺激としての電圧パルスを加えたところ、そこを起点として連鎖重合反応が進行し、穴の位置までナノワイヤーが形成されました(A)。同様に、Aの点 B に刺激を加えたところ、Bに見られるように2本目のナノワイヤーが形成され、さらにBの点 C に刺激を加えたところ、Cのように3本目のナノワイヤーが形成されました。この結果は、ナノメートル程度の超微小な素子が作られたとしても、それに対して少なくとも3本のナノワイヤーを配線しうることを示しています。

ナノワイヤーによる配線の一例

4. 今後の展開

 本年のノーベル化学賞を受賞した白川英樹氏(筑波大学名誉教授)らの分子膜(ポリアセチレン膜)が添加したヨウ素と電子をやりとりして導電性になるのと同様の原理によって、本技術で作成されたナノワイヤー(ポリジアセチレン化合物ワイヤー)も基板などと電子をやりとりすることによって導電性となります。今回開発した新技術は、分子デバイスを始めとする次世代ナノデバイス作成の基本技術になることが期待され、21世紀のキーテクノロジーといわれるナノテクノロジーに多大の波及効果を及ぼすことが期待されます。また、1次元導電体の物性研究や連鎖化学反応のナノ化学研究など、基礎科学としてのナノサイエンスの発展にも大きく貢献するとともに、本研究のアイデアをの源となった理化学研究所のナノテクノロジーに関する「原子スケール・サイエンジニアリング研究※2」をさらに前進させることになるでしょう。

補足説明
※1 「分子ナノエレクトロニクスデバイス」
 1個、または数個の分子(有機分子)をメモリーセル、スイッチ、論理ゲート、基本プロセッサーとして用いることによって、今日のシリコン半導体に基礎をおくコンピューター素子を凌駕することを目指した新しいナノスケールのデバイス。
※2 「原子スケール・サイエンジニアリング研究」
 米国大統領の2000年の教書にもみられるように、最近、ナノテクノロジー(ナノメートル寸法でのテクノロジー)の重要性がとみに強調されているが、すでに理研では1993年から「原子スケール・サイエンジニアリング研究」(ナノメートルよりもさらに数分の1小さい寸法でのテクノロジーの研究)を推進してきている。99年からは、さらに原子スケール構造物の状態制御を目指して第2期研究がスタートした。
 "サイエンジニアリング"という言葉は、サイエンス(科学)とエンジニアリング(工学)とを統合した、(理研が提唱した)新造語であり、この分野では科学と工学が不可欠で、一体であることを表現している。



(問い合わせ先)
「理化学研究所」
   表面界面工学研究室 主任研究員    青野 正和 
        TEL:048-467-9300 FAX:048-462-4656
     (大阪大学大学院工学研究科精密科学専攻)
        TEL:06-6879-7297 FAX:06-6879-7298
   <報道担当> 
             広報室      嶋田 庸嗣
        TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715

「科学技術振興事業団」
   基礎研究推進部  石田 秋生 
        TEL:048-226-5635 FAX:048-226-1164

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