(お知らせ)
平成12年12月19日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
TEL 048-226-5606(広報担当)

国際共同研究事業における成果について
「究極の元素分析法の開発」
― 特殊な電子顕微鏡により単原子の識別に世界で初めて成功 ―

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)の国際共同研究事業において、電子分光法による単原子の選択的映像化に成功した。これは元素同定を原子一個のレベルで行った世界で初めての実験結果であり、元素分析の検出限界が原子1個レベルにまで可能になったことを証明した「究極の元素分析」といえる。この成果は、12月22日の米科学雑誌「サイエンス」に発表される。(論文の筆頭著者はプロジェクト研究員の末永和知博士)

 本研究は、科学技術振興事業団の日仏共同研究「ナノチューブ状物質プロジェクト」(代表研究者は名城大学の飯島澄男教授(NEC主席研究員併任)、及びフランス国立科学研究センター(CNRS)エミーコットン研究所のコリエックス教授)において行われたものである。
 この「ナノチューブ状物質プロジェクト」は、高強度素材やガス吸着材、ミクロ構造物、微小電子素子の導体、次世代壁掛けテレビの電極などとして注目を集めているカーボンナノチューブの特性や生成メカニズムの解析、大量製造方法の開発を進め、新しい応用技術を探索する目的で平成10年1月から5年間の予定で進められている。現在までに、ガス吸着特性等のカーボンナノチューブ特性の把握や、単層カーボンナノチューブの先端が円錐状に閉じたカーボンナノホーンの発見、高出力炭酸ガスレーザーの連続照射による単層カーボンナノチューブの大量生産技術の見通しを得るなどの数多くの成果を得ているとともに、生成されたナノチューブ状物質の電子顕微鏡による分析技術の開発も進めてきた。

 今回開発された分析手法は、科学技術振興事業団とフランスのエミーコットン研究所が共同で開発したもので、特殊な電子顕微鏡(走査型透過電子顕微鏡)の作り出す鉛筆の先端のように尖った電子線(大きさは約5オングストローム)と電子線エネルギー損失分光法(注1)を組み合わせてナノメートル領域の元素分析を可能にしたものである。今回実験に用いられた試料は、筒状に配列した炭素原子からなる単層カーボンナノチューブの中空部分に名古屋大学の篠原久典教授らが合成した金属内包フラーレンを並べたものである(図1参照)。
 今回の分析では、極小の電子線プローブを走査させることにより、この試料上の128点×32点(約3オングストロームおき)で約4000本の電子線スペクトルを記録し、ガドリニウム元素に特有のエネルギーを損失した電子だけを用いて電子顕微鏡像を再構築したところ、ガドリニウム原子の位置が克明に浮かび上がった(図2参照)。

 この金属内包フラーレンを取り込んだカーボンナノチューブの構造や特殊な性質については、Physical Review Letters誌にも掲載が予定されている。

 電子線エネルギー損失分光法は、金や銀など貴金属には適さないが、軽元素・遷移金属およびランタノイド金属などの検出には極めて敏感であり、試料中の対象元素の種類と位置を原子1個の精度で正確に特定できるこの手法は、今後ナノテクノロジー開発研究の分野で活躍すると期待される。

注1)電子線エネルギー損失分光法: 電子線が試料にあたったとき、試料中に存在する
元素に特有のエネルギーを失うことを利用して、
試料中の組成などを調べる分析手法。

本件の問い合わせ先:
(1)内容について
   科学技術振興事業団 国際共同研究事業「ナノチューブ状物質プロジェクト」
   代表研究者 飯島澄男  TEL 0298-56-1940   FAX 0298-50-1366
   研究者   末永和知  TEL/FAX 052-834-4001
(2)事業について
   科学技術振興事業団 国際室
   調査役 菊池文彦   森本茂雄
   Tel 048-226-5630 FAX 048-226-5751

This page updated on December 22, 2000

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