(お知らせ)
平成12年12月 5日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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細胞の形や、細胞運動を制御するシグナル伝達系の解明

 科学技術振興事業団(理事長 川崎 雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「構造生物学に基づくシグナル伝達系の解明とその制御」(研究代表:稲垣冬彦 北海道大学教授)で進めている研究の一環として、細胞の形作りや運動に欠かせない情報を伝達する系(シグナル伝達系)を解明した。

 この研究成果は、東京大学医科学研究所の竹縄忠臣教授らの研究グループによって得られたもので、12月7日付の英国科学雑誌「ネイチャー」に発表される。

 細胞が外部からの刺激に応答して、方向性を持って運動すること(細胞遊走)は、免疫細胞の病原菌への攻撃、炎症性細胞の炎症部位への移動、癌細胞の浸潤、転移のみならず、個体発生や器官の形成にも重要な生命現象である。細胞遊走は、以下の過程で起る。細胞は、まず、進む方向に糸状仮足という束化されたアクチン線維からなる細長い突起を出して方向を探る。その後、葉状仮足という枝分かれ状の構造を構築することで運動を行う。(図1)。 

 これまで、竹縄教授らは細胞の形作りや運動に係わるシグナル伝達系の解明を行ってきた。これまでの研究の結果、情報伝達に係わる蛋白質として、N-WASP(Wiskott-Aldrich syndrome protein)やWAVE(WASP famiIy Verprolin-homologous protein)を見いだした。外部から、ホルモンや神経伝達物質が受容体と結合すると、G蛋白質の一種であるCdc42が活性化され、これがN-WASPを活性化する。その結果、活性化したN-WASPがArp2/3複合体と結合し、Arp2/3がアクチンの重合を促進して、アクチン線維にすることで、糸状仮足形成を引き起こすことを、先に明らかにしていた。WAVEの場合も同様に、外部からの刺激により、G蛋白質の一種であるRacが活性化され、これがWAVEを活性化する。その結果、活性化したWAVEがArp2/3複合体と結合し、Arp2/3がアクチンの重合を促進することで、葉状仮足形成を引き起こすことが明かとなっていた。しかし、N-WASPは直接Cdc42に結合してアクチンの重合を引き起こして糸状仮足形成を引き起こすのに対し、WAVEは直接Racに結合できないため、どのようにしてWAVEがRacによって活性化され葉状仮足形成を引き起こすのか、すなわち、どのようにしてRacのシグナルがWAVEに伝えられるのか不明であった。

 今回、RacとWAVEとの間に入り、両者を結合するIRSp53(insulin receptor substrate p53)を見いだした。IRSp53はインスリン受容体によりリン酸化される蛋白質として、以前に見いだされていたが、その機能は全く分かっていなかった。今回の研究で、IRSp53はWAVEとRacに同時に結合できることが分かった。さらに、IRSp53が活性化したRacにWAVE を結合させることや、IRSp53は細胞内では葉状仮足に存在することも分かった。すなわち、アダプター蛋白質IRSp53が、RacのシグナルをWAVEに伝え、葉状仮足を引き起こすことが明らかとなった。(図2

 今回の研究で細胞の形や細胞運動を制御するシグナル伝達系を解明できたことにより、発生、器官形成機序の解明等の生命現象の根幹を理解する上に重要な手がかりを与えるのみならず、、炎症、アレルギーの抑制や癌の浸潤、転移の抑制など様々な疾病の予防から再生医療への応用に至るまで幅広い応用が期待できる。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
 研究領域:生命活動のプログラム
        (研究統括:村松 正實 埼玉医科大学将来計画研究部門特任教授)
 研究期間:平成9年度-平成13年度
本件問い合わせ先:
(研究内容について)
    竹縄忠臣(たけなわ ただおみ)
     東京大学医科学研究所
     〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
     TEL:03-5449-5510
     FAX:03-5449-5417

(事業について)
    石田秋生(いしだ あきお)
     科学技術振興事業団 基礎研究推進部
     〒332-0012 川口市本町4-1-8
     TEL:048-226-5635
     FAX:048-226-1164

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