補足説明資料


 ノックアウトマウスを用いた解析から、新規受容体TLR9がバクテリア由来DNAの認識に必須の分子であることが初めて明らかとなった。

 外来性微生物の存在をいち早く探知することは、生体防御において非常に重要である。それら微生物菌体構成成分としてリポポリサッカライド(LPS)やペプチドグリカン(PGN)、リポ蛋白、マンナン、リポタイコ酸、非メチル化 CpGモチーフを有するDNA(CpGDNA)が知られている。この中のCpGDNAは、特にTh1反応(マクロファージを活性化する反応)を強く励起し、臨床面での応用が期待されている分子である。そして、哺乳類の免疫系、特に、マクロファージや樹状細胞は、これら菌体構成成分を認識することで外来性微生物の存在をいち早く探知し炎症反応を励起する。近年、これら菌体構成成分を認識する分子としてTLRファミリーが同定され、その機能が解析されてきた。その中でもTLR4はLPSを、TLR2はPGNやリポ蛋白の認識にそれぞれ必須であることがこれらのノックアウトマウスの解析から示されてきた。しかしながら、強い免疫賦活作用を有し、臨床面での応用が期待されているCpGDNAがどのような機構で免疫担当細胞を活性化しているのか、また、TLR2やTLR4以外のTLRファミリーが生体内でどのような役割を担っているのか分かっていなかった。
 
 そこで今回、TLRファミリーに属する新規遺伝子TLR9の生体内での役割を調べるためにノックアウトマウスを作製し解析した。TLR9ノックアウト脾細胞は、LPSやCpGDNAに反応して増殖をする。そこで、このノックアウトマウスより脾細胞を回収し、CpGDNAやLPSによる増殖能を調べた。TLR9ノックアウト脾細胞は、LPSに対しては正常マウスと比べ同程度の増殖を示すのに対し、CpGDNAに対する増殖能が著しく障害されていた。また、腹腔より回収したマクロファージは、LPSやPGN、CpGDNAを認識してTNFαやインターロイキン(IL)-6、IL-12といった炎症性サイトカインを分泌する。そこで、このノックアウトマウスの腹腔よりマクロファージを回収し、LPSやPGN、CpGDNAで刺激して炎症性サイトカインの分泌を測定した。その結果、TLR9ノックアウトマウス由来マクロファージは、LPSやPGNの刺激により正常マウス由来マクロファージと同様にTNFαを産生するが、CpGDNAの刺激ではTNFαやIL-6、IL-12の産生は認められなかった。さらに、骨髄由来未熟樹状細胞は、LPSやCpGDNAの刺激により成熟し共刺激分子の発現が増強しIL-12などのサイトカインを産生するが、TLR9ノックアウトマウス由来の未熟樹状細胞は、LPSによる成熟やIL-12の産生は正常マウス同様に認められたが、CpGDNAではこれらの反応は認められなかった。それらのことから、CpGDNAの認識にTLR9が必須であることが明らかになった。

 さらに、in vivo(生体内)における反応を調べるために正常マウスおよびTLR9ノックアウトマウスにCpGDNAおよびD-ガラクトサミンを腹腔内に投与し、CpGDNAによるショックの誘導を行った。正常マウスでは、投与後12時間以内にすべてのマウスが死亡したが、TLR9ノックアウトマウスは全匹5日以上生存していた。また、そのときの血中サイトカインの濃度測定を行った。正常マウスでは投与後1時間後にTNFαの濃度が上昇し、3時間後には IL-12やIL-6の濃度も上昇したが、TLR9ノックアウトマウスでは、これらサイトカインの上昇は認められなかった。さらに、CpGDNAはTh1反応を強く誘導することが知られている。そこで、マウスの肉跡に卵白アルブミン(OVA)及び CpGDNAを投与し1週間後に膝下リンパ節を回収してOVAで刺激し、Th1反応の指標の一つであるインターフェロン(IFN)γの産生を測定した。正常マウスでは、OVAに反応して(IFN)γの産生が認められたが、TLR9ノックアウトマウスでは、認められなかった。このように、TLR9がin vivoにおいてもCpGDNAの認識に必須であることが明らかになった。

 CpGDNAによる免疫賦活作用が知られ臨床応用が期待されているが、現在までその分子メカニズムは分かっていなかった。しかし、今回のノックアウトマウスの解析により新規TLRファミリーであるTLR9がCpGDNAの認識に必須であることが明らかになった。


This page updated on December 12, 2000

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