(お知らせ)
平成12年11月20日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団
電話048-226-5606(総務部広報担当)

「メソ多孔体の構造解析法の開発に成功」
−透過電子顕微鏡像による三次元構造解析−

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「配列したミクロ空間での新物質系の創製と物性」(研究代表者:寺崎治 東北大学助教授)で進めている研究の一環として、メソ多孔体(微小な多数の穴のあいた物質)の三次元構造を、透過電子顕微鏡を用いて決定する方法を開発するとともに、この方法を用いてメソ多孔体の三次元構造を解析することに世界に先駆けて成功した。この研究成果は11月23日付けの英国科学誌「ネイチャー」で発表される。

 メソ多孔体とは、口径20〜500オングストローム(Å)(1Å は100億分の1メ ートル)の空隙が規則的に配列した物質のことを言う。これに対し、口径20オングストローム以下のものをミクロ多孔体と言う。ミクロ多孔体は、石油精製・脱硫触媒などとして不可欠な材料であるゼオライトなどが代表的なものとして知られ、これまでにさまざまな分野に利用されてきた。しかし近年、より大きな空隙を有する多孔体が、機能向上と、新しい機能の発現の期待から追究され、多くの努力の結果、1992年にMobil の研究者がシリカ・メソ多孔体の合成に初めて成功した。ミクロ多孔体は原子の配列が周期的な通常の意味の結晶である。一方、メソ多孔体は、原子レベルの規則性はないものの、メソスケールの空隙が規則的に配列したこれまでにみられない新しいタイプの結晶であり、今後、吸着・分離材(特定の分子を空隙に吸着し、分離する働きを持つ材料)や、触媒、界面活性剤などの工業材料として活用が期待される。また、空隙にさまざまな原子や分子の集合体を導入するなどして、新しいエレクトロニクスデバイス材料としての利用も可能になるなど、さまざまな分野での利用が大いに期待されている。
 メソ多孔体の構造を知ることは、今後新しいメソ多孔体を開発したり、メソ多孔体をさまざまな用途に応用する上で極めて重要である。ところで、一般に物質の構造はX線、中性子、電子による回折実験で調べられる。しかし、それらの回折ピークの強度からは、結晶構造を決める因子(振幅と位相)のうち、振幅情報しか得られない。それでも原子スケールの周期構造を持ち多数の回折ピークが観測される場合には位相情報を推測して構造を決める方法がある。しかし、メソ多孔体のような複雑な構造体の解析は困難であった。
 今回、透過型の電子顕微鏡を用いて電子顕微鏡像を得、これをコンピューターによる数値解析を行うことで、これまで困難とされてきたメソ多孔体の三次元構造を求めることが可能となった。今回開発した手法は以下の通りである。

@ 高分解能の透過型電子顕微鏡を用い、メソ多孔体の電子顕微鏡像を得る。三次元の構造解析を行うため、一般には3つ以上の異なった方向からの電子顕微鏡像が必要である。
A 得られたメソ多孔体の電子顕微鏡像を、コンピューターを用いてフーリエ変換する。電子顕微鏡像は、試料によって回折された多くの電子波の干渉の結果として形成される。従って、像のフーリエ変換からは、ちょうどX線や電子線で得られる回折パターン(結晶構造因子の振幅)に相当する情報に加えて、メソ多孔体の構造を反映した電子線波の互いの位相関係の情報も同時に取り出せる。即ち、結晶構造因子の振幅と位相を含めた全情報が求められることになる。
B 電子顕微鏡像のフーリエ変換から得られた三次元結晶構造因子から、メソ多孔体の三次元構造がフーリエ逆変換で何ら仮定をすること無く求められる。

 この方法を、いくつかのシリカ(SiO2)・メソ多孔体に適用し、それらの三次元構造を求めることに成功した。これまでは、シリカメソ多孔体は界面活性剤が水の中で示す自己組織機能を利用して合成されるので、その構造は水−界面活性剤の界面が形成する構造から推測されてきた。

 別紙図は、今回開発された解析方法を適用して得られたシリカ・メソ多孔体の三次元構造の一例(SBA-6())である。これは4つの結晶軸方向([100], [110], [111], [210])から入射した電子顕微鏡像を用いて解析された。その構造は、二つの大きさの異なる空隙(大小の空隙をA, B とする)がA3B (MEP) 型に配列している。すなわち、シリカ(SiO2)で作られた基本格子(格子定数146Å)の中に 直径が約85Åの3個の空隙Aと、約73Åの1個の空隙Bが互いに20Åの窓でつながっており、またA同士は33Åx 41Åの歪んだ窓で一定方向(<100>方向)につながっていることが判明した。

 今回開発した電子顕微鏡像を用いたメソ多孔体構造解析法は、周期的構造をもつ共重合高分子、界面活性剤、液晶など広く適用できる一般的な方法で、より広範な産業分野において、新しい材料の設計、解析に寄与することが期待される。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
 研究領域:量子効果等の物理現象(研究統括:川路紳治 学習院大学教授)
 研究期間:平成7年度-平成12年度

)各種シリカ・メソ多孔体の成分組成はどれも基本的に水晶と同じSiO2 である。名前は、最初に合成したグループが命名したものが使用されている.例えばSBA-6の名前は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB) のグループが合成した6番目のメソ多孔体に由来する。

本件問い合わせ
(研究内容について)
    寺崎 治(てらさき おさむ)
     東北大学大学院理学研究科・物理専攻
     〒980-8578 仙台市青葉区荒巻字青葉
     TEL:022-217-6472
     FAX:022-217-6475

(事業について)
    石田 秋生(いしだ あきお)
     科学技術振興事業団 基礎研究推進部
     〒332-0012 川口市本町4-1-8
     TEL:048-226-5635
     FAX:048-226-1164

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