別添1

第35回「科学技術情報振興賞」受賞者とその業績・功績


1.論文賞(1件)

対象: 化学反応の汎用的数値化法・系統的自動分類法・予測法の研究
氏名: 佐藤 寛子  科学技術振興事業団 さきがけ21「情報と知」領域研究員
概要: 「任意の化学反応の定量的予測」が佐藤氏の目指す最終目標である。反応の多種多様さと複雑さのため、任意の反応の一般理論は未確立である。一方、化学者は、積み上げた実験事実や経験から得られる法則や規則を駆使し、あるいは例外を見つけだし新たな事実や経験をさらに積み上げ研究を展開している。これらの化学情報はたくさんの書物や様々なデータベースに蓄積されている。化学情報は、化学の発展に欠くことのできない貴重な知的資源である。本研究ではこの点に着目し、蓄積された大量の反応情報を活用した、化学反応の支配因子に基づく反応の特性化・系統的分類・予測モデル構築を行うことを目的とする。

反応の支配因子のうち、反応部位の電子的特性変化量で反応を数値化し、これを識別子として反応を自動分類し、化学者の認識する反応の類似性との高い相関関係を見出した。次に仮想反応相手との電子量・立体的相互作用に基づき分子を三次元空間的に数値化する新規手法FRAUを開発した。FRAUの特性値を用い、反応試薬の機能の類似と相違を識別する主要因子を見出し、種々の構造を持つ試薬の同次元数パラメータでの表現を達成した。これらの成果と、進行しなかった反応を取扱えるよう改良した Counter-propagation ニ ューラルネットワークを用いて、試薬の機能の程度を精度良く予測する試薬 ―機能予測モデルの構築に成功した。

2.功労賞(2件)

対象: 幅広い分野における永年にわたる科学技術情報活動の振興に対する多大の貢献
氏名: 南部 和夫  前帝京平成大学 情報学部 教授
概要: 企業において、研究開発、図書管理、技術情報サービスシステムの構築、特許管理、技術情報管理を推進した。その間、昭和51年より社団法人情報科学技術協会において、理事、監事、副会長を歴任し、同協会、日本科学技術情報センター(当時)、その他関連協会の会誌などに研究成果・経験談を多数発表した。平成6年から5年間、帝京平成大学情報学部において情報科学技術に関する研究・講義を行い、学生を指導した。このように産業界、学協会、教育界と広い分野で永年にわたり科学技術情報の普及・啓発に尽力することにより、科学技術情報活動の振興に多大の貢献をした。


対象: 薬学領域における情報活動の推進に対する多大の貢献
氏名: 遠藤 浩良  帝京大学薬学部 学部長
概要: 日本薬学図書館協議会の役員、会長として永年にわたり、その運営、発展に尽力してきた。その間、同協議会を大学図書館や企業図書館相互の交流、連携を推進する中心機関にまで発展させ、最近では海外の図書館とも交流し、図書館員に派遣、資質の向上に努めるなど、薬学領域における情報活動の推進に大きく貢献した。
また、早くから近未来における医薬品情報の必要性を認識し、昭和55年度より大学で「医薬品情報科学」を開講し、現在に至っている。これは薬学部における医薬品情報教育の先駆をなすものであり、今日の状況に鑑みてその意義は極めて大きい。さらに、医薬品情報の患者への提供についてもその必要性、意義を早期より説き、社会的啓蒙にも実績を上げている。

3.研究集会優秀発表論文賞(1件)

対象: 特許異議申立のための資料探索
―数値限定特許に対する先行文献の検索手法の提案―
氏名: 日本PLASDOCオンライン研究会関西グループ 代表 谷井久美子
概要: 日本PLASDOCオンライン研究会関西グループにおいて、2年がかりで検討したテーマの研究報告である。同業他社の情報検索担当者が参集し、共通に抱えている難問を取り上げ、協力して研究することで、個人単位では達成困難な成果を得ることができた。数値限定特許の無効化の事例研究からスタートし、その結果を基に検索手法を提案して、その有効性を論理的に解析して実証した。
数値限定特許を無効化するための資料検索は一般に難しいとされている。その理由は、限定された数値を検索する難しさにある。そこで、オンライン検索でこれらの資料を探すのに効率的な方法はないのか検討を行った。

これまでに数値限定特許がどのような証拠書類で無効化されているのか事例研究を行い、本願特許と引用における「発明の効果」と「数値重複」の関係について調べたところ、当該特許と同一効果の引例を用いているケースが多かった。そこで、数値限定特許をつぶすための資料をオンライン検索で探すのに、通常よく行う「クレームの構成要件」で検索する方法でなく、クレームには含まれない「発明の効果」に着目して検索する方法を提案し、その有効性を実証した。

高分子化学分野で数値限定特許が比較的多く、これを無効化するための資料探索は容易ではない。しかし、本検討の結果、「発明の効果」に着目した検索を行うことで、数値限定特許をつぶすための資料を効率的に探し出す可能性が高くなった。従来ならおそらく熟練者のカンに頼らざるを得なかったような難しい調査において、本報告の事例検証に基づいた新しいアプローチ法は特許調査を行う者にとって、極めて有効な手段である。

This page updated on October 5, 2000

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