(お知らせ)


平成12年6月20日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話048-226-5606(広報担当)

個人研究推進事業における成果について
「細胞移動を制御する新しいタンパク質分解酵素を発見」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎 雅弘)の個人研究推進事業において、研究課題「細胞移動を制御する形態形成場遺伝子の同定」(研究者 西脇 清二 日本電気株式会社 基礎研究所 主任研究員)に関して行われた研究で、細胞の移動方向を制御する新しいタンパク質分解酵素を発見した。本成果は6月23日付の米国科学誌「サイエンス」にて発表される。

 動物の体の複雑な組織や器官はどのようにして形作られるのだろうか?組織や器官が正しく形成されるには、細胞が決まった時間に、決まった方向に、決まった距離だけ移動する必要がある。最近、そのメカニズムを分子レベルで解明するための研究が活発に行われている。このような研究により癌細胞の浸潤・転移やそれに伴う血管新生など細胞移動が関係する病気の予防法や治療法が開発されることについて期待されている。
 一方、C.エレガンス(線虫)では受精卵から成虫に至る細胞系譜が完全に解明されており、発生過程での細胞移動も個々の細胞単位で全て分かっている。また1億塩基対の全ゲノム解析(ヒトの約30分の1)が終了し、多くの遺伝子が哺乳類と類似していることが明らかとなった。このような背景から、本研究ではC.エレガンスを用いて細胞移動の制御機構を探った。
 C.エレガンスはU字型の生殖巣を持つが、これは生殖巣ができる過程でその先端の細胞がU字型の経路を移動を行うためである。まず、C.エレガンスのmig-17遺伝子を壊すと生殖巣の先端細胞が正常な経路を移動できなくなり、蛇行したり、迷走したりした。mig-17遺伝子はメタロプロテアーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素の一種(MIG-17と命名)を生産し、この酵素が生殖巣の表面に付着すると先端細胞がU字型に移動することが分かった。MIG-17が生殖巣表面のある種のタンパク質を分解することにより、先端細胞が正常な経路を認識できるようになると考えられる。この成果は細胞の移動方向制御にタンパク質分解酵素が働くことを初めて示したものである。
 このことは、機能は未解明であるが、MIG-17と似たタンパク質分解酵素がヒトにもあることが分かっており、ヒトの器官形成や癌の転移などのメカニズム解明への糸口となると考えられる。

論文名 A metalloprotease disintegrin that controls cell migration in Caenorhabditis elegans
(C.エレガンスの細胞移動を制御するメタロプロテアーゼ-ディスインテグリン)
doi:10.1126/science.288.5474.2205
研究の概要
科学技術振興事業団 個人研究推進事業「遺伝と変化」領域(領域総括 豊島久真男)
研究テーマ 「細胞移動を制御する形態形成場遺伝子の同定」
研究者 西脇清二 日本電気株式会社 基礎研究所 主任研究員
研究実施場所 日本電気(株)基礎研究所
研究実施期間 平成8年10月〜平成11年9月

注)
C.エレガンス:正式名はCaenorhabditis elegans。体長1mm程度で、動物の発生に関わる遺伝子研究のモデル動物として世界中で使われている。
生殖巣:卵や精子を作る器官。卵巣や精巣などに相当。

図の説明

(問合せ先)
(1) 西脇 清二(ニシワキ キヨジ)
日本電気株式会社 基礎研究所
〒305-8501 茨城県つくば市御幸が丘34番地
TEL: 0298-56-6106、FAX: 0298-56-6136
(2) 日江井 純一郎(ヒエイ ジュンイチロウ)
科学技術振興事業団 個人研究推進室
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
Tel 048-226-5641、Fax 048-226-2144

This page updated on June 23, 2000

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