(お知らせ)


平成12年6月7日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団  
電話(048)-226-5606(総務部広報担当)

「小脳にある受容体が運動制御に必須であることを解明」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「遺伝子変換マウスによる脳機能の解明」(研究代表者:勝木元也東京大学教授)で進めている研究の一環として、小脳で働く神経伝達物質グルタミン酸の受容体(注1)の一種であるmGluR1が運動制御などに必須であることを解明した。この研究成果は、東京大学医科学研究所の饗場篤助教授らによって得られたもので、6月9日付の米国科学雑誌「サイエンス」で発表される。

 小脳は脳の中で主に運動調節を行う器官であると考えられており、その内部では神経細胞の一つであるプルキンエ細胞(注2)が2種類の線維(一本の登上線維および多数の平行線維)(注3)からそれぞれ情報を受けている。この2種類の線維を同時に繰り返し刺激すると、平行線維と細胞との間の情報伝達の効率が長期(1時間以上)にわたって減少する長期抑圧という現象が知られている。この長期抑圧は運動を学習する基礎となることがこれまでの研究から予想されている。また、グルタミン酸は脳の主要な興奮伝達物質で、神経細胞間の接点であるシナプスの情報伝達、記憶学習、細胞死などに深く関与している。
 すでにグルタミン酸の受容体の一種であるmGluR1を欠損したマウス(mGluR1ノックアウトマウス)を作成しており、このマウスが歩行の異常を示すことや小脳において長期抑圧が生じないことを明らかにしてきた。しかしmGluR1ノックアウトマウスではプルキンエ細胞以外の部位での遺伝子欠損も生じているため、こうしたマウス個体レベルでの異常の原因が脳のどの領域、もしくは細胞でのmGluR1の欠損によるのかを厳密に検証することは困難であった。

 そこで今回、mGluR1がプルキンエ細胞のみで発現するマウスを作成し、解析したところmGluR1ノックアウトマウスで見られた歩行異常が正常にもどり、運動を制御する能力が回復した。従って、プルキンエ細胞に存在するmGluR1が運動制御に必須な分子であることを明らかにすることができた。

 今回の成果はこれまで推定はされてきたが厳密に検証することができなかった小脳プルキンエ細胞のmGluR1の役割を解明した点およびmGluR1がプルキンエ細胞のみで発現するマウスを作成した難易度の高い技術を用いた点で評価されたと思われる。

 この研究成果は、小脳の障害により引き起こされる歩行障害や言語障害などの治療に道筋をつける可能性があると思われる。

 この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
 研究領域:脳を知る(研究統括:大塚正徳日本臓器製薬(株)生物活性科学研究所顧問)
 研究期間:平成7年度-平成12年度

(注1) ホルモン、神経伝達物質などの外来性の物質が何らかの細胞応答を引き起こすときに、その物質を特異的に認識するシグナル伝達の入口のこと。レセプターともいう。
(注2) 小脳に存在する神経細胞の一種で、人体の細胞の中で最も大きな細胞の一つ。運動に関わる様々な現象がこの細胞を介して起こる。
(注3) 神経細胞には信号を受ける樹状突起と呼ばれる部分と、別の神経細胞へ信号を伝える線維と呼ばれる部分がある。プルキンエ細胞は、同じ小脳にある顆粒細胞と呼ばれる神経細胞から伸びる平行線維と、延髄にある下オリーブ核細胞と呼ばれる神経細胞から伸びる登上線維より情報の入力を受けている。

マウス脳におけるmGluR1の発現分布の様子

本件問い合わせ先:

(研究内容について)
勝木元也(かつきもとや)/饗場 篤(あいばあつ)
東京大学医科学研究所
  〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1
  TEL:03-5449-5330
  FAX:03-5449-5451
(事業について)
石田秋生(いしだ あきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部
  〒332-0012 川口市本町4−1−8
  TEL:048-226-5635
  FAX:048-226-1164

This page updated on June 9, 2000

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