(お知らせ)


平成12年6月1日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団  
電話(048)-226-5606(総務部広報担当)

「アルツハイマー病の発症との関連を示唆する酵素を発見」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)が戦略的基礎研究推進事業の一環として進めている研究テーマ「細胞増殖の制御機構」(研究代表者:岸本健雄東京工業大学教授)において、タンパク質分解酵素の一種であるカルパインがアルツハイマー病発症に関与していることが示唆された。この研究成果は、東京都立大学理学研究科の久永真市教授のグループなどによって得られたもので、6月2日付の米国科学雑誌「ジャーナルオブバイオロジカルケミストリー」で発表される。

 アルツハイマー病は老人性痴呆の主要な原因の一つであり、高齢化社会を迎えその予防や治療は今後の大きな問題となっている。人の脳では生まれたときから死ぬまで入れ替わることなく同じ神経細胞が使われているため、神経細胞が死んでしまうと、その神経細胞が担っていた役割が失われ、様々な障害が起きる。例えば、記憶に携わっていた神経細胞が死んで消失すれば痴呆が生ずることになる。
 アルツハイマー病では、老化に伴い脳の神経細胞が正常な人より早くまた多く死んでしまう。その結果、脳が萎縮し、痴呆症状が現れる。従って、痴呆を予防するにはアルツハイマー病患者の脳内での神経細胞の死の仕組みを明らかにすることが一つの手がかりとなる。ところが、現在のところ、どのように神経細胞が死んでアルツハイマー病になるかその詳しい仕組みについてはまだ解明されていない。

 昨年暮れ、ハーバード大学のグループによって、p25というタンパク質がアルツハイマー病の発症に関与している可能性が報告された。正常な脳内の神経細胞では、p35と呼ばれるタンパク質がCDK5(注)と呼ばれる酵素の一部として存在するが、アルツハイマー病の脳内の神経細胞では、p35がp25へと変化し、これが神経細胞死を引き起こすというものである。
 今回、p35からp25へと変化させる酵素が、カルパインというタンパク質分解酵素であることを明らかにした。

 ラット脳を用いてCDK5を調べたところ、p35からp25への分解がカルシウムによって促進されることが判った。従来より、タンパク質分解酵素の一つであるカルパインはカルシウムにより活性化されることは知られていたので、この研究ではカルパインの関与を疑い、カルパインの働きを抑える阻害剤を加えたところ、p35からp25への分解が阻害された。
 また、精製したカルパインにより、p35からp25への分解が見られた。この反応は試験管内でも、神経細胞内でも確認された。

 カルパインは以前から知られていたタンパク質分解酵素であるが、生体内で果たす役割についてその全容は未だ解明されていない。今回、カルパインは、神経細胞死、特にアルツハイマー病と関連があることが示唆された。今回の発見により、カルパインがp25を生成することを阻害剤などによって抑えられれば、アルツハイマー病の発症や進行を遅らせることができる可能性が示されてきたもの考えられる。

 この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
 研究領域 生命活動のプログラム(研究統括:村松正實埼玉医科大学特任教授)
 研究期間 平成7年度−平成12年度

(注)CDK5とは、細胞分裂を引き起こす因子(サイクリン依存性キナーゼ、CDK)の仲間で、細胞分裂をしない神経細胞にだけ存在しているリン酸化酵素

補足説明

本件問い合わせ先:

(研究内容について)
   久永 真市(ひさなが しんいち)
東京都立大学 理学研究科
 〒192-0397 八王子市南大沢1−1
 TEL:0426-77-2577
FAX:0426-77-2559(生物学科事務室)
(事業について)
   石田 秋生(いしだ あきお)
    科学技術振興事業団 基礎研究推進部 
 〒332-0012 川口市本町4−1−8
 TEL:048-226-5635
 FAX:048-226-1164

This page updated on June 1, 2000

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