お知らせ


平成12年5月15日
埼玉県川口市本町4−1−8 
科学技術振興事業団
電話(048)-226-5606(総務部広報担当)

「地球温暖化ガスのアイソトポマーを計測する
新たな手法を開発し、その観測に成功」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)は、戦略的基礎研究推進事業の研究領域「環境低負荷型の社会システム」(研究統括:茅 陽一 慶応義塾大学 客員教授)の研究テーマ「アイソトポマーの計測による環境物質の起源推定」(研究代表者:吉田尚弘 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授)で進めている研究の一環として、地球温暖化ガスの一つである一酸化二窒素(N2O)を詳細に計測し、N2O分子を構成する同位体(注)の違いを解析する新たな手法を開発するとともに、実際の大気中に存在するN2Oの観測に適用することに初めて成功した。これによって、これまで不明な点が多かったN2Oの大気中での挙動などについて定量的に把握することができた。この研究成果によって、N2Oをはじめとする地球温暖化ガスなどの起源とサイクルが解明され、環境変化の将来予測が可能となることなどが期待される。なお、この研究成果は東京工業大学大学院の吉田尚弘教授のグループによって得られたもので、5月18日付けの英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 地球温暖化ガスなど、環境中に存在する物質には、化学式は同一であっても分子中に存在する同位体の違いや、その位置、組み合わせなどによって、性質が少しずつ異なる分子種(分子の種類)が無数に存在する。これらの分子種はアイソトポマーと呼ばれ、物質の起源やサイクル(図1)によって異なってくるため、アイソトポマーを解析することによって、その物質の起源は何であったか、どのような過程、環境で生成されたか、生成後にどのように変質したか、どのような過程、環境で消滅しているのか、といったことを知ることができる。

 N2Oは、地球温暖化ガスであるとともに、オゾン層の形成や消滅などにも深く関わっている重要な大気成分である。自然界には5種類のアイソトポマーが存在することが知られている(図2)。一般に、アイソトポマーの違いは、種類によって質量がわずかに異なることを利用して、質量分析を行うことで知ることができるが、自然界に存在する5種類のN2Oアイソトポマーのうち、141516Oと151416Oについては、質量が等しいために各々の存在量を分離して知ることはできなかった。

 N2Oは、NOイオンとNNOイオンに分離する。141516Oと151416Oの二つのアイソトポマーは質量が同じだが、できた14NOイオンと15NOイオンは質量が異なるため、今回、N2Oからから生じたNOイオンとNNOイオンを質量分析することによって、2つのアイソトポマーの量を分離して知ることに成功した。
 この方法は、約100ミリリットルという極めて少量の大気があれば計測できるため、成層圏大気のように試料として入手が困難で、入手できてもわずかの量しか得られないサンプルの計測にも適用できる特徴を併せ持っている。

 この方法を実際の大気観測に適用してみたところ、高さ10km以上の成層圏では、地表の大気に比べて141516Oの割合が急激に増えていることが分かった。これは、対流圏のN2Oが上昇して成層圏に到達し、紫外線の影響を受けた結果、151416Oに比較して141516Oの割合が急激に増えたものと考えられる。また、観測結果をもとにモデルによって解析した結果、成層圏から対流圏に逆向きに戻ってくるN2Oの量が予想外に多いことがわかり、N2Oが大気中を循環している様子を定量的に把握することができた。さらに海洋や陸の生態系の調査が進めば、地球温暖化ガスなどの発生源としての海、陸、微生物、人類活動の影響などが、より詳細に明らかにされることが期待される。

 今回の計測方法は、現在開発中の超高分解能質量分析器と組み合わせることによって、N2O以外の地球温暖化ガスや、その他さまざまな環境に存在する物質に応用できる可能性を秘めている。今後、これらのアイソトポマーを計測することによって、地球温暖化ガスなどの環境物質の起源とサイクルが解明され、環境変化の将来予測が可能となると期待される。

(注) 同位体:
同位体とは、原子番号は同じであるが、質量数の異なる原子のことである。0.02か ら4%程度存在する安定同位体と極微少量存在する放射性同位体があり、本研究は安定同位体の自然存在度の計測と解析に関わるものである。
本件問い合わせ先:
(研究内容について)
  吉田 尚弘(よしだ なおひろ)
   東京工業大学 大学院 総合理工学研究科
   〒226-8502 横浜市緑区長津田町4259
   TEL:045-924-5506 FAX:045-924-5519
(事業について)
  石田 秋生(いしだ あきお)
   科学技術振興事業団 基礎研究推進部
   〒332-0012 川口市本町4-1-8
   TEL:048-226-5635 FAX:048-226-1164

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