(お知らせ)


平成12年 3月 3日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話048-226-5606(総務部広報担当)

「100万ボルト電子波干渉型電子顕微鏡を完成し、
分解能の世界記録を樹立

  科学技術振興事業団(理事長 川崎 雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究領域「極限環境状態における現象」(研究統括:立木 昌 金属材料研究所 客員研究官)における研究テーマ「電子波の位相と振幅の微細空間解像」(研究代表者:北澤宏一 東京大学大学院 教授)の一環として、4年がかりで開発してきた、「100万ボルト電子波干渉型電子顕微鏡」が完成し、50ピコ(10-12)メーターをきる格子分解能(*注1)の世界記録を達成した。この成果は(株)日立製作所基礎研究所(所長:小泉英明)の外村彰フェローのグループと、(株)日立製作所計測器グループ・ビームテクノロジーセンターのグループ、 東京大学大学院新領域創成科学研究科の北澤宏一教授のグループとの共同研究により得られたもので、3月6日付の米国科学雑誌「アプライド フィジクス レターズ」で発表される。

 高温超伝導の磁束ピン止め(*注2)メカニズムを解明するためには、性能・機能がより優れた電子顕微鏡が求められている。それには、電子波の干渉性や輝度を高めること、波長を短くすることが必要である。
20年以上前から、アメリカ・フランス、さらに最近では名古屋大学においても、干渉性や輝度が高い電子線をもった超高圧電子顕微鏡の実現に向けた挑戦がなされてきた。
今回、名古屋大学で開発された技術をさらに発展させて、電子加速管・電子銃、電子銃制御用電源、高電圧発生装置を分離し、別々のタンク内に隔離・収納して、直流・交流を完全に分離し、高圧ケーブルによって接続するという、3タンク・ケーブル結合方式などの技術(図1)を開発した。これによって、極めて安定な高圧電源と、極限近くまで振動が抑制された構造を実現し、世界で初めて100万ボルトの高輝度電子線を備えた電子波干渉型電子顕微鏡(図2)の開発に成功した。この電子線は、エネルギーのばらつきが従来の十分の一で電子波の干渉性が高く、しかも従来の千倍の明るさを備えている。また100万ボルトの電圧で電子が加速されるため電子波の波長が0.9ピコメーターと極めて短いという特徴を有する。
この顕微鏡を用いて金の薄膜を観察した結果、斜めから見た結晶格子に対応する“原子間隔よりも狭い微細構造”(49.8ピコメーターの結晶格子像)を観察することができた(図3)。 この格子分解能の世界記録樹立は、超高圧電子顕微鏡本来の高分解能性能が初めて達成されたことを意味する。
(株)日立製作所基礎研究所では、これまで35万ボルトの電子波干渉型電子顕微鏡により、電子線の波の性質を利用して微細な現象を観測できる技法(ローレンツ顕微法や電子線ホログラフィー)を開発し、ナノ(10-9)メーター領域における磁性体中の磁場や超伝導体中の磁束の糸(磁束量子)の観測を可能にしてきた。今回の100万ボルトの電子顕微鏡では、電子線の干渉性や透過能が一段と向上するため、今まで試料が厚いために観測の制約を受けていた高温超伝導体中の磁束量子の特異な挙動を観測する道が開ける。この装置は、超伝導体への応用にとどまらず、半導体中の局所的な電場分布の観察、これまで見えなかった極微構造の高分解能観察など、極微の世界の極限計測から量子力学の基礎現象の解明にいたるさまざまな分野で、新しい道を切り開くツールになるものと期待される。

(*注1)格子分解能:観察しうる最も細かい結晶格子像の縞間隔。電子顕微鏡の総合性能を示す指標
(*注2)磁束ピン止め:超伝導体を無損失の送電線やリニアモーターカーに利用する際に必要とされる、“磁束量子を動き出さぬよう固定する”方法

補足説明資料

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本件問い合わせ先:
(研究内容について)
 小野 義正(おのよしまさ)
  (株)日立製作所基礎研究所
  〒350-0395 埼玉県比企郡鳩山町赤沼2520
  TEL:0492-96-6111 FAX:0492-96-6005

(事業について)
  石田 秋生(いしだ あきお)
   科学技術振興事業団 基礎研究推進部
   〒332-0012 川口市本町4-1-8
   TEL:048-226-5635 FAX:048-226-1164
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