(補足説明資料)


 結晶中に入射した電子線は、規則正しく並ぶ原子の配列によって回折現象をおこし、多数の波に別れて出てくる。電子顕微鏡ではこの多数の波を電子レンズで集めて結像し、結晶中の原子配列の様子を像として直接観察できる。少ない数の波を使って結像した場合には、結晶格子像が得られる。得られる縞の間隔は、原子面の間隔に対応して、はっきりと定まっているため、分解能の指標として使われてきた。今回49.8ピコメーターという原子よりも狭い結晶格子像を観察できたのは、100万ボルトという高電圧で加速された電子が、その短い波長のために狭い面間隔格子でも波を生じ、さらに電子線の平行度や単色性が良いために、電子レンズの収差の効果が軽減され、分解能の向上に結びついたためである。ここでいう分解能は “格子分解能”のことで、観察しうる最も細かい結晶格子像の縞間隔のことを指し、電子顕微鏡の総合性能を示す指標である。

これに対して、近接した2つの点物体を見分ける能力は“点分解能”と呼ばれ、対物レンズの性能と電子線の波長で決まる。格子分解能が50ピコメーターを切ったということは、電子線ホログラフィーなどレンズ収差を小さくする方策を用いてレンズ性能を向上させることができれば、現在100ピコメーターが限界になっている点分解能を50ピコメーターまで向上しうることを意味する。

今回完成した100万ボルトの高輝度高干渉電子線を備えた超高分解能電子顕微鏡によって、今後高温超伝導体中の磁束量子の挙動や磁束ピン止め現象の解明によって、高温超伝導体の実用化を目指した研究が大きく進展するものと思われる。

発表論文: T. Kawasaki, T. Yoshida, T. Matsuda, N. Osakabe, A. Tonomura, I. Matsui and K. Kitazawa: "Fine crystal lattice fringes observed using a transmission electron microscope with 1-Mev coherent electron waves" Applied Physics Letters 76 No.10 (2000) 1342-1344.


This page updated on March 16, 2000

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