研究課題別研究評価
研究のねらい: | |
進行性筋ジストロフィーは原因遺伝子が同定されているが、発症機構に関しては未知である。本研究ではサルコグリカンを原因遺伝子とする常染色体劣性型筋ジストロフィーについて、 原因蛋白質の機能解析と発症メカニズムの解明を狙いとした。本研究では、サルコグリカン遺伝子破壊によるモデルマウス作成とその病態解析、原因蛋白質複合体の発現制御と分子会合に関する解析を行った。 | |
研究結果及び自己評価: | |
β-サルコグリカン(SG)及びγ-SG遺伝子ノックアウト(KO)マウスを作成した。両KOマウスは共に、筋発生には何ら障害はなく、筋形成後に近位筋に特徴的な仮性肥大、筋力低下も見られ、進行性の筋ジストロフィー様の症状を呈した。このマウスの作成により、
筋繊維の変性・ 再生、筋組織の繊維化・ 石灰化、結合組織の増大などの筋組織像を経時的に観察し、筋組織を把握することが出来た。さらに筋細胞膜の脆弱化の所見が示唆された。これらのKOマウスではサルコグリカン複合体の消失・著減に伴うジストロフィン分子の筋細胞膜への結合の不安定化がみられ、このことが筋細胞膜の脆弱化を引き起こし、筋繊維の変性を起こす一因と考えられた。 発現制御に関する研究から、SG複合体は細胞内で形成され後、表面膜に運ばれること、4 つのSG各成分及び他の結合蛋白質の会合過程の詳細を明らかにした。患者筋では原因遺伝子に特徴的なSG成分の残存パターンを示すことが知られているが、この会合過程からそれらを説明することが出来た。さらに、転写レベルの解析から、SG成分には筋分化に関係しない成分と分化に伴って発現が上昇する成分が存在したが、複合体会合過程においては筋分化非依存性成分がはじめに会合し、筋分化依存性成分が後で会合してくることが分かり、完全な複合体の形成には転写調節が関与し得ることが示唆された。また、筋分化での転写上昇に関わるプロモーター領域の特徴付けを行うとともに、このプロモーター領域が個体レベルでも骨格筋分化に対し応答することを示すことが出来た。 自己評価としては当初最低限の目標として考えていたKOマウスの作成と病態解析、発現制御の課題については概ね達成できたと考えている。KOマウスがヒトの疾患と同様の表現系を示したことが、病態の解析についての解析方法のヒントとなったため、比較的解析の方向性が決めやすかった。今までヒトの疾患で明らかにされていなかった仮性肥大、サルコグリカンの欠損による筋繊維変性・再生サイクルを経時的に記述することができた。さらに、複合体形成過程の解析を通して、今までヒトの疾患では複合体消失メカニズムについて各成分分子間の結合様式という概念のみで考えられていたことを、複合体形成過程の進行の成否という概念に発展させることが出来たことが収穫であった。さらに、分子レベル-細胞レベル-個体レベルと並行して解析することで、病態の理解につなげることが出来た点が収穫であった。 しかしながら、反省すべき点もある。もっとも知りたい大目標として考えていたSGの機能についてのアプローチはほとんど出来なかった。これはKOマウスを利用して行うつもりであったが、当初考えていたよりも作成に時間がかかり、基礎的な病態に関するデータを採ることに時間がかかってしまったせいである。また、ジストロフイー筋でのSG消失メカニズムについての解析でも、培養株化筋細胞を用いた系では変異SG分子が野生型同様に発現してしまうなど、考えていた系自体に問題があり、これにもKOマウスからの筋細胞を用いる必要性があった。つまり、これらの解析にとっては本研究でのKOマウスの作成及び発現制御の解析はやっと道具立てが終わった段階と言える。これからの課題としてはさきがけ研究3年間で得た材料・知見をもとに、SG分子の機能を知るため「SGが無いことによって、KOマウス筋において実際にいかなることが起こっているのか」、「何故それが筋繊維の変性につながるのか」について研究をつなげていきたい。 | |
領域総括の見解: | |
SG欠損型の筋ジストロフィーはいくつかの遺伝子の欠損がみつかりもう大体見当がついたかと思っていたが、実は、SG複合体形成と、その異常が発病に大きく関わり、その研究が治療の開発にも重要であることが分かって来た。今後、遺伝子治療などへの応用も含めた展開が期待される。 | |
主な論文等: | |
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This page updated on March 30, 2000
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