研究課題別研究評価
研究のねらい: | ||
哺乳類を含めた脊椎動物の神経系発生の開始スイッチを入れる分子は何か?、という問いに答え、複雑な脳の構成原理に迫ることを目的とする。さらに神経前駆細胞から個性を持ったニューロンに分化する際に働く因子を同定する。 | ||
研究結果及び自己評価: | ||
以前に単離していた神経誘導因子Chordin を用いてアフリカツメガエルの外胚葉を神経細胞に試験管内で分化させ、その際に誘導される遺伝子をデファレンシャル・スクリーニングによって多数同定した。そのうち3つの転写因子(Zic-related
1, Sox2, SoxD)はこれらはごく初期の神経板全体に発現していた。微量注入法の解析の結果、Zic-related
1, SoxD は外胚葉の神経分化を直接的に誘導することが明らかとなった。一方、Sox2は単独では働かず、FGF
と協同的に働いて神経分化を誘導し、コンピテンスを変化させる因子と考えられた。Sox2の機能阻害実験ではすべての神経組織の分化が強く抑制され、神経発生に必須の遺伝子と考えられた。また神経の個性付けを与える新規のパターン形成因子を単離する目的で初期神経板cDNAを用いたシグナル・ペプチド・セレクション法によるスクリーングを行い、多数の新規分泌因子を同定した。そのうち1つは神経パターン形成に重要な底板に発現し、構造上神経誘導因子Chordin
とホモロジーを有しており、Kielinと名付け現在機能解析を行っている。これらアフリカツメガエルで得られた研究成果をさらにマウスの系で解析検討中であり、ES細胞分化系による再生医学的応用に結びつける基盤研究を進めている。 自己評価: 神経誘導因子の下流遺伝子による神経分化初発制御機構の分子解析は非常に順調に進み、予定よりかなり早く (2年程度で) 一応の成果が得られた。これは非常に競争が厳しい世界で大変であったが、ある意味で「なすべきことを成した」研究ともいえると思う。最後の年は大まかな神経分化初発制御機構のカスケードがわかってきたので、さらに1つ1つの細胞レベルでの分化制御を明らかにし、細胞間相互作用と分化パターン制御を結びつけるべく難しい実験系を作ろうとした。例えばシグナル・ペプチド・セレクション法やsingle cell PCR やtransgenic frog、そしてマウスES細胞の分化系などである。これらについてはまだまだ格闘中で、これからの2-3年でおもしろく展開したいと思っている。自分の場合、さきがけ任用時(京大医学部赴任)と3年目(再生医科学研究所赴任)と2回移動があり、難しい「オリジナリティの高いもの」よりどうしても「研究が進みやすい部分」が前に出てしまった感じがする。しかし、それにしても今後の研究を進める上での大事な基盤ができ、自分をしてはさきがけで得たものを土台にこれからの数年チャレンジングなプロジェクトを進めることができると期待している。 | ||
領域総括の見解: | ||
神経分化に関する分子面からの有力な若手研究者。十分な実力をもち、高い成果を上げている。まだあまり大きくないグループを指揮する状態になったようだ。これからも研究費を獲得し、この分野の中心になって行くと期待している。また、神経分化初期制御機構のカスケードが分かってきたので、今後ヒトの再生医療分野への応用も期待される。 | ||
主な論文等: | ||
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This page updated on March 30, 2000
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