研究課題別中間評価結果(極限6)


1.研究課題名

 反強磁性量子スピン梯子化合物の合成と新奇な物性

2.研究代表者名

 高野 幹夫  京都大学 化学研究所 教授

3.研究概要

 本研究課題では新奇な構造と量子物性を有する新物質を創製し、極低温、超高圧、強磁場下でその物性を測定して新現象を発見することが目的である。新物質の創製および試料の作成には高圧合成法、水熱合成法、薄膜作成法、浮遊溶融体法、微細加工技術等を駆使し、構造や物性の探索ではX線回折、電気伝導度、比熱、帯磁率、等々の種々の測定を行なう。新物質の探索は主として遷移金属酸化物系に狙いを定め、特に1次元的構造から2次元的構造へ移り変わる初期の過程を体現する梯子格子構造における超伝導性や、ペロブスカイト型酸化物の巨大磁気抵抗効果などに注目して行なう。
 新奇物質を創製すること、およびそれらの良質結晶や薄膜等を作製して電子状態の解析ならびに新機能探索を行なうことが本研究の主眼であり、これらの遂行によりひいては我が国の固体化学の振興に寄与する。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 当研究チームではSrCu2O3、Sr2Cu3O5、La2Cu2O5の特異な構造を持つスピン梯子化合物の発見に端を発した後も梯子化合物Sr14Cu24O41、Sr14-xCaxCu24O41、A14-xRExCu24O41の合成の他に、1次元反強磁性交替鎖物質(VO)2P2O7、三角格子物質LiNiO2、Halden系物質Y2-xNdxBaNiO5 等の新物質の合成にも成功し、これらをNMR、NQR、μSR、XPS、電気伝導度、帯磁率、比熱、X線回折、中性子回折、光電子分光などの測定手段によって調べ、それぞれの新奇な電子的物性の根源を探索している。新物質の合成には性能を高めた高圧合成法に加えて水熱合成法、浮遊溶融体法、レーザー照射薄膜作製法を取り入れたことから、(VO)2P2O7単結晶(高圧合成)、LiNiO2、LiV2O4単結晶(水熱合成)、Y2-xNdxBaNiO5(浮遊溶融)、Sr14-xCaxCu24O41薄膜(レーザー照射)化合物を得た。またPbを過剰に添加したBi系超伝導体単結晶を作製し臨界電流密度の大幅な向上に成功した。
 採択研究課題は「スピン梯子化合物の合成と新奇な物性」であるが、対象を梯子化合物に限ることなく1次元反強磁性交替鎖物質、三角格子物質、Halden系物質、Bi系超伝導体にまで広げている。
 当研究チームが発見したスピン梯子化合物は電子物性の研究に携わる内外の実験家・理論家の注目を集め梯子化合物の研究が世界的に行われた。
 当チームの物質合成並びに精密物性測定のポテンシャルは一流であり、研究実施期間の前半では物質合成と物性測定が研究に占めるウェイトはほぼ互角で、それなりに妥当であったが、後半は物質合成にやや重きを移して更なる新物質の開発、単結晶、薄膜の作製に力を入れる方針である。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 これまでに新しい化合物Sr14Cu24O41、Sr14-xCaxCu24O41、A14-xRExCu24O41、(VO)2P2O7、LiNiO2、Y2-xNdxBaNiO5 等の合成を行い、それらを種々の測定手段を用いて調べ、新奇電子物性の起因を探索した。またビスマス系超伝導体に鉛を過剰に添加して臨界電流密度を大きく高めた。固体電子物理学に波紋を投げた発見はこのPb過剰添加Bi系超伝導体の特性向上の他に数々あり、例えば非磁性のSrCu2O3のCuを僅か0.5%のZnで置換することにより反強磁性秩序が出現する、YBa2Cu4O8に磁場を負荷するとキャリアが1次元鎖に閉じこめられる現象(磁場誘起次元差と命名)が起きる、LiNbO2ではスピンと軌道の自由度が結合した液体状態(フレーバー液体状態)が実現している、Sr14-xCaxCu24O41ではホールが CuO2鎖からCu2O3梯子格子へ移動している、Sr14-xCaxCu24O41を加圧するとホールがCuからOに移動し、擬1次元系から擬2次元系へのクロスオーバーが起きる、角度分解光電子分光によりBi2212のフェルミ面と超伝導ギャップの対称性を決定したこと、等である。
 研究期間後半に高温高圧、水熱、浮遊溶融、レーザー照射成膜等の合成装置を用いて種々の新物質、機能素材の発掘が行われ、また既知の物質についても単結晶化、成膜化が行われる。新物質探索の当面の方向としてはペロブスカイト、スピネル、パイロクロア型の遷移金属酸化物に狙いを付けている。
 当チームで作成した物質の詳細な物性測定及びその起源探究から興味有る現象が種々発掘されることと期待出来る。特にレーザー照射成膜法により作製される種々の新物質薄膜には機能素子材料として実用になるものが出て来る可能性が有る。
4-3. 総合的評価
 新奇化合物梯子系をはじめ低次元量子スピン系の新現象をかなり明らかにし、また3d遷移金属酸化物LiV2O4ではじめて重いフェルミ液体状態を発見するなど、所期の成果を挙げて来ている。このように本研究チームは科学的に質の高い成果を挙げているが社会的インパクトも具えるには、できれば応用に近い物質・機能性の探索へ重心を移し、高圧、水熱、薄膜合成法を駆使して梯子系以外の新物質の探索、巨大磁気抵抗効果ジョセフソン励起によるミリ波発信等の研究を進めて行くことが望ましく思われる。

This page updated on Feburary 3, 2000

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