研究課題別中間評価結果(極限2)


1.研究課題名

 超高純度ベースメタルの科学

2.研究代表者名

 安彦 兼次 東北大学 金属材料研究所 助教授

3.研究概要

 当研究課題の目的は、金属産業の中でも特に重要な鉄、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、コバルト、クロム等のベースメタルを超高純度化する技術ならびに超微量成分分析技術の開発、および、それら超高純度金属が有する真正な性質の究明にある。金属は社会生活に極めて重要な材料であり、精錬技術の発達に伴って比較的純度の高い金属が生産されて来ている。しかし通常'純金属'と称するものが不純物を10分の数%程度含有しており、'純金属の性質'と云われているものが真の純金属の性質を表しているか否か疑義があって、改めて純度を極限まで高めた超高純度金属を作製してその諸性質を調べる必要がある。本研究では、主として超高真空技術を活用した新しい製錬技術により超高純度の鉄や高Cr-Fe合金等のベースメタルを作製し、それらの本来の性質を解明する基礎研究を推進する。これらのベースメタルは、超高純度化することにより、従来考えられていたこととは大きく異なる性質、特に加工性と耐食性に桁違いに優れていることを明らかにして行く。また、優れた加工性をもつことが期待される高Ni-Fe合金の溶製を行なう。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 鉄や高Cr-Fe合金等のベースメタルの超高純度化を目指して、不純物、特に炭素、窒素、酸素、硫黄、水素等のガス成分に左右されない本来の純金属および純合金の性質を究明することに努めて来た。超高真空溶解炉の設計・製作、極微量ガス成分分析法の開発等から手掛け、室温真空度10-10Torr台、溶解時10-8Torr台の溶解炉を完成させて純度99.998%の鉄を得、また精度1ppm以下のガス成分分析技術を確立させた。現在は鉄を中心にして研究を進めている段階である。その結果、超高純度鉄が極めて高い耐食性を有すること、従来純鉄と云われていた鉄とは異なる圧延組織及び再結晶挙動を示すことが実証された。また超高純度Fe-50%Cr、Fe-60%Crを作成し、Fe-Cr合金の機械的性質や耐熱性等に関する従来の常識を覆す実験事実を提示した。現在では更にFe-70%Cr合金を作製中である。超高純度鉄では水素脆性が生じないことも示した。また高純度鉄に対する炭素等の添加元素の影響、Fe-Cr合金に対するタングステン添加の効果等を調べている。超高純度鉄を得たことにより、追究すべき興味深い研究対象が次々に掘り起こされて来る観が有る。超高真空溶解炉の作製、微量不純物分析技術の開発等により'純金属合金学'とも云うべき新分野を開拓し、他が追随できない技術レベルにあって世界的にも目立つ存在である。超高純度であることから、世界標準物質としての指定を受けるべきと考えている。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 上記の様に純鉄の高耐食性、特異的な圧延組織、再結晶挙動、純Fe-50、Fe-60Cr合金の機械的性質及び耐熱性、水素添加した純鉄の延性、タングステン添加による純Fe-Cr合金の著しい機械的性質向上等、超高純度鉄を得て初めて発見できた現象が当初の期待以上に有る。従来の金属学では常識とされて来た金属・合金の化学的、機械的、金相学的性質が含有不純物に由来する可能性を指摘して波紋を投げ掛けた。超高純度金属の性質に及ぼす個々の添加元素の影響等、学問的・実用的に興味深い事が多い。
 今後当研究課題では考えられる種々の研究対象のうちの何に焦点を絞って調べるかに依るが、これまでと同様に興味深い成果を幾つも出して来ることが充分に期待できる。実用化に関しては、例として純Fe-60%Cr合金でタービン・ブレードを作製し、高温で運転することにより、耐熱性、耐食性、疲労強度等に関して興味有る結果が得られよう。
 超高純度化によって優れた性質を持つ金属材料が得られる可能性を示した意義は大きく、社会的関心を惹く。但し現在では精錬コストの面で経済的に引き合いそうにない。実用化はコスト的に見合う超高純度化製錬技術の進歩に俣つ。
4-3. 総合的評価
 材料の基礎科学という観点からは、十分な成果が挙がっており、今後更なる成果が期待できる。また、「新材料の国際標準」としての具体化を視野に入れて、研究を更に進展させ、先導して行くことを期待する。
 超高純度金属・合金の実用化には経済性の問題があり、また長時間テストを含めた安全試験を十分に重ねる必要もある。

This page updated on Feburary 3, 2000

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