研究課題別中間評価結果(極限1)


1.研究課題名

 超高圧下における水素結合の量子力学現象の創出と発現機構の解明

2.研究代表者名

 青木 勝敏 物質工学工業技術研究所 首席研究官

3.研究概要

 水素結合は化学結合の一様式として水、水素化物、有機物等、自然界に於いて最も多く発現しているが、その物理化学的な本質に関しては意外に分かっていない事が多い。そこで水素結合の特有の性質が現れ易い極限環境下で実験を行なって新現象を発掘するとともに、理論計算を行なって種々の実験結果と突き合わせ、水素結合の本質に迫ることを図る。具体的には、1~100GPa(100万気圧)・20~300Kの超高圧・低温領域において、水やハロゲン化水素などの水素結合分子を対象にして、圧力誘起の相転移や化学反応を探索し、また分子・結晶構造と化学結合状態を高圧下で詳細に測定して、分子動力学的計算シミュレーションと合わせ、転移・反応機構の解明を行なう。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 極限環境として100ギガパスカル(100万気圧)級の超高圧、低温下で実験を行なえるX線回折装置、赤外線吸収測定装置、ラマン及びブリューアン散乱測定装置等を開発し、種々の物質を対象に実験を行なってきた。これまで超高圧下に於ける氷の量子力学的な水素結合対称化過程の観察、水、塩化水素、臭化水素、硫化水素等の相変化の実験、相図の作成、赤外吸収、ラマン散乱、ブリューアン散乱等の実験を行い、また動力学的計算手法により水素分子クラスターHnの安定化構造、触媒Zeolite中のメタン→メタノール化反応、高圧下の水、臭化水素の相転移、等に関する計算機実験を行なった。
 物質中の水素原子位置をより正確に決定する為、中性子回折の実験技術を有する他のグループとの共同研究を行なう事を予定している。又、水素結合物質と光の相互作用を実験と理論計算で調べる事を計画している。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 当研究チームがこれ迄に出した成果は多数有る。種々の超高圧・低温用実験装置を開発した。超高圧・低温下に於いては理論から予測される氷の立方対称化過程の検証を行なった。水、塩化水素、臭化水素、硫化水素等の温度-圧力相図を初めて作成し、又これらの物質の超高圧・低温下に於ける弾性的性質、原子・分子振動等の動的挙動を赤外吸収、ラマン及びブリューアン散乱によって詳細に調べ明らかにした。理論計算グループでは動力学的手法を用いて高圧下の臭化水素の相転移、水素分子クラスターHnの安定化構造、Zeolite中のメタノール化反応等に関する計算機実験を行なった。臭化水素の相転移に関する計算結果と実験結果の極めて良い一致は理論計算精度の高さを示している。高圧・低温下の水が密度の異なる2つの相から成る事を実験的に明らかにして話題を呼び、英国の専門誌Natureに紹介された。
 これまでに出した成果は、研究対象が水やハロゲン化水素等であることから産業に結び付く、或いは新産業の目になる見込みは余りない。研究期間の後半では、水素結合物質中の水素原子位置を正確に決定する為、中性子回折の実験技術を有する国内の他グループとの共同研究を行なう事を予定している。今後とも得られた新しい実験結果や発見を提出して行く事になるが、基礎的研究の面が強いので直ぐに応用に直結する期待は持てない。但し期間の後半で行なう予定の水素結合物質と光との相互作用の研究が、光センサーに使える物質の開発に結び付く可能性は有る。
4-3. 総合的評価
 研究成果としては、かなり優れた世界的にも第一級の成果が得られつつあると見られる。目的の「量子効果の創出」をより実り多いものにするには、プロトンダイナミックスを更に詳しく調べて行く必要があるように思われる。

This page updated on Feburary 3, 2000

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