研究課題別中間評価結果(生体8)


1.研究課題名

 「昆虫の生体防御分子を利用した創薬の基礎研究」

2.研究代表者名

 名取 俊二 東京大学大学院薬学系研究科教授

3.研究概要

 地球上に棲息する動物種の中のなんと80%が昆虫である。ちなみにわれわれ人間が所属する脊椎動物は4%以下である。昆虫がこのように繁栄している秘密が、昆虫が持っている優れた自己防衛能の中にある。自己防衛能は様々な生体防御分子によって担われている。この研究では、センチクニバエというハエの生体防御分子をヒントにして、高齢化社会に向かって増加が予想される骨粗鬆症やある種の癌、感染症といった病気の新しい治療薬を創出することを目的としている。具体的には、本研究は、「昆虫の自己・非自己の認識機構」、「新規生理活性物質5-S-GADに関する研究」、「好中球の抗菌ペプチドのリセプターに関する研究」の3つのサブグループから構成され、蛹特異的な体液細胞表面の120-kDa蛋白のcDNAクローニング、非自己細胞の崩壊に関与するプロテアーゼの翻訳制御に関与するRNA結合蛋白のcDNAクローニング、5-S-GADの制癌剤と骨粗鬆症治療薬としての有用性の検討、抗菌ペプチドに対する結合蛋白の精製などを行った。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 「昆虫の自己・非自己の認識機構」に関しては、蛹特異的な体液細胞表面の120-kDa蛋白のcDNAクローニングに成功し、この分子がアセチル化LDLの取込に機能することを示唆した。また、非自己細胞の崩壊に関与するプロテアーゼの翻訳制御に関与するRNA結合蛋白のcDNAクローニングにも成功し、機能解析のためのリコンビナント蛋白を調製した。「新規生理活性物質5-S-GADに関する研究」では、5-S-GADの制癌剤と骨粗鬆症治療薬としての有用性の検討を行い、in vitroばかりでなくin vivoにおける有効性を明らかにした。「好中球の抗菌ペプチドのリセプターに関する研究」では、抗菌ペプチドに対する結合蛋白の精製に成功し、これまで分子シャペロンと考えられていたcalrecticulinが好中球の活性化に重要であることを明らかにした。さらに抗菌ペプチドの構造活性相関を明らかにした。このように所期の目的に添ってよく進捗し、新たな展開も得られている。ユニークな発想から出た独創的な研究であり、国際レベルも高い。代表者の異動により研究体制に変更があったが、研究は順調に推移して行くものと思われる。制癌剤の方向は面白いが、応用に偏ることなく、アカデミックなレベルを維持されることを期待する。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 蛹体液細胞に特異的な細胞表面の抗原蛋白の同定など昆虫の生体防御機構を解明する基礎研究と5-S-GADや好中球の抗菌ペプチドなどの昆虫の生理活性物質から創薬を目指す応用研究とのバランスが良く取れていて、Journal of Biological Chemistry等への論文発表も行われているが、インパクトの非常に高い学術雑誌への掲載がないのがやや不満である。特許は5件出願されている。5-S-GADの細胞選択的制癌効果は興味深いが、治療薬としての期待は低い様に思われる。
4-3. 総合的評価
 独自の発想と独自の材料で独創性の高い研究を行っていて、有用性の考えられる新規物質も発見されているが、実用性に関しては不明である。創薬の方向で進める場合には、焦点を絞ってベンチャー企業のスピンオフなども戦略基礎研究の一つの可能性として考えることが望まれる。

This page updated on Feburary 3, 2000

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