研究課題別中間評価結果(生体7)


1.研究課題名

 「普遍的な生体防御機構としてのストレス応答」

2.研究代表者名

 永田 和宏 京都大学再生医科学研究所教授

3.研究概要

 すべての生物は、外界からの不断のストレスにさらされながら、生命を維持している。高等動物においては、このような外界からの異物や病原菌の進入攻撃から生体を守るために、巧妙な免疫系を発達させてきた。しかし、生物は進化のごく初期から、外界からの様々なストレスに対する防御機構を持っていた。この生体防御のもっとも早い反応であるストレス応答について、(1)転写因子を介した転写制御機構、また、(2)ストレスによるストレス蛋白質自身の活性化、という二つの側面から、その誘導機構の解明をめざす。具体的には、ストレス応答の分子機構として重要な熱ショック転写因子の機能について、そのノックアウトによる機能解析を行った。HSF3のノックアウトは完了し、現在HSF1遺伝子の破壊をほぼ終えている。ストレス応答を担うストレス蛋白質の機能解析を、HSP47、HSP90およびHSP70を中心に行った。特に、HSP47はノックアウトマウスも得られ、分子シャペロン遺伝子を破壊することによって、その基質蛋白質コラーゲンの異常を引き起こし、基底膜などの形成異常によって、マウスが胎生致死になることを見いだした。HSP90の構造解析、変性蛋白質の再生、分解への振り分けなどについても顕著な成果が得られた。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 新しい方向でHSPの機能を追究し、研究概要に記述したように当初の目的に添ってよく進捗している。各研究段階で新しい方向を設定し、国際競争の激しいこの分野で、HSP47やHSP90の機能解明など、独創性が顕著な研究を展開していて、評価は高い。共同研究者との連携はやや弱いが、所期の目的に向かって、全体としては順調に進んでいると言える。新たに見つかってきた遺伝子、蛋白質の機能解析の進展が今後の課題であろう。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 Keysrone, Cold Spring Harbor, Gordonなどの国際会議からの招待講演やJournal of Biological Chemistry、EMBO Journalなどのレベルの高い国際学術雑誌への論文発表も行われている。また特許は1件国内出願されている。HSP90からプロテアソームサブユニットへの変性タンパク質の受け渡し、HSP47が発生に必須の遺伝子であり、基質に影響を与えることやHSP47と基質との結合解離の機構などで、新規性の高い成果が出ている。HSP47やHSP90の機能解明などは科学的インパクトの大きい成果と言える。今後は、HSF1とHSF3の関係、HSP47とコラーゲン、更には組織発生や炎症・腫瘍などの病的状態との関係、HSP90との変性・再生・分解の関係の解明などで、大きな成果が期待できる。
4-3. 総合的評価
 世界でもかなり競争の激しい分野で、HSF1およびHSF3欠損細胞樹立、HSP47ノックアウトマウスの作成、HSP90とPA28との関係などで、独自の業績をあげて国際的にも高い評価を受けていると言える。

This page updated on Feburary 3, 2000

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