研究課題別中間評価結果(生命7)


1.研究課題名

 オルガネラ構築と細胞機能発現制御の分子機構

2.研究代表者名

 藤木 幸夫 九州大学大学院理学研究科 教授

3.研究概要

 複雑な内部構造をもつ真核細胞の諸々の生命活動は細胞オルガネラの構造と機能に大きく依存している。これら細胞内構造並びに細胞構造は、遺伝情報の翻訳産物であるタンパク質が細胞内で空間的に特定の秩序をもって配置されることにより構築されている。すなわち遺伝子が生体膜を隔てた場をも支配できる基本原理である。
 従って、そのメカニズムを解明することは遺伝子発現から細胞機能の発現と制御という一連の生命活動を理解するうえで極めて重要な研究課題である。本戦略的基礎研究推進事業ではペルオキシソーム、核、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソソームなど細胞内オルガネラの動的存在状態とその制限機構、並びに種々の病態をもたらす障害機構をペルオキシソーム系を主体として明らかにし、それらの成果を総合的に考察することにより「オルガネラ構築と細胞機能発現制御」の基本原理を導き出すことを目的として研究を行っている。
 本研究課題は真核細胞におけるオルガネラの膜系という巨大かつ複雑な構造体を研究対象とし、しかも扱う現象はタンパク質の生合成に伴う細胞内での移動という時間的にも空間的にも極めてダイナミックな現象である。
 本研究課題は遺伝情報発現ステップの全貌の理解という生命科学研究における極めて重要な命題解明に分子的基盤を与えるだけでなく、その成果として、将来有用物質の分泌生産、オルガネラを利用したバイオテクノロジーや人工細胞の開発など応用への道も開くことが期待される。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究の研究対象としている細胞内小器官ペルオキシソームは近年多くの重要な代謝機能が見出される一方、その障害はZellweger症候群など遺伝性の致死的疾患をもたらすことが判明し、生体にとって不可欠な細胞小器官である。従って、本研究課題解決へ向けてペルオキシソームは非常に適したモデル小器官系といえる。現在まで主として多くのペルオキシソーム欠損性動物変異細胞の分離と相補遺伝子の単離を中心に発展させている。この研究により得られる知見に関し、当該オルガネラに特異的な現象かあるいは他のオルガネラとの共通性をもつものか否かを検討するため、1)ペルオキシソームの形成機能とその障害の分子機構、2)核タンパク質の細胞質-核間輸送の分子機構、3)ミトコンドリアへのタンパク質のターゲッティング膜通過および小胞体膜形成の分子機構、5)ミトコンドリアおよび小胞体へのターゲッティングシグナルの分子認識機構、6)ゴルジ装置の形成機構、7)リソソーム・エンドソームの形成機構、について研究を展開している。
 ペルオキシソーム系生成の機構を分子レベルで解析する目的は着々と実現中である。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 既にPex1,12等のクローニングをはじめ主要な成果が報告されており、今後世界をリードして行くことが期待される。
 新たなペルオキシソーム欠損性CHO細胞株を分離し、さらにペルオキシソーム形成因子のクローニングとペルオキシソーム病患者異常遺伝子解析の結果、Pex1,Pex12を単離した。また、HIV遺伝子発現調節タンパク質TatおよびRevをモデル核輸送性タンパク質として、細胞内選別輸送とその制御機構を、分子レベルで詳細に解明することを目的として、gpt遺伝子発現をマーカーとしたTat依存性薬剤感受性細胞株を確立し、現在Tatアンタゴニストを用いた細胞株の諸性質の検討を行っている。さらにRevについても細胞内輸送系の確立を検討中である。
4-3. 総合的評価
 細胞内オルガネラの重要な一つであるペルオキシソームの形成過程を、その構成成分のクローニング及びヒトにおける突然変異体を用いて解明しようとする研究であり、世界をリードする成果が挙がりつつある。藤木らは先ず、ペルオキシソーム欠損変異株を数多く分離し、次にヒトやラットの肝cDNAライブラリーを用いて遺伝的機能相補活性検定による新たなペルオキシソーム形成因子を次々と単離している。PEX1,PEX6,PEX12,PEX16,PEX19などであり、今後のペルオキシソームの形成や機能の解析のみならず、又オルガネラ一般の形成機能の解明にも極めて重要な役割を果たすであろう。藤木グループに比べればその規模は小さいが、他の3グループも質の高い仕事を発展させていることが認められた。これらの間の相互協力は現時点では必ずしも密接ではないが、それぞれの優れた発展により将来相補的な情報の集積によって好い結果をもたらす可能性が高い。ペルオキシソーム膜透過に関する新知見も出ているが、これを高く評価する評価者と、このオルガネラの構成過程の全貌解明に集中すべきだとする評価者とに若干意見が分かれたが、新しいペルオキシソーム欠損症の発見などを含めて極め て高い成果を挙げている事では一致した。

This page updated on Feburary 3, 2000

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