研究課題別中間評価結果(生命4)


1.研究課題名

 個体老化の分子機構の解明

2.研究代表者名

 鍋島 陽一 京都大学 大学院医学研究科 教授

3.研究概要

 老化に伴う疾患を克服することは人類の有史以来の願望であり、多くの試みが積み重ねられてきたが、その複雑さから研究は多くの困難を抱えていた。しかし、遺伝子研究の進展によってその突破口が開かれようとしている。
 鍋島らは挿入突然変異によって早期老化症状を呈するトランスジェニックマウス系統を樹立した。本変異マウスは劣性遺伝形式をとり、ホモ個体では(1)成長障害(2)早期死亡(3)動脈硬化(4)骨粗しょう症(5)神経細胞の脱落(6)性腺の萎縮(7)胸腺の萎縮(8)軟部組織の石灰化、など多彩な老化症状を呈するが、血中カルシウム、クレアチニン、アルブミン値などは正常で単なる内分泌障害、カルシウム代謝異常、腎不全、栄養障害などではないことを確認していた。
 この変異マウスの解析を基礎として3つの方向の研究を企画した。その第1は原因遺伝子を同定することであり、第2は原因遺伝子の機能を解明することであり、第3は変異表現型の解析により、様々な老化症状の成り立ちを解析することである。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 Klothoの研究を通して老化に迫る分子生物学的手法は順調に機能している。
原因遺伝子として、β-Glucosidaseに相同性をもつ1型膜蛋白質を同定し、Klothoと名付けた。Klotho遺伝子は腎臓で主に発現しており、他に中枢神経系での発現が観察された。しかし、変異表現型は全身の多様な臓器で観察され、液性因子の介在を推定させるものであった。
 続いて、変異マウスの解析を基礎として次の3つの方向の研究を展開した。第1はKlotho蛋白の機能を解析し(Klotho蛋白の存在様式の解析、Klotho蛋白の機能ドメインの解析、原因遺伝子の発現制御機構の解析)、関連分子を探索することであり、第2の課題は変異表現型の解析により、様々な老化症状の成り立ちを解析し、第3は得られた成果をヒト疾患の病態解明と診断、治療法の開発に結びつけることである。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 Nature誌に見られるように、十分に成果は上がっており、更に各現象についての鋭い追及姿勢があるため、今後の成果が期待される。
 ヒト相同遺伝子を分離し、その構造を決定したところ、マウスKlothoに相同の1型膜蛋白質をコードするmRNAと分泌型蛋白質をコードするmRNAが同定された。
 原因遺伝子の機能の解析では、Klotho蛋白はプロセスされて細胞外に分泌され、機能していることが示唆され、ヒト分泌型蛋白によってレスキューできるかどうかを解析している。
 老化症状の成り立ちの解明では、Klothoホモマウスの変異表現型について検討し、B細胞の分化異常、難聴が明かになった。
 ヒト疾患解明への応用としては、Klotho遺伝子の発現は腎不全患者の腎組織では顕著に低下しており、欠損症と判断される。
4-3. 総合的評価
 ランダム突然変異を作製中に偶然に見出された早老性マウスの突然変異遺伝子Klothoの機能解析が着実に進んでおり、世界的評価も高い。ヒトの老化に極めて近い変化が多くの臓器・組織におこる点、今後も老化の研究に大きな役割を果たすであろう。クローニングにより、このKlotho蛋白質はN端にシグナル配列、C端に膜結合ドメイン構造を持つ1014アミノ酸から成る新規の膜蛋白であることが判った。その一次構造はβ-glucosidaseによく似たドメインを持つが、その活性は証明されていない。しかも、オルターナティブ・スプライシングによる、長さの異なる蛋白が存在し、分泌型と考えられるものも存在する。又、Klotho蛋白質の受容体の研究も進みつつあり、それからのシグナル伝達の機構を調べる事により、各種細胞の老化への過程を知ることが出来るであろう。これは又、将来、老化防止という医学的大問題へ繋がるかもしれない。ともあれ、現時点における評価の最も高い研究である。

This page updated on Feburary 3, 2000

Copyright©2000 Japan Science and Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp