(お知らせ)


平成12年 1月 25日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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遠赤外単一光子の検出:新しい半導体素子の開発に成功

 科学技術振興事業団(理事長 川崎 雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究領域「量子効果等の物理現象」(研究統括:川路 紳治 学習院大学教授)の研究テーマ「量子構造を用いた遠赤外光技術の開拓と量子物性の研究」(研究代表者:小宮山 進 東京大学教授)で進めている研究において、極微小の半導体量子素子を開発することにより、従来の波長限界を一挙に100倍も破る長波長領域(170〜200μm)において、光のエネルギーの最小単位である光子(単一光子)を直接検出することに世界で初めて成功した。この研究成果は1月27日付けの英国科学誌「ネイチャー」で発表される。

 全ての物質および光は、波動としての性質とともに粒子としての性質を持つことが知られている。そのため、光の弱い極限では光の粒子(光子)を一つづつ数えることができるとされている。波長が約1μmより短い可視光や近赤外光領域では、従来から光電子増倍管と呼ばれる電子管を使用して実際に光子が一つづつ計測され、その技術は極微弱光の検出に広く応用されてきた。しかし、波長が2μm以上となる赤外光や遠赤外光については、光子のエネルギーが波長に反比例して小さくなるために計測が難しく、粒子としての検出は不可能であった。

 今回は、本研究で開発した半導体量子素子により、従来に比べて桁違いの170〜200μmという長波長領域で、10秒間に1個の光子入射という極限の微弱光まで計測することが可能になった。この波長領域での従来最高の検出器と比べると、その感度は1万倍以上に達する。この波長領域は、周波数がテラヘルツ(1012/秒)に対応する電磁波であり、そこでの単一光子検出の成功は、光を越えてマイクロ波に至る幅広い電磁波領域における検出技術に全く新しい可能性をもたらすものといえる。

 本研究で開発した半導体量子素子は、ガリウム砒素とアルミニウムガリウム砒素化合物半導体の積層構造(ヘテロ構造)中の直径約0.5μmの微小な導電性の領域(量子ドット)に微細な金属製アンテナを結合した構造を持つ(図1(A))。構造全体を電子一つ分の微小な電荷で制御されるトランジスター(単一電子トランジスター)として動作させ、これを絶対温度0.4K以下の極低温に冷却して量子効果を発現させたものである。実際の測定では、ゲート電極を兼ねたアンテナに電圧をかけて量子ドットを通してトンネル電流が流れる導通状態にしておき(図1(B)上)、入射する遠赤外光を長さ100μmのアンテナで集めて量子ドットに吸収させる(図1(B)下)。光子が一つ吸収される毎に量子ドットを構成要素とする単一電子トランジスターは導通状態から遮断状態に遷移し、電流がパルス的な信号となって、単一の遠赤外光子が検出される(図2)。
 この検出機構の基礎となっているのは、単一の電子の電荷によるごくわずかな静電ポテンシャルの差でトンネル電流の導通−遮断状態が変化するという、微小な量子ドットによる単一電子トランジスターに特有の作用である。今回開発した素子の新しい点は、そこに遠赤外光子の働きを組み込んだことである。光子一つを吸収させることによって、量子ドット内の電子を一つ励起して量子状態を変化させると、その変化に伴って、ほぼ電子一つの電荷による静電ポテンシャル変化に準じた分極が生じ(図1(B)下)、そのことによってトンネル電流の導通−遮断の変化が起こることを利用している。
 測定の実行に際しては、効率を高めるために、磁場(3〜4テスラ)を印可して、サイクロトロン共鳴吸収を利用した。検出された光子のエネルギーは磁場に比例し、6〜8meV(波長200〜170μm)であった。量子ドットの構造を改良することにより、動作波長範囲を拡大することが可能である。

 今回の研究成果は、電波天文学をはじめとする基礎研究への応用が直ちに考えられる。さらに、検出器自体が0.5μmと極めて小さいために他の半導体素子との集積化も夢ではなく、将来テラヘルツ領域に進むことが予想される高速・大容量通信技術への応用も期待される。

補足説明資料:遠赤外単一光子の検出:新しい半導体量子素子の開発に成功


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