概  要


 私たちはたくさんの道具を使い,便利な生活を送っている.道具の中には,はしや,はさみのように,始めは使いこなすのに苦労するが,繰り返し練習することで,自分のからだの一部のように自在に使えるようになるものがある.このような,道具を使う「わざ」を修得するとき,小脳と呼ばれる神経機構が重要な役割を果たしているのではないかと言われてきた.
 科学技術振興事業団創造科学技術推進事業(ERATO)川人学習動態脳プロジェクトと郵政省通信総合研究所関西先端研究センターは,このような道具の使い方を練習しているときの,人間の脳活動を,ファンクショナルMRIと呼ばれる装置で計測した.練習を始めたばかりの時は,人間が道具の使い方に不慣れなため,過ち(誤差)が頻繁に生じる.小脳の大部分では,この誤差と正確に比例して脳の活動が上昇し,小脳に誤差の情報が正確に伝えられている様子が,まず明らかになった.さらに練習を続けると,小脳の一部分で,誤差とは無関係に活動が上昇する部分があることがわかった.
 この結果は,からだで覚えた「わざ」の記憶が小脳に蓄積され,その記憶は誤差の情報で修正されるという理論を,人間の脳の働きを計測することにより,実証したという意味がある.この発見は,心理学・神経科学の分野で重要であるだけでなく,使いやすいヒューマン・インターフェースとは何かという工学的問題に,脳科学の立場から重要な指針を与えるものと期待される.


This page updated on January 13, 2000

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