総括責任者 (終了時) |
山本 喜久(スタンフォード大学 教授、NTT基礎研究所 主席研究員) |
研究実施期間 | 平成5年10月〜平成10年9月 |
1.研究の概要
レーザ光の振幅や位相の測定の精度を追求していくと、ついには、レーザ光の量子状態のぼけ〜量子ゆらぎ〜につきあたる。この限界はハイゼンベルグの不確定性原理「レーザ光の振幅と位相の不確定の積が一定の値以下にならないこと」から発生している。しかし、この不確定関係を保ちながら、例えば位相ゆらぎを大きくすることにより、振幅ゆらぎを限りなく小さくすることや、逆に振幅ゆらぎを大きくすることにより位相ゆらぎを小さく抑圧するといった量子ゆらぎの配分をすることは、不確定性原理に矛盾せずにできるはずである。
本プロジェクトにおいては、上記のような電磁波の量子状態制御の概念をさらに発展させ、光、電子および原子の波動関数を量子レベルで制御する新概念の創出と実験による実証を目指した研究を行った。特に、量子光学、メゾスコピック物理、プローブ・マイクロスコピーの実験技術を用いて、単一光子、単一電子、単一原子のレベルで動作しうるデバイス・システムの提案に重点を置き研究を進めた。この様な系の動作解明には、集団平均を取り扱う従来の量子力学と異なり、単一の量子系の時間発展を記述できる新しい量子論の確立が要求され、こうした基礎理論の研究も合わせて行った。具体的には、1)量子測定と量子情報処理、2)光の量子ゆらぎの抑圧と応用、3)共振器による自然放出の制御、4)メゾスコピックデバイスによる単一電子/単一光子の制御、5)マイクロスコピーと単一原子の操作、の5つの研究テーマを3研究グループにおいて展開した。
2.研究体制と参加研究者
○研究体制 | ||
・ | 解析・シミュレーショングループ | 【マイクロスコピーと単一原子の操作】 |
(東京都武蔵野市/NTT武蔵野研究開発センター内) | ||
・ | 量子効果デバイスグループ | 【光の量子ゆらぎの抑圧と応用】 |
(静岡県浜北市/浜松ホトニクス株式会社中央研究所内) | ||
・ | 量子状態制御グループ | 【量子測定、量子情報処理、共振器による自然放出の制御、メゾスコピック・デバイスによる単一電子/単一光子の制御】 |
(米国カリフォルニア州/スタンフォード大学ギンズトン研究所内) |
○参加研究者(グループリーダー、研究員) | ||||
企業 | 大学・国研等 | 外国人 | 個人参加 | 総計 |
4 | 0 | 9 | 4 | 17 |
3.研究成果の概要
○特許出願件数 | ||
国内 | 海外 | 計 |
17 | 8 | 25 |
○外部発表件数(論文・口頭発表) | |||
国内 | 海外 | 計 | |
論文 | 4 | 95 | 99 |
総説・書籍 | 6 | 35 | 41 |
口頭発表 | 48 | 130 | 178 |
計 | 58 | 260 | 318 |
○発表主要論文誌
Nature / Science / Phys. Rev. Lett. / Phys. Rev. A / Phys. Rev. B / Appl.
Phys. Lett.
主な研究成果
1) | 量子測定理論 |
単一量子系の連続測定を記述する新しい理論の構築を進め、Aharonovの提案した単一量子系の波動関数の測定が原理的に不可能であること、調和振動子を用いた微弱な外力の検出に避けられない量子限界が存在すること、などを明らかにした。 | |
2) | 量子情報理論 |
波動関数の非局在量子相関(エンタングルメント)を利用した量子コンピュータの実現手段の探索を進め、Deutchアルゴリズムの量子光学的実現法、誤り訂正符号の開発及び、光のド・ブロイ波干渉計を提案した。 | |
3) | 光の量子ゆらぎの抑圧と応用 |
振幅ゆらぎがショット雑音以下に抑圧されたスクイーズド光を発生する半導体レーザの基礎技術の確立とその光干渉計、レーザ分光への応用を研究した。スクイーズド光を発生できるTJS半導体レーザの技術確立、ショット雑音限界以下で動作する光干渉計、FM分光などを実現した。 | |
4) | 共振器による自然放出の制御 |
量子井戸に閉じ込められたエキシトンとマイクロキャビティーに閉じ込められたフォトンが強結合を起こして作るエキシトン・ポラリトンの量子統計的性質を理論的、実験的に調べてきた。エキシトン・ポラリトンの誘導放出現象を利用した物質波レーザ(boser)の提案、エキシトン・ポラリトンの線形・非線形現象の解明、共鳴トンネルによるエキシトンの直接発生の検証などを行った。 | |
5) | メゾスコピック・デバイスによる単一電子/単一光子の制御 |
ナノメートル・スケールの半導体素子中の電子の波動的・粒子的振る舞いを量子レベルで制御する手法の確立を目指して研究を進めてきた。ガリウム砒素2次元電子ガスの電子分岐雑音とその抑圧の検証、極微小トンネルpn接合におけるクーロン・ブロケードを利用した単一電子/単一光子制御の提案と実現、ガリウム砒素ピエゾ抵抗付パラメトリックAFM技術の確立などを行った。 | |
6) | マイクロスコピーと単一原子の操作 |
STM探針を用いた単一原子操作技術の確立と、原子スケールの電子素子、光素子の提案を目指して研究を進めてきた。主な研究成果として、シリコン(100)面2×1構造の単一水素原子膜による終端化とSTM探針による水素原子の操作技術の確立、単一原子接合における電子の輸送特性の解明とクーロンブロケード振動の実証などを行ってきた。 | |
7) | 精密光計測技術 |
量子限界の感度を有する光検出技術の確率を目指して研究を進めてきた。高い量子効率(90%)を持ち増倍雑音のない単一光子検出用シリコン固体ホトマル素子の開発、高感度、超高速のACoランスド・ホモダイン検波法などを実現した。 |
This page updated on December 8, 1999
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