「田中固体融合プロジェクト」

総括責任者
(終了時)
田中 俊一郎(㈱東芝研究開発センター 研究主幹)
研究実施期間 平成5年10月~平成10年9月

1.研究の概要

 固体の接合などで界面が形成される素過程を原子および原子集団の大きさで動的に解明し、界面近傍における諸現象および界面物性とともに形成支配因子を把握、融合界面設計・制御の可能性を探った。
 研究の結果、セラミックス接合時の原子の振る舞いを透過型電子顕微鏡で直視することに成功し、接合過程を支配する素反応や融体の濡れに先行する原子層の存在を初めて明らかにした。新しい高速高温X線法を用いると各種界面相の成長過程が短時間で定量解析できた。半導体の界面では金属や絶縁層との電位障壁高さを制御しその分布をnmの分解能で画像化した。またSiにAuが積層したnmサイズの突起状複合体も作成でき、微細半導体への要素技術を提案した。界面近傍局所に残留する応力や歪の分布を最小25nmの領域で実測し、界面電子構造や機械強度への影響を把握した。従来困難であったAl, Nb, Wなどの易酸化性金属超微粒子の生成と移動・回転・融合および埋込操作、ならびに下地からのフラーレン誘起・層間化合物形成などを電子線照射法で可能にした。
 これら研究結果は埋もれた界面の系統的なナノ構造測定法を提供するだけでなく、従来未知であった界面形成素過程を解明し、界面が規定する諸特性の改善に寄与する道を拓いた。さらには界面およびナノ空間の設計・制御手法を提言して、超微細半導体や新規素子創製、ならびに3次元ナノ構造をもつ触媒などの材料設計に役立つ可能性を示している。

2.研究体制と参加研究者
 

○研究体制
融合機構グループ 【界面形成素過程の解明】
(神奈川県横浜市/横浜金沢ハイテクセンター内)
界面物性グループ 【界面応力・物性との相関】
(神奈川県横浜市/横浜金沢ハイテクセンター内)
界面設計グループ  【界面設計指針の構築】
(神奈川県横浜市/横浜金沢ハイテクセンター内)
○参加研究者(グループリーダー、研究員)
企業 大学・国研等 外国人 個人参加 総計
10 0 4 5 19

3.研究成果の概要
 

○特許出願件数
国内 海外
40 14 54
○外部発表件数(論文・口頭発表)
国内 海外
論文 16 64 80
総説・書籍 4 1 5
口頭発表 126 50 176
146 115 261

○発表主要論文誌
Phys. Rev. B / Acta Materialia / Phil. Mag. A / Surf. Sci.

主な研究成果
 

1) セラミックス接合原子素過程の解明
1)-1. 固体融合過程の直視と制御
 セラミックスの接合素過程を直接その場観察することに成功した。透過型電子顕微鏡の高温ステージ上では、SiCろう接界面で原子数約百個のTiCがSiC底面に不均一核生成・成長する原子素過程が接合を律速することを明らかにした。高速高温X線法ではAl2O3/Ni,Cu,Fe, SiC/Ni,Co各種界面相の成長過程が定量解析できた。またSi3N4, Al2O3のTi系ろう接界面では、それぞれ高強度を示唆するnm鈎型構造、Ti free相を含む多層構造という新知見が得られた。
1)-2. 固体の反応性濡れ挙動の見直し
 セラミックスへのTi系反応性濡れでは、nmの視点で従来の濡れ理論の見直しを提言した。融合初期には数十nm厚さの先行層が表面拡散で形成され、その上を濡れ拡がる。進行する濡れ前面では、先行するTi化合物相がSiCはTiCで不変であるのに対しSi3N4ではTiNからTi5Si3に変化することを初めて見い出した。これはTi活量の減少とともに安定相が変化するためと解釈できる。
2) 金属・半導体界面のナノ構造制御
 超高真空弾道電子放射顕微鏡を構築し、界面での電位障壁高さ分布をnmの分解能で画像化した。Au/Si系界面では低温反応層による障壁の平面分布像を得、Au/CaF2/Si(111)系MIS構造では絶縁中間層CaF2の組成と量を制御して界面電位障壁高さの異なるナノ領域を初めて作製した。
 清浄なSi単結晶基板上でnmの大きさのSi上にAuが積層した突起状金属・半導体複合体を作製することに成功し固溶・相分離による生成機構を提示した。
新規構築した実験室用軽元素対応EXAFSによってSi/Ti 界面に形成されたsilicide特異相を検出した。
3) 異種材料界面近傍の応力・歪分布の実測と物性相関
 金属とセラミックスの接合界面近傍局所における残留応力/歪分布および界面応力勾配を直径1~100μmの様々なプローブ(μ-Raman, μ-FTIR, SAW, X-ray)で実測する技術を確立し、特異点近傍での実応力分布と数値計算結果の差異、応力緩和層局所構造の界面応力への影響、機械強度との相関などを議論できるようになった。
 Si/Silicide界面では直径25nmの領域で電子線(CBED法)により実測した0.3%程度の圧縮歪が界面電子構造を大きく変化させることを初めて実測した。この結果は半導体デバイス特性への影響を示唆している。
4) 電子線照射による超微粒子生成と融合制御
 易酸化性のため従来法では得られなかったAl五角十面体やW, Nbのナノ粒子を準安定酸化物微粒子への電子線照射により初めて生成した。さらに電子線の継続照射により超微粒子の移動・融合・埋込、a-C下地からのフラーレン誘起と層間化合物生成を可能にした。電子線照射による融合制御や原子集団操作および界面設計の可能性を示している。
5) 融合界面設計への理論展開
 界面で囲まれたa-Si薄層内でSi結晶が核生成・成長する理論を統計論から見直し、結晶化率の時間変化はバルクでの理論では表せないことを導いた。また界面不整合転位が極低温ではデバイ振動数より小さい振動数を持つ調和振動子のように集団振動することを予測した。

This page updated on December 8, 1999

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