総括責任者 (終了時) |
広橋 説雄(国立がんセンター研究所 副所長) |
研究実施期間 | 平成5年10月〜平成10年9月 |
1.研究の概要
細胞のとる形態には、細胞の増殖と分化を制御し、その構成する多細胞社会である組織の構築と維持に関わる豊富な情報が凝縮されている。本プロジェクトは、細胞のとる形態を細胞の機能と多細胞社会の秩序を総合的に表現するものと捉え「細胞形象」と呼び、これに関わる遺伝子や機能分子の探索および機能の解明を細胞の形を手掛かりに進め、さらに研究を効率よく進めるための新しい実験技術や細胞の三次元観察法の探索と開発を行った。
その結果、CT技術を光学顕微鏡に応用した生きた細胞の三次元観察法の開発、細胞の形態情報に基づいて形態に関わる遺伝子探索が効率よくできる実験技術の開発、組織構築に重要な細胞間接着分子カドヘリンの新しい3種の同定や細胞膜上での動態の解析、がんの転移性に深く関わる培養系でのがん組織の再構築モデルの確立や遺伝子の単離などの成果を得ることができた。これらの成果は分子病理学と呼べる新たな学問分野の発展に大いに貢献するものと期待される。
2.研究体制と参加研究者
○研究体制 | ||
・ | 形態制御グループ | 【細胞形態や形態形成の新しい三次元構造観察法の開発と応用】 |
(茨城県つくば市/日本重化樺}波研究所内) | ||
・ | 遺伝子解析グループ | 【細胞形態や極性を決定している機構に関わる遺伝子の単離と機能の解析】 |
(茨城県つくば市/筑波研究コンソーシアム内) | ||
・ | 機能制御グループ | 【組織や器官の構築と維持における細胞間相互作用などの分子機構の解明】 |
(茨城県つくば市/筑波研究コンソーシアム内) |
○参加研究者(グループリーダー、研究員) | ||||
企業 | 大学・国研等 | 外国人 | 個人参加 | 総計 |
5 | 0 | 0 | 8 | 13 |
3.研究成果の概要
○特許出願件数 | ||
国内 | 海外 | 計 |
0 | 0 | 0 |
○外部発表件数(論文・口頭発表) | |||
国内 | 海外 | 計 | |
論文 | 0 | 14 | 14 |
総説・書籍 | 3 | 1 | 4 |
口頭発表 | 26 | 8 | 34 |
計 | 29 | 23 | 52 |
○発表主要論文誌
Cancer Research / Laboratory Investigation / Journal of Biological Chemistry
主な研究成果
1) | 細胞・組織の新しい三次元観察法の開発 |
細胞や組織を生きた状態またはそれに近い非染色状態で三次元観察するための新しい方法として、X線CT(コンピュータ・トモグラフィ)法と類似の原理による走査型光CT顕微鏡を考案し、システムを試作して生きた細胞の明瞭な三次元像を得た。 | |
2) | 形態情報に基づく遺伝子探索のための新手法の開発 |
組織を構成している種々の細胞の形態とそこでの遺伝子の発現のパターンに基づき、未知遺伝子の探索が効率良くできる多検体の迅速処理が可能なin situ hybridization法を開発した。そして、この方法によりマウス小腸の上皮組織で特異的に発現している多数の新規遺伝子を単離した。また、がん組織で特異的に発現している遺伝子の探索にも応用された。 | |
3) | GFP融合蛋白質を用いた細胞内局在蛋白質の解析 |
細胞内での蛋白質の局在に基づき細胞極性の成立に関わる遺伝子を効率よく探索するため、自家発光性の蛋白質GFPを分子細胞生物学的タグに用いて、細胞内の蛋白質の局在に基づき未知遺伝子を探索する手法を開発し、新規核移行シグナルの存在等を明らかにした他、興味深い細胞内局在を示す蛋白質の遺伝子を複数単離した。 | |
4) | 新しいカドヘリン分子の同定とカドヘリンの動態解析 |
重要な細胞間接着分子群であるヒト・カドヘリン分子を種々のスクリーニング法を駆使して、新たに3種類同定し一次構造や種々の興味ある特性を明らかにし、また、化学架橋剤を用いた実験系を構築して、細胞表面におけるカドヘリン分子が2量体を形成していること、細胞間接着活性とカドヘリンの2量体形成能との間に相関関係があることを明らかにした。 | |
5) | 培養系でのがん組織再構築と再構築がん組織の形態的差異の解析 |
株化大腸がん細胞10種を用いて三次元培養系でのがん組織の再構築を行い、再構築されたがん組織は形態的差異から三群に分類でき、転移能などの動物実験による分類と良く一致することを示し、この分類の基となる遺伝子をDifferential display法により多数単離し、興味ある一部の遺伝子については全長を決定し、機能解析を行った。 | |
6) | 器官形成における組織間相互作用に関わる遺伝子の探索 |
器官形成における組織間相互作用の解析をニワトリをモデルとした実験系で進め、砂嚢間充織に特異的に発現していて消化管の平滑筋分化に関わると考えられる遺伝子を単離し、その一次構造や、上皮がその遺伝子の発現を阻害的に調節する結果、平滑筋が消化管の最外層に分化する機構などの興味ある特性を明らかにした。 |
This page updated on December 8, 1999
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