お知らせ


平成11年10月28日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話(048)-226-5606(総務部広報担当)
URL http://www.jst.go.jp/

「石垣島白保サンゴ礁において、二酸化炭素の
1年間の通年観測に世界で初めて成功」

  科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「サンゴ礁によるCO2固定バイオリアクター構築技術の開発」(研究代表者:茅根創東京大学助教授)で進めている研究の一環として、東京大学などの研究グループは、石垣島白保サンゴ礁における、海水に溶存している二酸化炭素の1年間の通年観測に世界で初めて成功した。この研究成果は、沖縄県で開催される日本サンゴ礁学会で10月30日に発表される予定である。

 サンゴ礁は熱帯から亜熱帯海域に広大に広がる生物圏であり、サンゴ礁での二酸化炭素の吸収・放出プロセスを明らかにすることは、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素の生物圏への吸収メカニズムを解明する上で極めて重要である。サンゴの体内には共生する藻類が存在し、この藻類が光合成を行うことで二酸化炭素が吸収されることが知られている。一方、サンゴの呼吸により二酸化炭素が放出され、また、サンゴによる石灰化は、それ自体二酸化炭素の吸収プロセスであるが、サンゴが石灰質物質を創り出す過程で、海水が酸性化し、海水中に溶存している二酸化炭素が放出されるため、全体としては二酸化炭素の放出過程と言われている。このようにサンゴ礁による二酸化炭素の吸収・放出プロセスは複雑であり、これに時間変化、季節変化、その他の各要因などを含めて考えると、全体としてサンゴ礁が二酸化炭素の吸収源となっているのか、発生源となっているのかが良く分かっていなかった。

 今回、サンゴ礁における二酸化炭素の吸収・放出メカニズムを解明し、全体として二酸化炭素の吸収源となるのか、発生源となるのかを明らかにする目的で、典型的な裾礁(※1)型である石垣島白保サンゴ礁において、サンゴ礁の生物活動(光合成・呼吸・石灰化など)と二酸化炭素吸収・放出との関係などを、1年間にわたり、詳細に観測した。

 本観測は、白保サンゴ礁の海上に係留し、二酸化炭素などを測定する測定システムを搭載した小型の船(全長5m)により、無人で行われた。搭載されたシステムは、新たに開発された長時間連続測定可能な二酸化炭素測定装置および全炭酸・アルカリ度の連続自動測定システム、水温、pH(酸性度を表す)、溶存酸素(水中に溶けている酸素)などの測定装置にデーター通信システムを加えたものである。得られたデータは、電話回線を通じて時々刻々と自動的に東京大学などの研究室に送られた。これにより、台風などによる避難期間を除いた1年間の通年のデータを得ることができた。サンゴ礁における海水中の二酸化炭素濃度などについては、過去に数日間の測定は行われていたが、このような海洋における通年の連続観測は、世界で初めてである。
 得られたデーターの現時点までの解析では、1)サンゴ礁における海水中の二酸化炭素は、日光、水温、潮汐などにより規定されて大きな日周変動(200ppm-600ppm)を繰り返すとともに、季節的な変化もあること、2)全体として、サンゴ礁における海水中の二酸化炭素の濃度は大気中の二酸化炭素の濃度より低く、少なくともサンゴ礁の場では二酸化炭素は吸収されているであろうことなどが明らかになった。

 偶然にも、昨年広く関心を集めた石垣島白保一帯でのサンゴ礁の白化現象が起きた直後からこの観測が始まった。一度白化が起きるとサンゴ礁は元に戻らない可能性も指摘されている中で、この観測により部分的ながら白化が起きた後にサンゴ礁が再生していることが確認されるなど、白化とそれに伴う二酸化炭素吸収・放出過程について一連の貴重なデータを得ることができた。今後のさらなる解析が期待される。

 今後、得られたデーターを詳細に解析することで、サンゴ礁における二酸化炭素の収支を明らかにし、地球温暖化防止につながるサンゴ礁の役割解明をめざす予定であり、いずれは二酸化炭素吸収の最適条件の抽出などによってサンゴ礁を応用した二酸化炭素固定化技術などが創出されることが期待される。

 今回観測した石垣島白保サンゴ礁は裾礁型であるが、もう1つの代表的なサンゴ礁として堡礁(※2)型のサンゴ礁がある。石垣島での通年観測の成功を受けて、同グループでは今後、堡礁の代表的なサイトであるパラオ共和国のサンゴ礁での通年観測を開始する予定である。

(※1)裾礁(きょしょう):島に接して広がるサンゴ礁
(※2)堡礁(ほしょう): 海岸に平行に形成された沖合のサンゴ礁

・石垣島白保サンゴ礁におけるCO2連続通年観測

(問合わせ先)
(研究内容について) 茅根 創(かやねはじめ)
東京大学大学院 理学系研究科 地理学専攻 助教授
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
TEL:03-5841-4573
FAX:03-3814-6358
(事業について) 石田秋生(いしだあきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL :048-226-5635
FAX :048-226-1164

This page updated on October 28, 1999

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