図の説明


図1

大脳前頭葉から側頭葉へのトップダウン信号仮説(概念図)


 通常の視覚認識においては、目の網膜から入った外の世界についての情報は、後頭葉の一時視覚野から側頭葉の高次視覚連合野、さらに前頭葉へと流れることから「ボトムアップ信号」と呼ばれている。この高次視覚連合野に記憶が貯蔵される。記憶を想起するときには前頭葉から側頭葉の記憶貯蔵庫に向けて検索信号が発信されている可能性がある。この検索信号は、視覚認識の信号と逆方向に流れ、しかも前頭葉がヒト大脳皮質の最高の中枢であるとの考えから「トップダウン信号」と呼ばれる。
図2

カテゴリー型連想記憶課題


 被験者(サル)に長期記憶の貯蔵庫から記憶を想起してもらうための実験課題。この課題では、コンピューターで人工的に合成した25枚の図形を用いる。このうち20枚は手がかり図形であり、4枚ずつT〜Xのグループ(人工的カテゴリー)に分けられている。各々のカテゴリーには連想すべき選択図形が一枚ずつ対応している。20枚の中の1枚の図形を手がかりとしてサルに見せてやると、サルはその手がかり図形が属するカテゴリーに対応する選択図形を想起しなければならない。
図3

トップダウン信号とボトムアップ信号の分離


 通常の状態ではトップダウン信号とボトムアップ信号は脳内で入り交じっており、トップダウン信号だけを単独に観測することはできない。この実験では脳梁後半部と前交連が切断されており左右の脳半球の結合が部分的に遮断されている。視野の右半分に図形を提示すると、左半球の視覚野のみが視覚一次野からの入力を受ける(ボトムアップ入力)(左図)。視野の左半分に図形を提示すると、左半球の視覚野ではそのような入力は受けない。左半球の下部側頭葉から微小電極によって単一神経細胞活動を記録するとき('electrode')、この条件でもし応答があれば、脳梁の前半部を通じて前頭葉から下部側頭葉へと至る経路から神経活動が伝わっていることになる(トップダウン入力)(右図)。
図4

トップダウン信号の存在


 下部側頭葉からの微小電極による単一神経細胞活動記録の例。同一細胞がトップダウン信号(青)とボトムアップ信号(黒)の両方を受けている。トップダウン信号は前頭葉における情報処理に必要な時間の分だけ到達が遅れている(赤矢印)。
図5

トップダウン信号の性質:カテゴリーと連想対象


 トップダウン信号は、手がかり図形を見せた後の遅延期間には、手がかり図形そのものの情報ではなく、想起すべき選択図形に対応したカテゴリー情報をコードしている。たとえば、この神経細胞は、カテゴリーTに属する全ての図形の提示後強く活動するが、カテゴリーXに属する図形の提示後は活動しない(左図)。この遅延期における発火パターンは、想起すべき選択図形そのものに対する活動と対応しており(右図)、サルが記憶を想起する際の認知的情報を伝えていることがわかる。

This page updated on October 18, 1999

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