お知らせ


平成11年10月7日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話048-226-5606(広報担当)

個人研究推進事業における成果について
「有機結晶における磁気的室温双安定性の発見」

 科学技術振興事業団(理事長 中村 守孝)の個人研究推進事業において、研究課題「有機・無機複合ナノコンポジットの動的な磁気的性質」(研究者 阿波賀邦夫 東京大学大学院総合文化研究科 助教授)に関して行われた研究で、TTTAと呼ばれる有機結晶において、結晶構造と磁気的性質が異なる二つの相が室温において共存しうるという、「室温双安定性」を発見した。本成果は、10月8日付米国科学雑誌「サイエンス」にて発表される。

 一つの物質の中で、性質が異なる2つの安定状態間の遷移を自由にコントロールできれば、センサーやメモリーへの展開が期待できることから、様々な物質探索が行われている。
 本研究は、有機結晶TTTA (1,3,5-trithia-2,4,6-triazapentalenyl) の磁気特性を調べたところ、分子が1次元的に等間隔に並んだ構造をもち常磁性を示す高温相と、分子が二量化して反磁性を示す低温相の間に、大きなヒステリシスをもつ一次相転移が起きることを見いだし、有機結晶における磁気的室温双安定性を見出したものである。この相転移は、昇温過程では 305 Kで生じる一方、降温過程では 230 K で起こる(図1)。つまり室温(298 K)において、磁気的性質が全く異なる両相が安定に存在することができる。分子性結晶におけるこのような磁気的な室温双安定性は、これまで金属錯体で数例知られているものの、純粋な有機物で見いだされたのはこれが初めてのことである。
 TTTAの高温相と低温相とは色調が異なり、これを利用して光照射よってこの相転移が引き起こすことができれば、光メモリーなどへの応用が十分期待できる。
 TTTAのもうひとつの特長は、この物質が低次元磁性体のモデル物質である点である。従来有機磁性体中では、平面的な分子が積層するため、磁気的な分子間相互作用が結晶の1方向にのみ強く働く1次元磁性体の格好のモデルとされてきた。ここには量子効果やスピン−格子相互作用が顕在化しやすいことが知られており、古くから物性研究がなされている。今回発見されたTTTAの相転移は、高温相の1次元積層カラム間の強い相互作用に由来する可能性があり、低次元磁性体の新しい側面として、この研究分野にも新風を吹き込んだ。
 以上、TTTA の相転移の特異性は、双安定特性という観点からも、低次元磁性体という観点からも興味深いものであり、基礎から応用まで、幅広い視点から注目されるものと思われる。

注(用語の説明)
 常(反)磁性:物質に外部磁場をかけたとき、物質内部に生じる磁場が外部磁場の方向を向いている場合、この性質を常磁性といい、物質内部に生じる磁場が外部磁場の方向と反対の方向を向いている場合、この性質を反磁性という。この常(反)磁性の程度が常磁性磁化率で示される。

研究の概要
図1
図2

問い合わせ先
(1)阿波賀 邦夫(アワガ クニオ)
  東京大学大学院総合文化研究科 助教授
  〒153-8902東京都目黒区駒場3-8-1
  Tel 03-5454-6750
  Fax 03-5454-6768
(2)日江井 純一郎(ヒエイ ジュンイチロウ)
  科学技術振興事業団 個人研究推進室
  〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
  Tel 048-226-5641、Fax 048-226-2144

This page updated on October 8, 1999

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