お知らせ


平成11年9月8日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話048-226-5606(総務部広報担当)
URL http://www.jst.go.jp/

細胞活動の一つであるアポトーシス*1において
重要な役割を果たす新規たんぱくを発見

 科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「脊髄性筋萎縮症発症メカニズムの解析」(研究代表者:辻本賀英)で進めている研究の一環として、アポトーシスにおいて重要な役割を果たす新規たんぱくを発見した。この研究成果は、大阪大学大学院医学系研究科バイオメディカル教育研究センター遺伝子学研究部の辻本賀英教授のグループによって得られたもので、この成果は、9月9日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 ヒトを含めた大部分の生物の細胞にはアポトーシス機構が備わっており、これは胚発生期の形態形成、組織の恒常性の維持、有害・不要細胞の除去といった多彩な生命現象に関与している。その反面、アポトーシスの異常はがんや神経変性疾患などの多くの疾患発症の原因にもなっていることから、アポトーシスの研究は疾患治療の面からも注目を集めてきた。

 アポトーシスは、特殊なたんぱく分解酵素の活性化が引き金になって起こることが知られている。また、アポトーシスに特有な現象である、核の内部においてその構成要素のひとつであるDNAとたんぱくの複合体が凝縮する現象(クロマチン凝縮)、核の断片化、細胞の分断化などの劇的な変化が観察され、これによって細胞が死に至る。しかし、その機構・関連する要因については、多くの関心を集めてきたものの長い間不明のままであった。

 今回、辻本らは、アポトーシスの過程において、特に核の内部で起こる現象の機構・要因を解明することを目的に、新規の実験手法を確立し、本実験を行った。

 その結果、核内のクロマチン凝縮を引き起こすたんぱくを世界で初めて発見、これを単離・精製することに成功した。このたんぱくはアシナス (Acinus:apoptotic chromatin condensation-inducer in nucleus)と命名された。

 また、クロマチン凝縮が発生する機構においても、その初期段階においてアシナスが特殊な分解酵素の作用を部分的に受けること、この作用がアシナスの活性化に必須であること、活性化されたアシナスは核内のクロマチン凝縮に重要な役割を果たすことなどを明らかにした。

 今回の成果は、アポトーシスを特徴づける核内変化の一つ、核内のクロマチンの凝縮に関わる因子を初めて見い出したものである。アポトーシスの機構の解明を進める上で重要な発見であり、将来的にがんや神経変性疾患などの多く難病の治療技術に展開するものと期待される。

*1:生体のある条件のもとに引き起こされるもので、細胞が自らを死に至らしめる現象


補足説明

(問合わせ先)
(研究内容について) 辻本賀英(つじもとよしひで)
大阪大学大学院医学系研究科 バイオメディカル教育研究センター遺伝子学
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2
TEL:06-6879-3360
FAX:06-6879-3369
(事業について) 石田秋生(いしだあきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL :048-226-5635
FAX :048-226-1164

This page updated on September 10, 1999

Copyright©1999 Japan Scienceand Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp