磁気中性線放電プラズマによる表面処理装置


研究者 内田 岱二郎  東京大学名誉教授
名古屋大学名誉教授
開発企業 中村 久三 日本真空技術株式会社 代表取締役社長
(推薦者 宮島 龍興 財団法人大河内記念会 理事長)


内田 岱二郎 氏


中村 久三 氏

1.技術の背景

 プラズマとは、放電等により原子核のまわりを回っていた電子が原子から離れ、正イオンと電子に分かれた荷電粒子を含む気体のことであり、核融合の研究や半導体製造プロセスに応用されている。半導体製造分野ては、プロセスの低温化や制御性の良さからプラズマがスバッタリング、エッチングやCVD等による薄膜製造に利用されている。
 半導体分野では、集積度の向上に伴い、半導体素子の急速な微細化が進んでおり、サブミクロンオーターの加工技術も進展している。また、製造コストの低減のために、現在は主に8インチ径のシリコンウェハが使われているが、12インチウェハの利用が近い将来に予想されている。このため、微細加工に対応可能な高い選択性を有し、制御性に優れ、大面積での均一性が良いなとの性能がプラズマエッチング装置等に要求されてきている。プラズマエッチング装置にはICP方式やECR方式なと種々のものがあるが、均一性の向上及び低圧高密度プラズマの低温化が必要になっている。

2.技術の概要
 
 本技術は、プラズマエッチング装置に関するものであり、線状の磁場零を含む領域に発生させた放電プラズマ(NLDプラズマ)を用いることにより、プラズマの制御性に優れ、かつNLDプラズマの特徴として低圧で低湿・高密度のプラズマが生成できるため、半導体のエッチング等において均一性や選択性、微細加工に優れる等の特徴を有するものである。
 本研究者らは、NLDプラズマの生成方法並びに低圧で低温・高密度のプラズマが可能であることなとの基本的な特性を見出し、NLDプラズマをプラズマエッチング装置に利用することにより本技術を実現した。その詳細は以下の通りである。

(1) 3段に重ねたコイルのうち中央のコイルに上下のコイルと逆方向の電流を流すことにより、中央コイル内側にループ状の磁場零(磁気中性線)を含む領域を生じさせる(図1)。この磁気中性線に沿って放電することにより生じる放電プラズマはコィルに流す電流を変えることにより容易に空間的・時間的に制御することが可能となる。
(2) 磁場零を含む領域では、高周波電場を加えた時電子は非線形・非可逆運動を繰返し、カオス的効果によって急速にエネルギーを取得してイオン化を促進する。その結果、低圧で高密度低温のプラズマが得られ、選択性を低くするCFラジカルの分解が少なく、高速電子をもつICPやECRに比べて微細加工に優れ、エヅチ速度も速い。
(3) プラズマエッチング装置は、コイルの上方にプラズマにする気体の導人孔、コイル下部に処押するシリコン等基板を平行に置き、そのさらに下部に排気孔を有する構造となっている(写真1図2)。8インチウェハーを用いて本装置によるシリコン酸化膜のエッチングを行い、エッチング速度が速いことや均一性に優れること、エッチング性能が良好であることを確認している(図345)。

3. 効果

 本装置は、プラズマの制御性の良さから大面積でのエッチングの均一性に優れ、また、温度が低いことによりエッチングの性能に優れるなとの特徴を有する。他のエッチング装置では、装置構造が決まると均一性の得られる範囲が限定されるが、本装置では磁場を変えることにより広い範囲で均一性が得られる点、他に見ない特徴を有する。
 こうした特徴より、半導体素了の酸化膜エッチングや光素子に利用される石英ガラスのエッチング等に利用されており、次世代のプラズマエッチング装経として一層の利用が期待される。


This page updated on July 23, 1999

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