抗菌剤の新しい包接材料の設計と開発


研究者 戸田芙三夫  岡山理科大学 理学部 教授
開発企業 三東崇秀 栗田工業株式会社 代表取締役社長
(推薦者 野依良治 名古屋大学 理学部 教授)


戸田芙三夫 氏


三東崇秀 氏

1.技術の背景

 紙・パルプ工業における製紙工程や各種工場における冷却水系には、細菌や真菌によ るスライムが発成し、腐敗や汚染による製品の品質低下や生産効率の低下、熱効率の低 下や通水の悪化等の障害を引き起こしている。近年では、冷却水系でレジオネラ属菌が 繁殖してレジオネラ症の感染源になっており、その対処が求められている。  
 従来、スライムによる障害を防止するために、多種の抗菌剤が使用されている。その 中で、S−クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(Cl−MIT)は、もっとも 一般 的な工業用抗菌剤であり、細菌、カピ、酵母等に対する抗菌スペクトルが広く、紙・パ ルプの製造工程や冷却水系のスライムコントロール剤、ラテックス・接着剤・塗料等の 工業製品用防腐剤として広く使用されている。 しかし、皮膚に対する刺激性が非常に強 く、取り扱いにくい。また、安定化剤として金属塩類を含んでおり、エマルション製品 を凝集させたり冷却水系配管等を腐食させる等の不都合な点があった。
 一方、PLの法制化に伴い、抗菌剤の開発において安全性に対する規制が厳しくなっ ている。しかし、安全な新規の抗菌剤を見出す確率が低下している現状において、製剤 化により薬剤の欠力を解消する、あるいは薬剤に新たな機能を付与する技術が求められ ていた。

2.技術の概要
 
 本技術は、包接化合物による機能性抗歯剤に関するものである。
 包接化合物とは、空孔を持つ分子または分子の集合体(ホスト)の中に、他の分子(ゲスト)が取り込まれている化合物の総称である。ホスト化合物として、シクロデキスト リンやクラウンエーテル等の筒状、環状化合物が有名である。しかし、これらの化合物 は空孔の大きさにより、取り込むゲスト分子の大きさに制約があった。
 本研究者らは、空孔を持たないホスト化合物がゲスト化合物と交互に配列することにより、結晶性の包接化合物が形成されることを見出した(図1)。この包接法は、上記 の筒状、環状化合物による包接機構と異なり、ゲスト分子の制約が少なく、アセチレン アルコール系やフェノール誘導体が多種多様のゲスト化合物を包接することを本研究者 らは明らかにしている。このような包接化合物をつくるホスト化合物として、ゲスト分子を取り囲むフェニル基とゲスト化合物と水素結合を形成する水酸基を持ち、かつアセチレン結合等の剛直な構造を持つ化合物が適している(図2)

3. 効果

 本技術は、本研究者らが確立した包接結晶形成技術を、抗菌剤Cl−MITをゲスト化合物として適用したものである。その詳細は以下の通りである。

(1) ホスト化合物溶液を撹拝しながら金属塩を含むCl−MIT水溶液を添加、反応させると、Cl−MITが高密度にかつ選択的に包接され、金属塩を含まないCl−MITとホスト化合物が格子状に配列した結晶が生成されることを確認した(図3、表1、写真1参照)。また、包接化によるCl−MITの安定化が確認された(図4)
(2) 得られた包接結晶抗菌剤の流動化製剤(包接化製剤)について、Draize法によるウサギの皮膚での一次刺激性試験を行った結果、従来の非包接製剤と比して大幅に刺激性が低下していることを確認した(図5)。これは包接化によりCl−MITが虚接皮膚と接触することが避けられるためと考えられる。
(3) Cl−MITが包接化合物より一定量溶出後それ以上溶出しない特徴が認められ、包接化による徐放性の付与を確認した。

This page updated on July 23, 1999

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