補足説明


 三方向に分岐した二種類の分子4個を金属イオンで連結させることにより、かご構造を持った同一の2分子が、化学結合を介さずに、互いが互いの骨格の隙間を通り抜けてつながった三次元分子(図1)をほぼ100%の収率でつくることに成功しました。

図1

 環状構造が鎖のようにつながった(内部連結した)分子はカテナンと呼ばれ、その特異な結合様式に基づく特異な物性や機能は発現が期待されています。カテナンのように、二次元的な環状分子を構成単位とする内部連結化合物の例は今日では数多く知られるようになりましたが、図に示したような三次元的なかご状分子を構成単位とした内部連結分子の例は知られていませんでした。このような複雑にからみあって内部連結した分子の構築は合成的に極度の困難を伴い、既存の化学的な合成手法の限界を超えるものであったためであります。このような分子の構築は、化学的な手法で分子を「結ぶ、縫う、編む」という「分子操作」を行う技術で、次世代の分子素子や分子材料の開発に必要不可欠な基盤技術の一つであります。
 今回は、「自己集合」と呼ばれる現象を利用して、小成分から三次元内部連結化合物をほぼ100%の合成収率でくみ上げることに成功しました。自己集合は、分子が弱い相互作用で集合し、最も安定な集合状態を求めた結果として特異な形態や機能を持った構造体が生成する現象であります。この自己集合のしくみは、DNA二重らせんの生成のように、従来は複雑な生体構造が自発的に組上がるしくみとして知られていました。このしくみを人工的な系で活用し、さまざまな構造体を自己集合でくみ上げる研究は最近注目を集めております。
 今回の反応スキームを以下に示します。用いた化合物は三方向に分岐した二種の化合物(1,2)と90度の結合核を持つ金属イオン3です。1および2は窒素原子状で金属イオンと相互作用する性質があります。一方、2は矢印で示した2方向で窒素原子と弱く結合する性質があります。これらの成分を混合すると、三次元内部連結化合物4が定量的に自己集合しました(図2)。

図2

 この構造はさまざまなスペクトル手法に加え、X線結晶構造解析の手法で、個々の原子の座標まで正確に決定することができました。原子半径を考慮して4の構造を眺めると、芳香環が四重に重なりあった内部連結構造であることがわかりました。この安定な「芳香環の四重の重なり」が4の自己集合の駆動力と考えられます。
 この化合物4自体に特異な物性や機能が見られるわけではありません。しかし、この研究の成果は分子を三次元的に編み込むことを可能にする高度な「分子操作技術」を示すものであり、同時に「新しい物質構築手法」を示したものであります。内部連結化合物はその特異な結合様式に基づいた特異な高分子化合物の創製や、新機能・新物性の創出も期待でき、本手法で得られる高度な内部連結化合物は、将来的に実用化の可能性を秘めております。

図3

三次元的に内部結合した化合物4のX線結晶構造(図3)。
(上)原子半径を考慮した結晶構造。
(下)シリンダーモデルで示した結晶構造を横からと上からみたもの。


This page updated on July 8, 1999

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