(補足説明)
強磁性体に存在する磁区は、その不揮発性という性質から磁気記録媒体として広く用いられており、磁区の微細化による更なる高密度化が現在試みられている(Ref)。これらの媒体の中のバブル磁区は磁気記録にとって非常に好都合であり、また、微細な形状が得られるが、外部から磁場を供給されることによってのみ存在するため、現在広く用いられるに至っていない。もしも、外場なしにバブル磁区が存在することができれば磁気メモリの信頼度の向上やダウンサイジングが可能である。我々は今回、層状構造の強磁性体結晶にビルトインされた、無磁場下でのバブル磁区の発現を初めて観測した。このような現象を適用すれば新しいタイプの磁気メモリが可能である。
近年の情報産業の著しい発達により記録密度の高い磁気記録媒体が求められている。記録密度の向上のためには、磁区のサイズが小さいことが必要である。一般に、一軸性強磁性体において無磁場下でエネルギー的に安定に存在するストライプ型磁区は、その形状から一次元方向にしか情報をインプットできないため、高密度の磁気記録には不向きである。ところが、そのストライプ磁区に、外部から容易軸方向に磁場を印加すると、外部磁場に反平行の向きの磁化を持つストライプ磁区が面積を減らすように磁壁が移動し、ある磁場より大きい磁場で円柱状のバブル磁区が生じる。この印加磁場のもとで生じるバブル磁区は、直径1マイクロメータ以下にすることも可能であるため、高密度磁気記録のビットとして適している磁区である。(1)さらに、このバブル磁区は、外部からの何らかの擾乱で断面の形状が円から変形しても、その擾乱がなくなると再び元の円形に自然に回復するという、記録媒体に必要な安定性を備えている。(2) (3) (4)しかし、バブル磁区の径は磁場に依存し、磁場が小さいとストライプ磁区になり情報を失うという欠点があった。我々は、走査型ホール素子顕微鏡(SHPM)を用いて、層状構造を有するLa1.4Sr1.6Mn2O7単結晶の磁区観察を行ったところ、従来のバルク強磁性体の磁区構造とは大きく異なっていることがわかった。そこでは、一部の温度領域で無磁場下で微細な磁気バブルが発生していることが判明した。
まとめると、走査型ホール素子顕微鏡によって、層状ペロブスカイト構造マンガン酸化物La1.4Sr1.6Mn2O7の磁区構造を観察したが、今までの強磁性体に見られないほど磁区構造の大きな温度変化が見られた。
特に注目すべきことは、磁場を必要とせず自発的に形成したバブル磁区が発見されたことである。このバブル磁区の成因は、c軸方向に隣接する磁区の間の相互作用によるものと考えられる。この相互作用はこの物質の自然にビルトインされた強磁性体多層膜という構造に起因している。磁区のサイズの制御等を行うことを考えると、本研究に用いられた単結晶試料より、人工的な多層膜をメモリに用いるほうが実用的である。ただし、人工多層膜では同様の磁区構造は今まで報告されていない。その理由に、磁区間の相互作用に関わる界面の平坦性や磁性層の均一性の影響が挙げられる。これらの問題を克服できれば、材料の磁気特性、層の厚さ、層間の距離を制御することによって、磁性体人工多層膜において層間の磁気的相互作用を積極的に利用した新規の磁気メモリをつくることができる可能性がある。
This page updated on July 8, 1999
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