お知らせ


平成11年6月2日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話048-226-5606(広報担当)

「分子のひもを結ぶ」

 科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「一方向性反応のプログラミング基盤」(研究代表者:木下一彦慶応義塾大学教授)で進めている研究の一環として、伊藤博康研究員(浜松ホトニクス筑波研究所)及び原田慶恵慶応義塾大学専任講師の指導の下に、同大学理工学部大学院生荒井康治氏は、ひも状の分子である一本のDNA(デオキシリボ核酸)に結び目を作ることに世界で初めて成功した。これは、顕微鏡の下で、光を使って両端をつまんで操作したもので、アクチンというたんぱく質でできた分子のひもも結ぶことができた。これにより、”分子モーター”の動く仕組みの解明や遺伝子操作の基本技術への展開が期待される。この研究成果は、6月3日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 本研究は、1分子内で機能を発揮するたんぱく質分子機械(分子があたかも機械のように設計され役割を果たしているもの)がどのように働くのか、一分子内で何が起きているかを光学顕微鏡の下で直接見て、操作することにより調べ、生命活動のプログラムの基盤を解明することをめざしている。
 DNAは太さは百万分の2ミリメートル、筋肉の収縮性たんぱく質であるアクチンでも十万分の1ミリメートルと極めて細い。長さ百分の2ミリメートルくらいのひもを、まず蛍光色素で染めて、暗闇で光って見えるようにした。その上で、ひもの両端に、直径千分の1ミリメートルのプラスチックの球を付けた。それをそれぞれ光ピンセット(顕微鏡の下で強いレーザー光を一点に集めると焦点に向かって引力が働き、ものをつかめる。焦点を左右に動かせば、ものも左右に動き、焦点を前後に動かせば、つまんだものも前後についてくる。)でつまみ、あとは手でひもを結ぶように、まず輪を作ってその中をくぐらせる。ものの数十秒で、結び目が完成した(写真はDNAの例で、1で直線状にしたものを2で二つ折りにし、3〜6で結び目をつくり、7でその結び目に片端を通し、8で両端を引き結び目をきちんと作った。3から7の写真の上部は説明のための模式図である)。

 今回の成果は、たんぱく質でできた一分子で働く「分子機械」の働きを、顕微鏡の下で直接見て、光ピンセットなどにより操作してみることで、分子モーターの働く仕組みを解明することに役立つものと期待される。
遺伝子組み替え技術は近い将来の遺伝子治療の基本になると予測されるが、これにはDNAの特定遺伝子の部分を切ったり張ったり特別な酵素を利用してつくられる。今回の成果は、これらの操作をより正確に操作出来る基本技術の展開にも活用されると思われる。

「分子のひもを結ぶ」(参考資料)

(問合わせ先)
(研究内容について) 木下一彦(きのしたかずひこ)
慶應義塾大学 理工学部 物理学科
〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉3-14-1
TEL:045-563-1141 ex.3975
FAX:045-562-8486 or 045-563-1761
(事業について) 石田秋生(いしだあきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部 
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5635
FAX:048-226-1164

This page updated on June 16, 1999

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