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平成19年度第2回プログラムオフィサーセミナー開催報告

プログラム 参加者実績

1.開催日

平成20年2月22日

2.場所

アキバホール

3.参加者数

200名

4.POセミナーの経緯と位置づけ

会場の様子
 プログラムオフィサー(PO)セミナーは、我が国にプログラムディレクター・プログ ラムオフィサー(PD・PO)制度が導入されたのを機に、2004年9月21日に第1回が開催され、今回は9回目となる。最初の3回は、米、英、独、加、豪のPOを招いて各国のPO制度の紹介をして貰うものであった。その後、日本のPOによる、海外の競争的資金配分機関での「PO研修報告」などを経て、日本は我が国に最適なPO制度を構築すべきではないのかとの認識に至り、「わが国に最適なPO制度を求めて」とのテーマでPOセミナーを開催し、また、競争的資金配分の中核的業務は、事前評価(採択審査)、中間評価、事後評価、追跡評価など研究開発の評価ではないのかとの認識の下に、「研究開発評価とPOの役割」とのテーマでもPOセミナーを開催した。
 ところで、米国においては、競争的資金の受け取り側である大学に大学側のPOとも呼べるURA(University Research Administrator)という専門職があり、このURAの存在が競争的資金配分業務の効率化、言い換えれば、科学技術振興の効率化に重要な役割を果たしていることを知り、前回(第8回)のPOセミナーでは、シカゴ大学とメリーランド大学のURAに講演して貰い、URAの実態を理解した。その過程で、POとURA、言い換えれば競争的資金配分機関と大学が連携・協力して競争的資金配分業務の制度改善に1986年以降22年にわたって取り組んでいるFDP(Federal Demonstration Partnership)という活動の枠組みがあることを知り、FDPの幹部にFDPの実態を紹介して貰うという位置づけで、「米国の競争的資金会計制度の柔軟性と柔軟性を実現してきた米国の仕組み」をテーマとして、今回のPOセミナーを開催することに至ったものである。
 これまでのPOセミナーを通じて、POとは何か、PO業務とは何か、我が国の競争的資金配分業務をよりよいものにするにはどうすべきかを模索して来たが、米国のFDPの活動は、その「解」にいたる道筋を示すものとして注目される。即ち、競争的資金配分業務は、配分側と受領側が連携・協力してPDCA(Plan-Do-Check-Action)を回しながら絶えず改善していくべき「動的(dynamic)」なものであり、そのような連携・協力の枠組みをつくりマネジメントして行くことこそが重要であることを示している。
 今回のPOセミナーはこれまでのPOセミナーの集大成と位置づけている。これまでのPOセミナーは「学ぶ」ことが目的であったが、今後は「行動する」ことに主題が移っていくべきものと考えている。

5.各講演の概要

(1)「開会の挨拶」相澤益男 総合科学技術会議 有識者議員
 相澤議員は2007年10月まで東京工業大学の学長を務め、以降、総合科学技術会議の有識者議員として我が国科学技術政策の舵取りをする立場に立たれた経緯を紹介されたあと、総合科学技術会議がこれまでに取り組んできた競争的資金制度改革について説明され、かつ今後取り組むべきこととして5つの課題を指摘された。
 以下はご挨拶の概略である。
 現在の競争的資金制度は過度の細分化や継続性の点で改善すべき点があるのでないか。若手、女性など多様な研究人材への対応や、ハイリスクで独創的な研究課題への対応でも改善すべき点があるのではないか、さらに急増している応募件数への対応として審査や評価体制を強化すべきこと、また競争的資金の資金効率の最大化のために、配分・使用システムなど公正な仕組みが確立される必要がある。その意味で、本日のPOセミナーのテーマは時宜にかなったもので、総合科学技術会議としても全面的に賛同するものであり、我が国の競争的資金を使いやすいものにするために、活発な議論がなされることを期待する。

(2)「セミナー開催の背景説明と講演者の講演概要:米国の競争的資金会計制度の柔軟性と柔軟性を実現してきた米国の仕組み」高橋 宏 科学技術振興機構 主監
 POセミナー開催の背景と趣旨、今回のセミナーのテーマである「米国の競争的資金会計制度の柔軟性と柔軟性を実現してきた米国の仕組み」はFDP(Federal Demonstration Partnership)の内容を表現したものであること、今日の講演はFDP幹部の方々によるFDPの活動の紹介であることの説明がなされ、今日の講演の理解を深める目的で、FDPの概略、またFDPのこれまでの成果と米国の柔軟な研究費会計制度についての紹介がなされた。そして、我が国においてもFDP的な活動を開始する方策を討論する場として、科学技術振興機構、日本学術振興会、新エネルギー・産業技術振興機構、東京大学、東京工業大学、早稲田大学によるパネル討論を企画した旨の説明がなされた。
 以下は講演の概略である。
 米国は1970年代から競争的資金の急増傾向が顕著となり、競争的資金に伴う煩雑な事務手続きなどの弊害を改善すべく1985年に全米科学アカデミーの一部局である産学官研究円卓会議(Government-University-Industry Research Roundtable:GUIRR)の主催で競争的資金に関する公聴会が開催され、改善すべき多くの問題点が指摘された。
 これを受けて、1986年より、フロリダ大学やマイアミ大学またNSFやNIHなど、一部の大学と競争的資金配分機関が協力して、競争的資金に関わる煩雑事務(Administrative burden)をFlorida Demonstration Project という枠組みで改善する活動を始めた。この活動の特徴はDemonstrationという言葉が示すように、改善案を実験を通じて実証するところにあり、フェーズIとして2年間続けられたが、1988年よりFederal Demonstration Project と名前を変え、かつ21の大学と11の競争的資金配分機関が参加し、フェーズIIとして8年間続けられた。このフェーズIとフェーズIIの10年間の活動により、繰越、費目間流用、予算のつかない研究期間の延長(No Cost Extension)、などが、大学側の判断だけで実行できる仕組み(Expanded Authority)を実現した。これにより研究者の研究時間が大幅に増えたとのことである。1996年からの6年間はフェーズIIIとして、また2002年からの6年間はフェーズIVとして、合計12年間に、65〜98の大学と10〜11の競争的資金配分機関が加わり、Federal Demonstration Partnershipと再度名前を変えて、競争的資金配分業務の電子化(Electronic Research Administration:ERA)等に取り組み、米国の電子政府構築の模範となった。今年(2008年)はフェーズIVの最後の年であるが、10月以降2014年までさらに6年間、フェーズVとして活動する準備が進められている。
 こうしたFDPの成果は年に3回の全体会議(General Meeting)と、テーマ毎のタスクフォースや作業部会で大学と競争的資金配分機関が議論を重ね改善策については実験(Demonstration)により実証をすることで、導入が図られており、今年1月10-11日にワシントンの全米科学アカデミーで開催されたFDP全体会議にJSTから3名が参加し、その活動状況を見聞してきた。 FDPの過去22年間の歴史で米国人以外が参加したのは初めてとのことであった。
 FDPの活動は、1993年にゴア副大統領が発表した文書の中で、また2002年にはフェーズIIIの活動を開始するに当たって大統領府科学技術計画局の局長であるDr. John Marburgerが行ったスピーチの中で絶賛されているが、FDPの活動が大きな成功を収めている要因の一つとして、大学側のPOとも呼べるURAの存在があり、その団体が1959年(FDP発足の27年前)に発足して活躍しているなど、FDPの活動を支える人材が整えられていることが大きいと思われる。
 今回のPOセミナーで講演するミネソタ大学のProf. Joseph KonstanはFDPフェーズIVのVice Chairであり、Ms. Joanna Rom は、6人いるCo-Chairの一人である。また、Dr. Machi Dilworthは現在NSF東京事務所の所長であるがNSFのPO・PDを長年経験しており、その立場からFDPの活動について、紹介して頂く。

(3)「Cooperative Framework of Institutions and Funding Agencies to Improve Administrative Burden:The Story of the Federal Demonstration Partnership (FDP)」、 Ms Joanna Rom、Executive Committee、 Federal Demonstration Partnership、Deputy Director Planning, Coordination and Analysis、 Office of Budget and Award Management、 NSF
 Ms. Joanna RomはNSFの事務部門の副部長であるが長年FDPの活動に従事し、現在、FDPのCo-Chairを務めている。FDPの活動の全体像の紹介がなされたが、以下は講演の概略である。
 FDPは国家機関である競争的資金配分機関(Funding Agencies)の事務部門とPO、また大学の研究者やURAと呼ばれる競争的資金担当の専門事務職など、ファンディング関係者が一堂に会して、競争的資金制度の煩雑な事務の改善を図る活動の枠組みである。活動費用は会員組織であるFunding Agencies及び大学の会費、でまかなわれている。なお、FDPの親組織であるGUIRRには、NSFより一定金額がファンドされている。FDPの活動を開始した契機は、1980年代に競争的資金が研究費に占める割合が多くなるにつれ、繰越、費目間流用、研究期間の延長などの各種手続きが配分機関ごとに異なっていてかつ煩雑、さらに会計検査が厳密で融通が利かないなどの弊害が顕著になったことである。こうしたお役所的煩雑事務(bureaucratic accretion)を効率化するために、1985年6月5日に全米科学アカデミーの一部局である産学官研究円卓会議(GUIRR)による公聴会が開催され、それを受けて1986年から2年間、Florida Demonstration Project が実施された。その成果は、1988年から2002年までFDP会員組織の任意判断として全国展開され、かつその事務作業を一層効率化するためにNSFのFastlaneなどの電子システム(ERA:Electronic Research Administration)が構築されたが、この間のインターネット技術の進歩と相俟って、FDPの成果が一層効果的なものとなっている。
 2003年から今年(2008年)までのフェーズIVは、それ以前の16年間のFDP活動を集約しさらに発展させる成果を収めることができた。FDPの成果を独自の規則集(Terms and Condition)としてまとめたこと、研究の再委託契約のルールを定めたこと、研究代表者が複数いるプログラムを導入したこと、ファンディングに関わる情報専用のホームページ(grant.gov)を立ち上げたこと、コンプライアンス事項のフォーラムを開催したこと、大学においてなお存在する煩雑事務の調査を行ったこと、FDP会員の増大を図ったこと、小規模大学の競争的資金事務を支援する仕組みを導入したこと、ERAの充実のためFDP活動におけるIT技術者の役割が増大したこと、会計監査を規定するOMB(Office of Management and Budget:大統領府行政管理予算局)の告示を改定し簡略化したこと、などがその主なハイライトである。
 ところでFDPの活動で特徴的なことはDemonstration(実験)をすることである。Funding(競争的資金配分)業務の効率化に関し、新たなアイデアが生まれた場合、実験し、その結果を評価し問題点を洗い出し、さらに実験して、アイデアの実証を行い、その実現が規則の改正を必要とするものであれば、OMBやOSTP(Office of Science and Technology Policy:大統領府科学技術計画局)に対して実験事実に基づいて規則の改正を提案する。
 またFDPの活動は全てボランティアベースで行われていることも特徴である。FDPの活動で困るのは長期間(数年)かけて取り組んでいる課題に関し、政権が変わると方針や優先順位が変わることである。FDPの活動を推進する上で重要なことは、配分機関上層部の理解を絶えず得ていること、また必ず定期的に会合を開くこと、会計監査部門を非敵対的(=友好的)存在として議論の輪の中に取り込む方策を見出すことである。
 現在は、フェーズVのテーマや活動方針を検討する委員会が設定され準備を進めており、その内容はhttp://thefdp.org/phase_5_start_plan.pdfに記されている。

(4)「Sponsored Research:The University Faculty Perspective」Professor Joseph A. Konstan, Vice-Chair, Federal Demonstration Partnership, University of Minnesota,
 FDPの活動は、フェーズIII以降、大学のURAや配分機関の事務部門の人々に加えて、大学の研究者や配分機関のPOがより重要な役割を担うようになったとのことで、そうした背景を踏まえて、Prof. Konstanは、今年9月までが活動期間であるFDPのフェーズIVのVice-Chairを勤めている。Prof. Konstanからは、「FDPの活動における大学側の寄与と恩恵」という趣旨の講演がなされた。以下は講演の概略である。
 米国の研究者にとって競争的資金は極めて重要である。競争的資金によって研究し、研究室の学生やポスドクの給与等必要経費を支払い、かつ夏季休暇中の自分自身の給与すらまかなうことになっているからである。また大学も研究環境を充実させるために競争的資金の間接経費に依存しており、競争的資金は大学にとっても重要なものである。しかしながら競争的資金は決して贈り物(gift)ではなく、あくまでも研究費であり、研究の為に使用すべきであるということが大前提となる。このため、種々の規則や制約、また会計処理を含む事務作業が伴うことはある程度やむを得ない面がある。しかし、そうした事務作業によって研究時間が減るということがあれば、本末転倒である。しかも、研究者は研究においては十分な訓練を受けているが事務作業に関して、特に会計的な事務に関しては、全く訓練を受けていない。このために、一般社会において会計士や弁護士などの専門家が必要であるように、競争的資金においても専門知識を有する専門家が大学においても必要であり、これがURA(University Research Administrator)あるいはRA(Research Administrator)である。即ち、大学の研究者(ファカルティメンバー)は、URA(あるいはRA)と連携してFDPの活動に寄与することになる。一方、研究業務は特殊業務であり、外部からは理解されにくい業務である。このため、研究者が自ら、競争的資金に係わる事務作業にどれだけの時間を割いているかなどの実態を示すことはFDPの活動推進に重要である。そこで、それまでにも予備的な調査はなされていたが、2005年に、競争的資金に係わるAdministrative Burden(事務上の負荷)やそれ以外の一般事務、また研究や教育活動に係わる大々的な調査がProf. Konstanらによりなされた。その統計データがその後のFDPの活動の方向付けに重要な役割を果たしている。
 このようにFDPの活動は、競争的資金制度を改善(improve)し、使いやすく(streamline)することが目的であり、その実務担当者は、大学においてはURAやRAであり、配分機関においては事務部門が中心的な役割を果たすが、その対象が特殊業務である研究であることから、ファカルティメンバーが関与することで、真に効率的な制度改革を推進することが出来る。

(5)「FDP from a Program Officer's Perspective」 Dr. Machi Dilworth、 Director、 NSF Tokyo Office
 Dr. Machi Dilworth には、2004年9月21日に開催された第一回POセミナーにおいて、NSFのPO制度の紹介をして頂いた。その後、NSFのPDになられ、昨年9月よりNSF 東京事務所の所長をしておられる。こうした経験を背景に、FDPの活動におけるPOの役割を講演して頂いた。以下は、講演の概略である。
 NSFのPOは基本的に元研究者であり、一部には現役の研究者もいる。そして、競争的資金配分業務の内のサイエンスに係わる部分を主に担当する。その意味で競争的資金の受領者側である大学の研究者(ファカルティメンバー)のカウンターパートという位置づけになる。従ってFDPの活動に対する寄与も、Prof. Konstanが述べたように、大学の研究者の役割を配分機関側において担うことになる。要は、FDPの活動は、大学側の事務部門と研究者、配分機関側の事務部門とPOが協力して、税金である競争的資金の効率化を図り、研究成果の最大化を図ることである。

(6)Ms. Joanna Rom、Prof. Konstan、Dr. Machi Dilworthの3名に対する総合質疑応答
 米国のFDPに関し講演して頂いた3人に対する総合質疑応答において、概略以下の質疑がされた。

1.エフォートに関する質問
Q:研究者は、大学において研究活動だけではなく、教育活動も行っており、複数研究課題に取り組んでいる研究者もいる。この場合、ある特定の研究課題に関し競争的資金を受領した場合、研究者がその研究課題に割く活動時間の割合をエフォート(effort)と呼んでいる。日本の場合、このエフォートの定義が曖昧であるが、米国のエフォート管理はどのようになされているのか。
A:米国の研究者はエフォートに基づいて、本給以外の給与を支払われており、エフォートの数値自体は厳密に定義され、厳格な管理がなされている。但し、実際の研究者の日常の活動時間は多様であり、日々の時間管理は定性的かつ柔軟なものとならざるを得ない。こうした問題を、大学の外にいる配分機関が管理するのは基本的に無理があり、一方、一般のAdministration(事務)担当者は、どうしても管理優先になる傾向がある。その意味でも、研究を理解し競争的資金に関する事務能力を有するURA(University Research Administrator)あるいはRA(Research Administrator)という専門職が米国の大学に存在する意義は大きい。

2.FDP活動の成功要因
Q:競争的資金制度は資金を供給する側と受領する側という基本的に異なる機能から成り立っている。このような基本構造を考えた場合、大学側と配分機関側が協力して制度改革に取り組むFDPの活動を円滑に運営していくのは易しいことではないように思われる。それにも係わらず、FDPの活動が20年以上継続し大きな成果を挙げてきた原動力は何だと思うか。
A:大学側も配分機関側も、科学に貢献するという点では目的は一緒であり、かつ納税者に対して説明責任(accountability)を有するという点でも共通の基盤の上に立っている。この原点をいつも念頭に置くことが重要である。しかし、FDPの活動を実施し継続する上で、大学、配分機関双方のシニアマネジメントのリーダーシップが重要な役割を担ったことも事実である。

3.競争的資金の増加に対する配分機関側の対応
Q:午前の講演の中で、FDPの活動が開始された1986年は、米国の競争的資金が激増する時代の最中であったとの説明がなされた。競争的資金が激増すれば、その配分業務も激増するはずだが米国はどのように対処したのか。
A:1970年代頃から激増してきた競争的資金に対し、その配分業務の事務作業が激増したことは事実であるが、また、配分機関の人員が殆ど増えていないことも事実である。それに対し、三つの方法で対処がなされた。一つは、配分機関スタッフの生産性向上であり、二つめは、FDPの活動により実現したExpanded Authorityによる事務作業の大学側への移管、三つ目はFDPの成果であると同時に技術進歩の恩恵であるところの電子化による事務作業の効率化である。特に電子化の威力は大きく、いまなお、事務の電子化(ERA:Electronic Research Administration)の推進はFDPの活動の大きな柱の一つである。即ち、FDPの成果は、研究者に恩恵をもたらしただけではなく、配分機関側にとっても事務作業の負担を軽減し、配分業務の効率化をもたらし、競争的資金に関わる戦略的な活動に、より多くの時間配分をする恩恵をもたらしたことになる。

4. FDPの各種会合の運営方法
Q:FDPでは年に3回の全体会議および作業部会、タスクフォースなど会合など行っているとのことであるが、それぞれの会合におけるトピックス(議題)はどのようにして設定しているか、またそこでの資料はどのようにして作るのか、さらにそこで配布された資料はどのように扱っているのか。 言い換えれば、FDPの会議出席者がそれぞれ大学や配分機関を代表する者であり、個人ではないところから、出席者はどのようにして自分の所属する組織の意見を集約してFDPの会合に臨むのか、また、FDPの会合に提出する資料や、FDPの会合での発言は所属組織によりどのようにオーソライズされるのか、またFDPの会合での決定事項は、どのようにFDPの会員である全組織に周知されるのか。
A:現在FDPのフェーズVの活動方針を策定する作業が進められているが、フェーズVにおいては、FDPの幹部構成も変わるし、会員の異動もあり得るわけで、その対応は、通常の対応とはやや異なる部分がある。しかし、全体としては、FDPのExecutive Committee がExecutive Committee委員会の場で、あるいは会員機関(大学や配分機関)と相談しながらFDP活動の項目(会合の議題)を決めていく。但し、そのプロセスは単純なものでは無く、FDPの歴史の中でも変遷してきているし、その時々の出来事によって影響を受ける場合もある。 また、以前は、実際の会合を開くことで議論を深めて行ったが近年はEーメール上で議論を深めて行くことが多い。またFDPの各種会合に提出された資料やそこでの決定事項など絶えずWEB上で関係者に周知がなされ情報の共有化がなされている。

5. 米国以外のFDP的な活動
Q:米国以外で、例えば欧州のどこかの国でFDP的な活動をしている事例はあるか。
A:3人ともそのような話は聞いたことがない。

6.大学のローカルルール
Q:日本の大学においては大学毎に競争的資金に関するルールが異なっていて、それが競争的資金による研究活動の効率化を阻んでいる場合がある。米国に於いてはそのようなことは無いのか。またそのようなローカルルールの解消にどのような取り組みが為されているか。
A:大学によってルールが異なる原因として、大学の内部要因と外部要因がある。外部要因としては州法の相違がある。いずれにしろ米国において大学間でルールが異なる場合があることは事実である。また大学間だけでは無く、同じ大学の部局間でのルールの相違というのもある。それは、考え方(哲学)の違いによるものもあれば、大学や部局の組織規模の違いが人員リソースの違いとなり、ルールの違いが生ずることもある。但し、その違いは本質的な部分に係わるものは少なく、本質的な部分はFDPが例示(模範例)を示すことで、FDPの会員を通して共通化が進んでいる。

6.パネル討論

 米国のFDPの活動が競争的資金の柔軟性と効率化を図ってきたことを紹介するのが今回のPOセミナーの趣旨である。ところで、我が国に於いても、米国ほどではないにしても過去10年間に、競争的資金は大幅に増大し、競争的資金に特有の各種制約や事務作業が研究者の大きな負担となり研究活動を阻害している面があり、いろいろな場で問題提起がなされている、今の日本は、米国において1986年にFDPの活動が開始された時期と類似の状況にあると位置づけることもできる。そこで、我が国においても、米国に於けるFDP的な活動が始められないか、どうしたら始められるか、をテーマとするパネル討論を企画した。以下は、パネル討論の概略である。パネリストはPOセミナーのプログラムに示されている。
 <パネル討論概略>
 最初に、3つの配分機関と3つの大学、また内閣府からそれぞれの認識する我が国競争的資金制度の問題点や取り組に状況について約5分間ずつの紹介がなされた。いずれの紹介においても、我が国の競争的資金制度に少なからず改善すべき点があり、そうしたものの改善の為に、それぞれの組織が独自に改善活動を行っている面がある。それらには共通する部分もあれば、共通しない部分もあるけれど、いずれにしろ、我が国においてもFDP的な活動が必要であるとの認識は共有された。
 その後、各パネリストと会場をまじえていくつかの個別の問題点に関する議論がなされたが、今後取り組むべき課題も浮き彫りになった。具体的には、間接経費と直接経費の定義と相違、補助金と委託費の定義と相違、またこうした課題に関係する個別の問題事例などが議論されたが、こうした議論を通じて、大学側と配分機関側が一堂に会して、共通的に関係者が議論する場がこれまでなかったために、互いの理解度におおきなギャップがあることが認識された。我が国においても、研究と競争的資金制度の両方を熟知するURAあるいはRA的な人材は是非とも必要であること、また、我が国にもFDP的な活動が必要であることが改めて認識され、以下、今後、FDP的な活動を日本で始めるに当たってどのようにすれば良いかという議論がなされた。
 米国のFDPの活動は、競争的資金のAdministrative Burden(事務上の負荷)を軽減し、研究者のみならず、関係者の負荷をも軽減し、研究資金の効率化と研究成果の最大化を図ることであるが、この活動には、数多の配分機関、数多の競争的資金プログラムの間で異なるルールを出来るだけ統一化することも含まれる。この統一化ルールをFDPが拘束力のあるものとして制定できるのか、という問題がある。
 これに対し、配分機関はそれぞれ異なる任務(ミッション)があり、競争的資金プログラムにもそれぞれ異なるプログラム目的がある。米国のFDPにおいても、そうした事情を考慮して、全て統一化するということではなく、合理的な独自ルールは許容するのが基本となっている。つまり、FDPは、基本的には、会員である各配分機関、各大学に対して、一つの模範例(recommendation)を示すが、それを採用するか否かは各組織に任されている。但し、会員各組織が十分な議論をし、実験(Demonstration)し、合意をして定めたルールであり、結果としては、殆どの会員組織がFDPの決定ルールを採用している。日本においても、基本的には同様の考え方をとることになるという意見が大勢であった。
 むしろ、我が国にあっては、配分機関と大学が一堂に会して議論する場がこれまで無かったので、そうした場が出来るだけでも画期的なことであり、まずは、互いに議論するということからスタートすれば良いのではないかとの意見が大勢であった。
 なお、パネル討論の間においても、Ms. Joanna Rom や Prof. Konstan、Dr. Dilworthは貴重な発言をしており、以下にその概略を示す。

 Prof. Konstan:競争的資金制度の各種ルールは、大学や配分機関だけでは無く、OMBや会計監査に関わる部門など多くの人々が関与して、定められている。現在のルールは必ずそれなりの理由があって定められており、それを変更するということは、多くの関係者が皆納得する必要がある。そうしたいろいろな立場の多くの関係者にできるだけFDPに参加して貰い議論に加わってもらうことが重要であるが、立場の異なる多くの関係者を議論だけで一つの結論に集約していくことは極めて難しく、FDPではそれを実験(Demonstration)により実証して、合意形成を図っていく手法を採用している。DemonstrationはFDPの活動において、不可欠の機能である。

 Ms. Joanna Rom:Demonstrationはこれまでと異なる新たなルールを作ろうとするとき、必ずいる反対者に納得してもらう手段として有効である。なお、従来、無かった新たなルールの実験をすると言うことは、実験をする時点でのルールに対しては実験の場に限定されているとは言えルール違反をすることになるが、それは前もってOMB(Office of Management and Budget:大統領府行政管理予算局)の了解を得て実施している。但し、OMBの了解を得るためには、しっかりした理論的根拠を示す必要があり、かつリーダーシップを発揮することも重要である。

 Dr. Machi Dilworth:競争的資金配分業務(Funding)に関し、重要なことはAccountability(説明責任)である。特に科学に関するFundingに関しては、科学とFundingの両方を理解する者という位置づけのPOの役割は重要である。研究の目的またFunding対象となった研究の範囲などを理解するのはPOであり、POが最終の判断をする仕組みを作ることが重要である。即ち、科学に関するFundingのAccountabilityはPOが負う仕組みにNSFはなっており、FDPに於けるPOの役割もそのような位置づけになっている。

7.閉会の挨拶

 最後に科学技術振興機構の國谷実より閉会の挨拶があった。以下はその概要である。
 総合科学技術会議の相澤議員にご挨拶頂いた事、最後まで議論に加わって頂いた多くの参加者の方々、また、FDPに関し講演して頂いた3人の米国の方々、さらに、パネル討論に参加して頂いた大学及び競争的資金配分機関の方々に、感謝する。
 FDPのDemonstrationという手法は参考になるものであり、我が国の行政にも反映できるのではないか。
 FDPに関連した活動が今後、いろいろな形で展開されて行くと思うが、今後とも関係者のご協力を得たい。
以上。
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