高精度タンパク質間相互作用予測システムの開発

代表研究者: 清水 謙多郎 (東京大学大学院農学生命科学研究科 教授)

①目的

生体内のタンパク質は、その多くが他の生体分子と相互作用することにより機能を発揮しています。タンパク質の相互作用の理解は、生命システムの解明や医薬品、酵素の設計などに重要です。相互作用を解析するため、生化学実験や構造決定などの実験的手法が用いられていますが、それらは多くの時間と労力を必要とします。この研究では、バイオインフォマティクスの手法を利用して、タンパク質の相互作用を高い精度で予測し、必要に応じて原子レベルの詳細な解析が行えるようなシステムを開発します。

②研究概要

バイオインフォマティクスの手法を用いた高速で高精度のタンパク質-タンパク質、タンパク質-低分子の相互作用予測・解析システムを開発します。この研究では、以下の4つのテーマに取り組んでいます。(1) 2つのタンパク質が相互作用するかどうか、さらにどのようなタンパク質間相互作用ネットワークが構成されているかを予測する、(2) タンパク質が他の生体分子と相互作用する部位を予測する、(3) タンパク質とタンパク質の複合体のモデリングを行う(ドッキングシミュレーション)、(4) 高精度の複合体モデリングと詳細な相互作用の解析を行う。開発した手法は、多くの系に適用し、手法の評価、改良を行いますが、とくにその1つとして、芳香環二原子酸素添加酵素(ROS)に適用し、電子伝達時の相互作用の解明・体系化に貢献するとともに、ROSのもつ難分解性芳香族化合物の分解能の高い酵素の設計を目指しています。

③研究概要図

清水謙多郎高精度タンパク質間相互作用予測システムの開発

④成果

タンパク質間相互作用部位予測の手法として、コンピュータによる機械学習を用いて、タンパク質のアミノ酸配列情報のみを用いて予測する手法と、タンパク質のアミノ酸配列情報と構造情報の両方を用いて予測する手法の2つを開発しました。とくに後者については、タンパク質-タンパク質間相互作用残基を正しく予測できる割合を従来の手法に比べ30%以上向上させました。また、タンパク質-リガンド相互作用部位予測の手法を開発、従来のシステムの予測精度が50%程度であったのに対し、本手法ではこれを77%に向上させました。ドッキングシミュレーションについては、独自の高速・高精度の予測法の開発を行っており、従来のFFTを用いた方式(FTDock)に比べ、160倍から1,700倍の高速化を達成し、現在、さらなる精度の向上を目指しています。現在、この研究の成果の一部として開発したタンパク質-リガンド結合状態/非結合状態ペアデータベースは、以下のサイトに公開しています。
http://www.bi.a.u-tokyo.ac.jp/services/buddy/current/