脳スライス中で可視化した神経シナプスの自動解析

代表研究者: 川戸 佳 (東京大学大学院総合文化研究科 教授)

①目的

脳において神経シナプス結合の後部であるスパインに記憶が蓄えられる。スパインは蛍光色素を注入して可視化すると、ホルモンや薬物の作用を受けて、1時間程度で急性的に数や形態が変動する様子が観察できる。しかしこれらの解析には多大な時間を必要とするため、自動的に高速解析できる、新規なアルゴリズムを持つソフトウエアを開発する。これにより、ストレス起因うつ病や、性ホルモン低下による更年期型うつ病、またAlzheimer病の女性ホルモン補充療法による改善法、などの現代社会で緊急の課題に対し、その原因を解明し、その治療薬の作用の解析法を提供することが出来る。

②研究概要

神経のスパイン+樹状突起からなる構造体を、数学的演算を行い画像のトポロジー的特長を抽出することで自動解析し、これまでにないアルゴリズムを備えた3次元画像解析ソフトウェアを開発している。次にこのソフトウェアを用い、女性ホルモンやアクチビンといった性ホルモンやストレスホルモンが、記憶中枢の海馬において神経スパイン密度をどのように変化させるかを調べた。更に遺伝子改変マウスの脳で神経シナプスがどのように変異しているかについて解析をおこなっている。これ等のスパイン変化に必要なkinase 系も調べている。

③研究概要図

川戸佳脳スライス中で可視化した神経シナプスの自動解析

④成果

神経画像の数学的演算で樹状突起やスパインを検出する、神経シナプス自動解析プログラムSpiso-3D(XYZ)を開発した。このソフトウェアを用い、1)ストレスホルモン、女性ホルモンでスパインが増加すること、2)これらのスパイン変化はMAP kinase、A-kinase、C-kinase、phosphataseが巧妙に組み合わさった経路で駆動されていること、3)KOマウスの神経スパインの振る舞いの異常、などの新しい現象を発見した。