戦略的創造研究推進事業

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募集要項

IV.戦略目標

「異分野融合による自然光エネルギー変換材料及び利用基盤技術の創出」
(平成21年度設定)

1.戦略目標名

 異分野融合による自然光エネルギー変換材料及び利用基盤技術の創出

2.具体的内容

(1)本戦略目標の意義
 平成20年5月に総合科学技術会議が取りまとめた「革新的技術戦略」において、「高効率な太陽光発電技術」の開発は国を挙げて取り組むべき課題に選定された。また、「環境エネルギー技術革新計画」(平成20年5月 総合科学技術会議)においても、『新しい技術の芽を実用化するには、多くの技術的課題を乗り越える必要がある。これらの課題のブレークスルーを実現するため、新しい触媒や材料などを開発する基礎・基盤的な技術の研究を推進する。』と言及されており、既存の太陽電池が抱える課題を解決するための基礎研究が極めて重要と認識している。しかし、量産段階に入ったシリコン系太陽電池のさらなる効率向上及び生産合理化が企業を中心に行われているものの、次世代の社会を支える発電システムを構築するにはまだ多くの課題が残されている。また、政府の「低炭素社会づくり行動計画」(平成20年7月閣議決定)において、1太陽光発電の導入量を2020年に10倍(1,400万kW)、2030年に40倍(5,300万kW)にすること、23〜5年後に太陽光発電システムの価格を現在の半額程度にすること等を目標とするとともに、「安心実現のための緊急総合対策」(平成20年8月 政府・与党とりまとめ)においても、低炭素社会の実現に向けた新エネ技術の抜本的導入のための具体的施策として、家庭・企業・公共施設等への太陽光発電の導入拡大が位置付けられている。さらに、平成20年 11月に国土交通省、経済産業省、文部科学省、環境省の連携による「太陽光発電の導入拡大のためのアクションプラン」が公表され、関係省庁との連携を強化し、本アクションプランの取組の更なる深化・具体化が図られることとなった。
 革新的技術戦略を具体化すべく文部科学省が検討会を設置して取りまとめた「今後のナノテクノロジーを活用した環境技術の研究開発の進め方について」(平成20年7月)において、大学等の優れた人材を政策的に環境技術開発に誘導することによって、10〜15年先を見据えたブレークスルーのための研究開発の必要性が強調されている。また、環境技術の実用化のためには、オールジャパン体制によるプロジェクトを構築するとともに、ファンドの特長を活かした組み合わせによる立体的な研究支援を行う必要性が併せて強く指摘されている。
 自然光の中でも太陽光利用技術は、自然エネルギーからエネルギーを取り出す最も有力な手段であり、将来のエネルギー供給源としての期待が大きい。このような認識の下、米国も基礎研究からの強力な研究開発体制(HELIOSプロジェクトなど)で推進しており、太陽電池の世界シェアではドイツが世界首位の座を占めている中、太陽光利用技術は我が国の国益の観点でも、政府を挙げて最優先に取り組むべき環境技術である。

(2)具体的な研究開発課題
 太陽光利用技術の構築は、地球温暖化を止めることが最大の目的である。したがって、例えば太陽電池を作るために必要な全エネルギーよりも、作製した太陽電池が発電するエネルギーの方が十分大きい太陽電池製造技術を創出することが必要である。この技術を実現することにより、化石燃料を使わずに全世界の電力を太陽光発電で供給でき、二酸化炭素排出抑制に貢献することができる。
 太陽電池では、シリコン(結晶とアモルファス)や化合物半導体を用いたものは既に実用化段階にあり、産業界並びに経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトによりシステムの高効率化・低コスト化が推進されている。しかし、効率を維持しながら希少元素であるインジウムを使わない系の探索が求められるなど、挑戦的な課題も多い。一方、有機薄膜太陽電池、色素増感型太陽電池、量子ドット太陽電池等の新型高効率太陽電池並びに太陽光利用水素生成については、その将来性が大いに期待されているものの、実用化のためにはエネルギー変換効率の大幅改善や耐久性向上などが必須であり、新規材料技術の開拓が強く望まれている。また、新規材料技術に基づく原理解明と新構造の提案がさらなるブレークスルーを誘発すると期待される。このため、光電変換材料・触媒材料・色素材料の開拓、バンド設計、表面・界面制御、理論的な最大効率の検証など、基礎的研究レベルの課題を解決した上で、デバイス化さらにはシステム化へと道筋をつける必要がある。
 シリコン系太陽電池・化合物半導体太陽電池と比べて、それ以外の太陽電池は研究の進度に大きな隔たりがあるとはいうものの、太陽光を利用するという見地からは相互補完性を有しており、将来の発展性をより広く確保するためにも複線的な研究開発の推進が必要である。しかし現状においては、先行しているシリコン太陽電池と化合物半導体太陽電池は、市場における普及拡大を目指したコスト低減に力点を置いた研究開発が主に推進され、界面制御、薄膜・結晶成長、新材料開拓といった基盤的研究要素に対する支援が十分なされていない傾向にある。一方、有機薄膜・色素増感型太陽電池、新型高効率太陽電池や、太陽光利用水素生成と発電を同時に実現するようなシステムについては、いまだ市場での普及を考える段階には至っておらず、少なくともエネルギー変換効率の抜本的な向上に資する材料・プロセス・構造の開拓が不可欠である。また、太陽電池技術により培われてきた技術を活用することにより、太陽光エネルギーを積極的に利用した水素生成技術や発電技術において革新的な特性改善を図ることが期待される。
 そこで本戦略目標では、関連分野間の技術融合の一形態として、例えば先行しているシリコン太陽電池と化合物半導体太陽電池の科学的な知見や技術的経験を、有機薄膜・色素増感型太陽電池、量子ドット太陽電池等の新型高効率太陽電池や太陽光利用水素生成等の飛躍的な効率改善に活用することを推進する。併せて、シリコン太陽電池や化合物半導体太陽電池との共通技術要素である表面・界面制御、新概念・新構造の提案などに関する研究を推進する。
 また、本戦略目標が示す研究領域は材料化学とデバイス物理が融合した分野である。太陽光利用技術に取り組む国内の研究者数は非常に少ない現状にあり、物理学、化学、電子工学等の異分野の研究者の英知を結集し、太陽光の利用という共通の課題の下で共同研究を推進してインタラクティブイノベーションを引き出すことや、異分野融合によるブレークスルーの誘発を促すことが本研究事業の重要なポイントである。
 本戦略目標の下で推進される研究分野と異分野融合の具体例として、以下が挙げられる。

[研究分野]
1太陽光発電技術
・シリコン系、化合物薄膜型
・色素増感型、有機薄膜型
・新型超高効率系(III-V族、量子ドット型、多接合型など)
2太陽光利用による有用物質・エネルギー生成技術
・水素、ギ酸等の有用物質生成
・有用物質とエネルギーの同時生成

[本戦略目標で期待される異分野融合]
1半導体、有機ELディスプレイなど関連分野の研究者に、太陽電池材料への適用研究、劣化機構の解明、発電効率改善の研究を期待
2界面現象の研究者に、効率的に電荷分離する材料探索を期待
3結晶物理、薄膜形成の研究者に、シリコン薄膜の欠陥制御についての研究を期待
4フォトニック結晶による光制御の研究者に、集光や光閉じ込め制御の研究を期待
5光触媒などの研究者に、太陽光エネルギーを積極的に利用した発電効率改善についての研究を期待

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3.政策上の位置付け

 2007年6月のG8ハイリゲンダム・サミットにおいて我が国は「2050年に温室効果ガス(GHG) 排出量の半減を目指す」との声明を先導する役割を果たした。
 第3期科学技術基本計画において、『理念2 国力の源泉を創る 〜国際競争力があり持続的発展ができる国の実現に向けて〜』を実現するための目標として、『目標3 環境と経済の両立 − 環境と経済を両立し持続可能な発展を実現 (4) 地球温暖化・エネルギー問題の克服』が設定されている。
 また戦略重点科学技術として、ナノテクノロジー・材料分野において『True Nanoや革新的材料で困難な社会的課題を解決する科学技術』の『クリーンなエネルギーの飛躍的なコスト削減を可能とする革新的材料技術』、エネルギー分野では『運輸部門を中心とした石油依存からの脱却』の『太陽光発電を世界に普及するための革新的高効率化・低コスト化技術』としてそれぞれ挙げられている。
 総合科学技術会議において取りまとめられた「地球温暖化対策技術研究開発の推進について」 (平成15年4月)では、地球温暖化対策に関してインパクトの大きい研究開発課題に積極的かつ重点的に取り組むことの重要性を指摘している。さらに、「革新的技術戦略」では「地球温暖化対策技術」の中の「高効率な太陽光発電技術」が選出されており、開発のために必要とされる組織・体制として、産学官連携・府省連携の推進、異業種・異分野融合の促進等が指摘されている。また「環境エネルギー技術革新計画」において、本戦略目標と関連するものとして、「太陽光発電」と「水素生成」が選ばれている。特に、太陽光発電に関する記述のうち「第三世代:多接合化や量子ナノ構造等、新材料・新構造を活用することにより、飛躍的な効率の向上とコストの低減を図る太陽電池」については、本戦略目標の具体的な課題と密接に関連している。水素生成については、ロードマップ中に飛躍的な低価格化を可能とする革新的水素製造技術の一つとして光触媒が記載されている。
 また、前述した文部科学省が取りまとめた報告書では、太陽電池をエネルギー創出の代表的環境技術と位置づけ、太陽光を利用し循環する未来型エネルギーフローシステムを提案している。さらに、前述したように4省連携による「太陽光発電の導入拡大のためのアクションプラン」が出されており、文部科学省から太陽光発電に特化した政策を打ち出す重要な時期であるといえる。

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4.本研究事業の位置づけ、他の関連施策との切り分け、政策効果の違い

 本研究事業は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電技術、太陽光エネルギーにより化学燃料を生成する水素生成技術、電気エネルギーと化学燃料を同時に生成する技術等を対象とする。
 科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センターは平成19年12月にワークショップを開催し、従来文部科学省及びJST、並びに経済産業省及びNEDOが取り組んできた領域を整理した。
 このうち、太陽光発電については、デバイスの効率向上・コスト低減等の具体的数値目標を伴う課題については経済産業省・NEDOを通じた公的な技術開発資金が投入されているが、将来の高効率・低コスト太陽電池技術を実現するためには、デバイス物理・材料化学や挑戦的な新規材料探索を含む基礎・基盤研究をさらに加速する必要がある。例えば、NEDOプロジェクト「革新的太陽光発電技術研究開発」は、革新型太陽電池国際拠点整備事業に基づき2050年を目指した長期的視点で開発目標を立て、それに向けた7年計画事業を推進しているが、これらの基礎・基盤研究を大学や独立行政法人を中心に開発することが望まれている。
 科学技術政策担当大臣や総合科学技術会議有識者議員による、平成20年度概算要求における科学技術関係施策の優先度判定等(平成19年10月29日)の中で、NEDOの新エネルギー技術研究開発(太陽光・風力)について、「次世代技術の課題、特に材料開発などの基礎・基盤研究の推進にあたっては、積極的に文部科学省や大学と連携をとり、普及促進への制度整備や標準化等も検討しながら、今後も我が国が世界をリードし続けるためにも、国際研究拠点を整備することが重要である。」と文部科学省及びJST、並びに経済産業省及びNEDOの連携の必要性やその意義を指摘している。
 なお、戦略目標で太陽光利用を一部に含むものとして、「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」がある。しかしながら、これに基づいて行われたJSTのCREST「エネルギーの高度利用に向けたナノ構造材料・システムの創製」は全ての研究課題を平成19年度内に既に終了している。また、この後に設置された戦略目標「持続可能な社会に向けた温暖化抑制に関する革新的技術の創出」を受けて、平成20年度から進められているCREST「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」は、二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出を目標とするもので、二酸化炭素削減の手段の一つとして太陽光利用を含みうるものである。この研究領域の中で、平成20年度には軽量・安価なプラスチック太陽電池を開発目標とした「有機薄膜太陽電池の高効率化に関する研究」が採択されているが、あくまで炭素削減の手段という広範な課題の一環としての太陽電池研究であり、しかも有機薄膜太陽電池の高効率化に焦点を絞った研究課題となっており、太陽電池の基盤技術創成に十分とはいえない。リソースの有効配分の観点からも、平成21年度から本戦略目標に太陽電池に関する課題を集め、費用対効果を最大限に高めることが望まれる。
 また、物質・材料研究機構で進められている「低コスト次世代太陽電池の高効率化基礎研究」についても、色素増感型太陽電池に特化した研究課題であり、異分野融合による革新的技術の創出の観点からは十分な体制であるとはいえない。さらに、平成21年度から実施予定の「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発」は、前述したCREST「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」と同様に二酸化炭素削減を目標とし、太陽電池を課題として含むものの、課題解決型の研究拠点の構築が主目的となっており、本戦略目標とは施策の目的が異なる。
 次世代太陽電池の研究開発は、欧米との競争も激化しており、革新的技術戦略を着実に実行し、我が国の国際競争力を維持・向上する観点からも、政府を挙げて重点的に研究開発を実施することが重要であり、例えば大規模発電はシリコン薄膜型で実現し、小規模特殊用途発電は新型太陽電池により実現するなど、次世代の太陽電池の地位を占めるに相応しいと有望視される複数の型式の動作原理を、その利用形態を構想しつつ科学的に徹底的に解明することが極めて重要な課題となる。ドイツの施策などにより、Q-Cells AG社が日本のシャープ社を抜き太陽電池生産量で首位となった。基幹技術として位置づけられる太陽電池技術について、国の施策として普及を促進するための基礎・基盤技術を創出することが重要である。

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5.将来実現しうる成果等のイメージ

 エレクトロニクス分野の急成長を背景に、電力消費量も世界的に増大していることは周知の通りである。現状として、世界の年間電力消費量17兆kWhに対して、日本ではその5%程度にあたる年間9,000億kWhの電力を消費しており、年間4億トンもの二酸化炭素を排出している。今後さらに電力消費量は増大し、2020年には世界の年間電力消費量は25兆kWhとなることが予想されている。前述した政府の「低炭素社会づくり行動計画」は国内での到達目標をうたったものであり、世界規模での温暖化抑制策を文部科学省として実施すべきである。
 この観点から、例えば発電効率20%の太陽電池を用いた場合、25兆kWhを供給するためには日本の国土の30%以上の面積(12万km2)が必要となる。このように、全世界の電力を供給しようとすると比較的広い面積の太陽光発電所を世界に分散配置することになる。したがって、太陽電池に使用するすべての資材・資源が安定に確保できることが絶対必要条件となる。結果として、可能な限り薄く、かつ変換効率の大きい太陽電池であることが求められる。しかし、シリコンでも単結晶シリコンでは30%近い変換効率は得られるが、光の吸収係数が小さいために厚さが100μm程度必要となり、全世界に電力を送電するために8万km2の太陽電池を作ると、 1,800万トンを越えるシリコンが必要となるため全く現実的でない。現在シリコン集積回路が世界的に大量に使用されているが、毎年生産されるシリコン結晶は数万トンである。アモルファスシリコンは光の吸収係数が大きく、0.5μm程度の厚さで効果が得られるため、資源的には圧倒的に有利である。しかし、現状のアモルファスシリコンの太陽電池の変換効率は10%に満たない状況にある。製造されているアモルファスシリコンに欠陥が多すぎるために、太陽光により励起された電子・ホールが発電に寄与する前に欠陥で消滅してしまうためである。欠陥の無い超高品質のアモルファスシリコン太陽電池を極めて高い生産性の下で製造するために、新しい製造装置、新しい製造プロセスや新しい素材・材料の創出が必須である。報告されている理論的検討によると、欠陥の無い超高品質のアモルファスシリコンの太陽電池ができれば、変換効率は20%を越えるはずである。そうすると、全世界に電力を送電するために必要な太陽電池を製造するために必要なシリコン量は14万トンに減少し、きわめて現実的である。その電力を活用した海水の淡水化が実現すれば、世界の砂漠の緑化に寄与し、食糧危機の困難に解を与えられる。さらにこの電力で充電して走る電気自動車を普及させれば、二酸化炭素をまったく発生することがなく、世界のすべての大都市はクリーンできわめて静かな都市になる。
 シリコン太陽電池による大規模発電に加え、有機薄膜型や量子ドット型などの発電効率50%を超える小型・軽量の新型太陽電池を実現することにより、太陽光のみならず、蛍光灯などの微細光で駆動する携帯型電子機器が実現される。さらに、太陽光エネルギーを利用した高効率水素生成技術やエネルギー生成技術の開発により、将来の太陽電池による発電システムと相互補完的な発電システムが実現できる。
 以上のような技術を実現することにより、文部科学省が取りまとめた「今後のナノテクノロジーを活用した環境技術の研究開発の進め方について」(平成20年7月)の中で述べられている、太陽光を利用した未来型エネルギーフローシステム構築への貢献も期待される。このエネルギーフローシステムは、環境負荷を最小化するため、太陽を中心とした自然エネルギーを電気エネルギー等に変換する「創エネルギー」と、二次電池や超伝導技術等を活用したエネルギー損失の少ない「貯蔵・輸送」、燃料電池等による二酸化炭素排出を低減した「エネルギー利用」、断熱材料の開発等による「省エネルギー」から構成される。この中で、太陽電池は、「創エネルギー」の代表的環境技術と位置づけられ、水素生成技術は、「貯蔵・輸送」のキーテクノロジーとなることが期待される。
 また、我が国が世界に先駆けて太陽光エネルギーから二次エネルギー・燃料へ低コストで転換する技術を開発することは、2050年での温室効果ガスの排出量の半減(G8ハイリゲンダム・サミット)に大きく寄与するのみならず、地球温暖化対策と経済成長を同時に実現する低炭素社会への転換を推し進めることにつながる。ひいては、我が国の新エネルギー関連産業の国際競争力が強化され、海外からの輸入に依存せず、持続可能で、環境にも配慮したエネルギー・システムが確立することにより、日本の経済の発展並びに環境、安全保障及び生活水準の維持に寄与できる。

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6.科学的裏付け

 太陽電池については、結晶シリコン系などを中心に世界中で実用化が進んでいる。我が国は技術レベル、普及率共に世界トップであったが、近年はドイツの先導的な振興策によって普及率は逆転された状況である。シリコン系については市場拡大をねらって各国の熾烈な追い上げを受けるものと考えられる。また新型太陽電池においても色素増感型ではスイスなども高いレベルにあり、有機薄膜型では米国が突出している状況である。高効率低コストの太陽電池技術の開発のためには、山積する基礎的研究課題を解決する必要がある。既にシステム化が進みつつあるシリコン系及び化合物系太陽電池においても、さらなる効率改善には基礎基盤に立ち戻って界面制御・薄膜成長に関する研究や光劣化機構の解明に関する研究を進めることが求められている。また、効率以外の数値目標による新材料開拓やインジウム等の希少元素を用いない系の開拓も強く求められている。有機薄膜型太陽電池では、フラーレンをN型分子に適用したときのような、新材料の出現による変換効率の大幅向上が期待されており、原理解明と新構造の提案による大幅な発電効率の向上と色素材料の長寿命化とともに、それらを低温・大面積で作製可能とする新規なプロセスの開拓、また有機PN活性層の高機能化(N型分子探索、PN層作製に向けた自己組織化プロセスの開発など)やPN活性層における伝導輸送現象の解明などの課題がある。また、薄膜型シリコン太陽電池における光劣化機構の解明や単結晶シリコン型太陽電池でのシリコン節減化の検討などにも取り組む必要がある。
 太陽光による水素生成についても日本は世界のトップレベルにあるが、現在の光エネルギー変換効率は1%程度であり、この変換効率の大幅な向上が大きな課題である。新規ナノ触媒の設計と生成の詳細解明などが必須検討項目になる。
 「科学技術・研究開発の国際比較 2008年版 (ナノテクノロジー・材料分野)」(平成20年2月 JST研究開発戦略センター)において、「2.2.3 エネルギー・環境分野の2.2.3.2中綱目ごとの比較の(1)太陽電池及び(3)太陽光による水素発生」において、それぞれの国内及び国外における研究開発動向が記述されている。なお、前掲の同研究開発センターのワークショップ(平成19年12月)において、色素増感型太陽電池と太陽光水分解による水素生成の両分野は、よって立つ基本原理(正負キャリア励起・電荷分離・有機/無機界面など)を共有し、両分野の研究者が共同で課題に取り組めば共に進展が期待されるにもかかわらず、我が国ではこれまで両分野の融合の場が殆どないことが明らかになった。本研究事業では、この両分野に共通する課題を積極的に採用するなど、ナノテクノロジー・材料分野を中心とする、化学、物理学、電子工学など広い分野の研究の潜在能力を結集することでインタラクティブイノベーションを引き出すことを目指す。
 ここで、本戦略目標の中心的研究課題の一つである有機薄膜太陽電池の日本国内の研究者人口は現時点で欧米よりかなり少ないが、有機ELディスプレイ、電界効果デバイスといった関連デバイス基礎分野には産業界を含め多数の研究者が存在する。本戦略目標の設定により、これら他分野に偏在している関連研究者からの提案をエネルギー分野に戦略的に誘導できる可能性が高い。

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7.留意点

 本戦略目標の真の目的とはインタラクティブイノベーションの創出にあり、何よりも研究総括の先見性あるリーダーシップと柔軟な領域運営が強く求められる。
 4.に記した総合科学技術会議の指摘も踏まえ、本戦略目標の推進にあたっては、文部科学省及びJST、並びに経済産業省及びNEDOを含んだオールジャパン体制による一体的な取組が望まれる。また、研究プロジェクトとしては、シーズを様々な応用に発展させるという形ではなく、システム応用の視点から課題解決をはかるものを重視する。新材料を戦略的な探索により見いだし、新材料・新構造を用いたデバイスの動作メカニズムを検証するところまでを対象とする。
 全体を俯瞰できる研究総括の強力なイニシアチブの下、互いのグループ間の連携を密にし、共通インフラも使いながら、グループ内での明確な役割分担、理論と実験の融合、人材の交流等の研究投資を有効に成果につなげるための具体的システムが必要となる。日本では共同で研究を進める施設の整備が十分には整っていないことから、本戦略目標に関わるプロジェクトは、ナノテクノロジーネットワークプロジェクトと有効に結び付いて推進されることが望まれる。

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