研究最前線

ナノの世界の「分子ワイヤー」の連結に成功

超極小電子素子への応用に道
顔写真 坂口 浩司
(さかぐち ひろし)
(静岡大学電子工学研究所ナノデバイス材料部門 助教授)
戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
研究領域「構造制御と機能」研究代表者
 静岡大学電子工学研究所ナノデバイス材料部門の坂口浩司助教授は、種類の異なる導電性高分子製の「分子ワイヤー」を基板上で連結することに成功しました。「電気化学エピタキシャル重合」という技術を使っての成果です。これによって、異種の2本の分子ワイヤーを1本の糸のように繋げられるので、基板の上に厚さが僅か1分子の分子ワイヤー・アレイが作れます。導電性高分子製の超極小電子素子やデバイス作りへの応用が期待されます。
ねらいと背景
導電性高分子は、軽く、薄く、曲がるのが特徴
 導電性高分子とは2000年のノーベル化学賞を受けた白川英樹筑波大学名誉教授らが開発した電気を通すプラスチックのことです。軽く、薄く、曲がるのが特徴ですが、今のところ、一部のバッテリーやコンデンサーなどに使われているに過ぎません。
 この種のプラスチックとしては、ポリチオフェンなどが知られていますが、溶液に溶けにくく、溶けても高分子の分子自身が糸をクシャクシャにまとめたようにかたまり易いといった問題があり、扱いが難しいからです。
 今回の成果は、有機分子を使う分子エレクトロニクスなどを研究している坂口助教授が2004年8月に英国の科学誌「ネイチャー・マテリアルズ」に発表した電気化学エピタキシャル重合による単一材料の導電性高分子の分子ワイヤーの作り方(図)をもとに、一歩進んで今度は種類の異なる2種類の導電性高分子の分子ワイヤーを連結させたのです。
 単一材料の分子ワイヤーの場合の作り方はこうなります。
 電気メッキのように、電解質の溶液にチオフェンのモノマーを溶かし、ヨウ素で表面処理した金の電極を基板としてその溶液に浸し、パルス電圧を加えます。これでチオフェンのモノマーが手をつなぐように連なって、ポリチオフェンの分子ワイヤーが基板上に形成されます。この際の分子ワイヤーが伸びる方向は、ヨウ素による表面処理の細工で決まり、チオフェンのモノマー自らがヨウ素が示す伸長方向を知って特定方向に伸びて行くのです。つまり、ヨウ素は、金の基板の上にモノマーを並べるマーカーと糊の役目を果たしているのです。
写真1 基板表面の原子配列に沿って1軸方向に成長した単一分子ワイヤー・アレイ
写真1 基板表面の原子配列に沿って1軸方向に成長した単一分子ワイヤー・アレイ

図 分子ワイヤーが形成されていく仕組み
図 分子ワイヤーが形成されていく仕組み
内容と特徴
ヨウ素で表面処理するのがポイント
 異なる2種類の導電性高分子の分子ワイヤーを連結する仕組みはこうなります。
 Aという導電性高分子の分子ワイヤーにBという導電性高分子の分子ワイヤーをつなぐなら、まず上記の方法でAの分子ワイヤーを作り、Bのモノマーを溶かした別の容器にAの分子ワイヤーが出来ている基板を浸して電圧パルスを加えます。すると、Aの分子ワイヤーの先にBの分子ワイヤーができていき、AとBの分子ワイヤー同士が連結されるという仕組みです。
 もちろん、それぞれの分子ワイヤーを作る場合のパルス電圧の高さ、パルス幅などは違います。いずれも材料に応じた値があります。これは、実験で探さないとなりません。BがAにくっつく時のパルスのかけ方にもノウハウがあります。
 こうしたやり方で「A+B」型ばかりでなく、「A+B+A」とか「A+B+A+B」のように異種の分子ワイヤーを次々につないでいけることが分かりました。
 坂口助教授は「金の基板をヨウ素で表面処理するのがポイントでした」と言います。「最初は、表面処理なんて全く考えもしなかった」そうですが、電気メッキで色々な条件や組み合わせを試しているうちにある時、意外に結果が良かったことがあり、調べたら、溶液に不純物として微量の臭素イオンが混じっていたことでハロゲン系での処理に気付き、金には同じハロゲン元素のヨウ素を使うのが良いことを発見したのです。
写真2 分子ワイヤーAを異なる材料の2つの分子ワイヤーBで挟んだ写真
写真2 分子ワイヤーAを異なる材料の2つの分子ワイヤーBで挟んだ写真

展望
電極をどうつけるかが今後の課題
 このようにして、異種の導電性高分子同士を連結して一分子の厚さのナノスケールの“布”化したもので電界効果トランジスタやダイオードのような超極小電子素子が出来れば、用途は色々考えられます。軽くて、薄くて、曲がるという導電性高分子の特徴は、人体へのウエアラブル(身につけられる)な用途に適しています。
 導電性高分子を使う有機エレクトロニクスの試みは、既に色々なされてはいますが、現在は材料にバルク(塊り)を使っているため、半導体と比べるとキャリア移動度(電子や正孔の動き易さ)が3桁は低いのです。この改良が第一で、分子ワイヤーをつなぎあわせることが試みられているわけです。
 しかし、製法にはまだまだ洗練しなければならない要素も多くあります。例えば、電子素子には、信号の出入口の電極が必要です。金属製の電極と素子を構成する導電性高分子をどのようにして結びつけるかが、2009年まで続くこのプロジェクトの今後の重要課題の一つになっています。
研究者のコメント
 「現時点では、こういうことが原理的に可能であることを実証した段階であり、他の材料でも試みるとか、バリエーションを増やすとか、やらねばならないテーマはまだまだ多くあります。しかし、メッキのように液相で行うこの手法は、現在行われている気相や固相の方法と違って特別の容器も超高真空装置も要りません。メッキみたいなローテクで導電性高分子の分子ワイヤーを連結させるという最先端のことを実現出来た意味は大きいと思います」
ホームページ:http://www.rie.shizuoka.ac.jp/~nanomat/sakaguchi_lab.html

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