研究最前線

哺乳類の新生児は自分の細胞食べて飢餓しのぐ

マウスの実験で「自食作用」の役割を解明
顔写真 水島 昇
(みずしま のぼる)
(東京都臨床医学総合研究所代謝制御研究部門 室長)
戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
      研究領域「タイムシグナルと制御」研究者
哺(ほ)乳類は生まれた直後、一時的に深刻な飢餓に見舞われます。この状態を自らの細胞の一部を分解し、栄養とすることで乗り切ることを東京都臨床医学総合研究所代謝制御研究部門の水島昇室長らの研究グループがマウスを使った実験で突き止めました。この機能は、「自食作用(オートファジー)」と呼ばれ、生きた哺乳動物でその意義を明らかにしたのは初めてです。ヒトの栄養不良状態における生体反応の理解などにも役立つ研究です。
ねらいと背景
タンパク質分解に2つの道
 動物の構成成分中、水に次いで多いのがタンパク質です。生命は、さまざまなタンパク質が機能することで維持されます。タンパク質は、効率良くつくられるだけでなく、適切に取り除かれることも大切で、合成と分解がバランス良く行われることによって健康を維持できるのです。
 タンパク質の分解の仕組みは、大きく分けて二つあります。一つは「ユビキチン・プロテアソーム系」※1と呼ばれるもので、不要になったタンパク質に「ユビキチン」が結合し、これを目印として「プロテアソーム」が取り付いて分解します。このシステムはねらった標的だけを的確に分解しますが、これに対しオートファジーは標的を選り好みしないランダムなシステムです。
 水島室長らの研究テーマは、哺乳類の個体中でのオートファジーの役割と制御の仕組みを明らかにすることです。この目的のためにオートファジーに関係する遺伝子の探索やその働き、オートファジーの起こる場所、程度などを簡単に調べられる手法の開発を進めています。



※1:ユビキチンは、タンパク質分解に関係する標識タンパク質。プロテアソームは、ユビキチンで標識されたタンパク質の分解にかかわる多酵素複合体のこと。
新生児期は出生に伴う飢餓をオートファジーでしのぐ
図

内容と特徴
「ノックアウトマウス」つくって検証
 細胞内でオートファジーが起きると、細胞質の中に隔離膜が現れて袋状になり、細胞質の一部をランダムに取り込みます。この袋状の膜は、「オートファゴソーム」と呼ばれます。そこへ分解する役目のリソソーム(細胞小器官)がやってきて融合し、袋の中身を分解します。これがオートファジーによるタンパク質分解の仕組みです。
 水島室長らは、研究に当たって3つのステップを踏みました。最初にマウスの細胞をシャーレで培養し、栄養飢餓の状態にし、オートファジーの起こる様子を観察した結果、大規模な分解システムであることが分かりました。
 次に、遺伝子操作でオートファゴソーム膜のタンパク質に緑色蛍光タンパク質を融合させた「トランスジェニックマウス※2」を開発し、絶食状態において緑色蛍光タンパク質を目印に観察しました。その結果、全身でオートファジーが活発化されることを確認しました。
 同じ実験を今度は新生児に試みたところ、胎内ほとんど起きることがないオートファジーが、生まれた直後に急激に起きていることを発見しました。唯一の栄養供給径路であるへその緒が切れて極度の栄養不良状態になり、オートファジーが起きたと考えられます。
 この仮説を検証するため、オートファジーを起こすことのできない「ノックアウトマウス※3」を作製して実験しました。このマウスは、生まれて約12時間で死にました。普通のマウスは、飢餓状態でも21時間ほどは生きるので、その半分の短さです。しかし、ミルクを与えると限られた時間ですが延命させることができました。

※2:遺伝子操作で外来の遺伝子、あるいは変異遺伝子を導入し、形質を改変したマウス。
※3:特定の遺伝子の機能を知るために、その遺伝子の発現を抑えた改変マウス。
マウスの細胞内でのオートファジーによるタンパク質分解の様子
(小さな輝点がオートファゴソーム)

写真 マウスの細胞内でのオートファジーによるタンパク質分解の様子

展望
細胞内の“掃除屋”として活かすことも
 水島室長らの実験によって、オートファジーは哺乳類の飢餓状態における大切な生体反応であり、とくに新生児期の重要な生命維持機能を有することが証明されました。ヒトの赤ん坊は、マウスに比べて太った状態で生まれてくるので、この理論をそのまま適用できないかもしれませんが、がんや寝た切りで栄養不良になった場合の身体の衰えを理解する上で、重要なヒントになることが考えられます。
 また、細胞内に異常なタンパク質が蓄積することにより発症するパーキンソン病やハンチントン舞踏病などにもオートファジーが関係しているといわれ、将来は細胞内の“掃除屋”として活かす研究が進むことも期待されます。
 さらに、バクテリアに感染した細胞の抗原を分解させることにも寄与していることが解明されつつあり、感染症との関連も研究の対象になっています。
研究者のコメント
「オートファジーの現象そのものは50年ほど前、電子顕微鏡を用いた研究によって哺乳類の細胞内で発見されました。これを今は簡単、かつ正確に観察したり、マウスで機能を解析したりすることができるようになりました。50年の時空を超えて、もし彼らと語り合うことができたら、喜びを分かち合えるのではないかと思っています」
水島室長ホームページ:http://www.rinshoken.or.jp/BM/

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