研究最前線

ゴムのように伸び縮みするゲルを開発

吸水性も抜群、24,000倍の水を吸う
顔写真 伊藤 耕三
(いとう こうぞう)
(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)
戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
研究領域「医療に向けた自己組織化等の分子配列制御による機能性材料・システムの創製」研究代表者
ゲルと言えばゼリーや寒天、豆腐といったプルンプルンした壊れやすい物体を連想しますが、東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授は、ゴムのように伸び縮みするゲルを開発しました。引っ張れば最大で24倍の長さにまで伸び、手を離せば元に戻る優れものです。これほど弾力性のあるゲルはこれまでありませんでした。水の中に入れると自重の約24,000倍もの水を吸う抜群の吸水性も併せ持っています。既に企業と実用化を目指す共同研究に入っています。
ねらいと背景
予期せぬ出会いがきっかけ
 ゲルとゼリーは同意語で、ゼリーのことをドイツ語でゲルと言います。
 今回のゲルは、大阪大学理学部の原田明教授の研究成果がベースになって生まれたものです。
 1995年、中国行きの飛行機で伊藤教授は原田教授とたまたま隣同士の席になり、ネックレスに似た図1のような面白い構造の高分子をつくった話を聞きます。ネックレスの紐にあたる部分の材料は水に溶ける高分子として知られる「ポリエチレングリコール」で、このミクロの紐にビーズにあたる「シクロデキストリン」という穴の開いた糖を通し、紐の両端にはビーズが抜けないよう止め具がついています。
 この面白い構造の高分子は、「ポリロタキサン」と呼ばれ、これを原田教授が論文として発表したのは1992年でしたが、伊藤教授は「飛行機で同席するまで全く知りませんでした。大変驚くと同時にこれは研究材料になると直感しました」と振り返っています。
 その予期せぬ出会いから5年後にある発見をして常識を破るゲルができたのです。


図1 「ポリロタキサン」の構造モデル
図1
(1ミクロンは1000分の1mm)

写真 ゴムのように伸び縮みする新開発のゲル
長さ1cmのゲルを20倍の20cmまで伸ばした状態
写真

内容と特徴
これまでにないタイプの「第3のゲル」
 伊藤教授らは、ポリロタキサンの粉末を水に溶かして、ある薬品(架橋剤)を加えると図2のように2個のシクロデキストリン分子が「8の字状」に結合(架橋)して透明なゲルができることを発見したのです。
 この結合を伊藤教授らは「8の字架橋」と呼んでいますが、架橋の密度を変えることで軟らかいゲルから硬いゲルまでいかようにもつくり分けることができます。
 図3は従来のゲルの構造で、力が加わると高分子の紐が伸びきってすぐプツンときれてしまいます。ところが、「8の字架橋」をつくると、そこが“ミニ滑車”として働き、紐が動くようになって力が分散され切れにくくなるという仕組みです。ストッキングやセーターが伸びる理由と似ています。
 従来のゲルは、4倍位の長さにまでしか伸びませんでしたが、この新しいゲルは24倍まで伸びるのを確認しています。1cmのゲルが24cmになるわけです。
 大量の水を吸収するのも大きな特徴で、ゲルの重さの約24,000倍もの水を吸います。従来のゲルは1000〜2000倍しか吸いません。「僅か小さじ1杯で牛乳パック24本分の水を吸収してくれます」と伊藤教授は言っています。
 ゲルには2つの種類があります。「物理ゲル」と「化学ゲル」で、寒天や豆腐などは前者に、ソフトコンタクトレンズなどは後者に入ります。
 今回のゲルは、そのどちらにも入らないもので、「第3のゲル」と言うことができます。

※:カルボニル・ジイミダゾールやジビニルスルホンなど。一般に広く使われている架橋剤です。
図2 「8の字架橋」をつくったゲルの構造モデル。力が加わると架橋部が“ミニ滑車”になって右の図のように紐が動く
図2

図3 従来のゲルの構造モデル。力が加わると右の図のように紐が切れてしまう
図3

展望
多岐にわたる用途が
 既に日米で基本特許が成立していますが、さらに10件余りの周辺特許を出しています。
 また、10余りの企業と実用化を目指す共同研究を進めているほか、守秘契約を20社前後と結んでいます。これらの多くは大手で、化学、医療、繊維、化粧品、自動車といった幅広い分野の企業が名を連ねています。
 このような動きから見て実用化の研究はかなり進んでいるものと見られます。
 伊藤教授は、ものすごくよく伸びる繊維や、弾力に富んだ強い塗料、保湿性に優れた化粧品、破れにくいコンタクトレンズ、人工関節などが実現するのではと期待しています。
研究者のコメント
「8の字状の滑車構造を色々な高分子材料につくってみようと考えています。あらゆる高分子に使えるはずです。特性がものすごく違ったものができるのではと見ています。私たちの体の多くはゲルでできています。血管も軟骨もゲルです。生体用材料にも挑戦したいと考えています。生体に似た特性のものができるのではと思っています」
伊藤教授ホームページ:http://www.molle.k.u-tokyo.ac.jp/index.html

→戻る