研究最前線

薬物や尿毒症物質が腎臓で排泄される仕組みを解明

腎不全や合併症のオーダーメイド医療に道
顔写真 阿部 高明
(あべ たかあき)
(東北大学医学部付属病院 腎高血圧内分泌科 講師)
戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)研究領域「情報と細胞機能」研究代表者
腎臓は、肝臓と並んで、薬物の吸収や体外への排出などで大きな役割を果たしていますが、そのひとつが尿毒症物質や水溶性の薬物を尿中に排泄するという働きです。東北大学医学部の阿部高明研究者らは、この排泄に重要な役割を担っているタンパク質とその遺伝子を発見しました。この成果は、個々の患者に最適な薬剤を選択・投与する、いわゆるオーダーメイド医療に道を開く可能性があります。
ねらいと背景
怖い腎機能低下の悪循環
 腎臓は、大別すると3つの働きをしています。1つ目は濾過で、血液中に流れている栄養物や老廃物を濾過し、栄養物は血液に戻し、老廃物は尿となる原尿中に送り出します。2つ目は再吸収です。原尿中には濾過の網目をくぐったブドウ糖やアミノ酸などの栄養素が混入しているので、これらを再吸収して血中に戻し、尿中に糖やタンパク質などが出ないようにしています。3つ目は排泄で、血液中に流れている薬物や尿毒症物質などを取り込み、尿中に送り出して体外に排泄します。
 腎臓は、毛細血管が糸玉のように丸まり、そこに腎細胞がまとわりついている糸球体と呼ばれる部分と、尿の元になる原尿が流れる尿細管という部分からなります。糸球体は主に濾過の働きをし、尿細管の細胞は主に再吸収と排泄を担っています。
 腎臓の病気が怖いのは、腎機能低下の悪循環が生じるからです。腎機能が低下すると、薬物や尿毒症物質が体内に蓄積しやすくなり、腎臓の細胞が傷害され腎機能のさらなる低下を引き起こします。また、腎機能の低下した人は、正常の人と較べて何倍も脳卒中や心筋梗塞になりやすいことが分かっています。
 したがって尿毒症物質などを排泄する機能を維持することは、腎障害を悪化させない上で非常に重要な意味を持つと同時に、脳卒中や心臓病の予防という点でも注目されています。ところが、この排泄の仕組みについてはこれまで不明な点があり、メカニズムは解き明かされていませんでした。
内容と特徴
血中の薬物を取り除いてくれるタンパク質を発見
 阿部研究者らは、排泄メカニズムの解明に取り組み、今回、腎臓だけに存在し、血中に流れている薬物などを取り除く働きをしてくれるタンパク質(輸送タンパク質)を突き止めました。
 このタンパク質とその遺伝子は、「OATP―R」(有機アニオントランスポーター)と名付けられています。OATP―Rは、尿細管細胞の血管側表面(細胞膜)に現れ(図1)、細胞膜を1 2回貫通してリング状の取り込み口を細胞膜に作り出します(図2)。つまり、血中を流れる薬物などをキャッチし、それを尿細管細胞内へと取り込む通用口となります。
 これまでの研究で、このOATP―Rは心不全や不整脈の治療薬であるジゴキシンや、抗がん剤のメトトレキセート(MTX)などの薬剤、またアミノ酸が連なったペプチド類、各種のホルモンなどを通過させることが明らかになっています。尿細管細胞に取り込まれたこうした物質は、尿細管側の細胞膜上にある「MDR1」と名付けられたタンパク質の通用口から原尿中に排出され、尿に混じって体外に排泄されます(図1)。
 これまでジゴキシンなどの排泄は、主にMDR1の働きによると考えられていましたが、実はそれだけではなく、その前段階に取り込み役のOATP―Rがあり、取り込み役と送り出し役がペアになって排泄している仕組みが今回明らかになりました。
図1 腎臓に発現する「OATP―R」
図1
右上は腎臓、右下は糸球体と尿細管、左は尿細管細胞における薬物の取り込みと排出の仕組み

図2 輸送タンパク質「OATP―R」の構造
図2
細胞膜を12回貫通している輸送タンパク質「OATP―R」。これがリング状の通用口を形成している

展望
がん治療への応用も
 この研究がもたらす臨床への応用可能性は、腎臓の排泄能力を改善する腎不全の治療法、腎臓での排泄性が高く副作用の少ない薬剤の開発、個人の腎臓排泄能力により適切な薬剤投与量と投与法を決定するシステムなどがあげられます。さらに、透析では除去し切れない物質を除去できる画期的な人工腎臓の開発にも寄与しそうです。
 実は阿部研究者らは、もう1つの重要な薬物の代謝、排泄臓器である肝臓での薬物の取り込みや排泄の研究もしており、この分野でも世界的に注目される成果をあげています。
 腎臓でOATPと名付けられた輸送タンパク質は、肝臓の場合には「LST」と名付けられています。OATPとLSTは、人とラットから合計20数個見つかっていますが、阿部研究者らはこれまでにその内の16個を発見しています。
 発見したLSTの中には、胃がんや大腸がん、すい臓がんのがん細胞に大量に現れ、正常の肝臓には少量しか現れないものがあります。この輸送タンパク質は、抗がん剤のMXTを細胞内に取り込むことが分かっており、MXTをがん細胞だけに効果的、特異的に取り込ませ、正常な細胞を保護しながらがんの治療効果をあげる治療法への応用が期待されます。
 輸送タンパク質に関する一連の基礎研究成果が、実際に広い分野の患者の治療法に応用される日も近いでしょう。
研究者のコメント
「腎不全を患い血液透析を受けている患者数は、国内で毎年約1万人ずつ増えています。中でも糖尿病性腎症を患って透析を受ける患者は、新規の透析導入患者の4割近くを占めています。糖尿病患者は、高血圧や高脂血症など他の生活習慣病を合併し、多剤併用療法を受けている人が多いのが現状です。さらに糖尿病は、脳血管障害や心疾患の発症率を高くします。こうした患者は、腎障害の進行と、薬剤に起因する腎障害と蓄積の悪循環が深刻です。治療に結び付くような成果を引き続き挙げていきたいと思っています」
阿部研究者ホームページ:http://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research/18jouhousaibou/tabe/

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