研究最前線

都市ガスから水素を作る

家庭用燃料電池に朗報
顔写真 高村 仁
(たかむら ひとし)
(東北大学大学院工学研究科助教授)
戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
研究領域「資源環境・エネルギーミニマム型システム技術」研究代表者
燃料電池はクリーンなエネルギーシステムとして脚光を浴びていますが、一般家庭にまで普及させるためには、高純度研究の水素を大量に製造・供給する技術が必要です。東北大学大学院工学研究科の高村仁助教授は、都市ガス(天然ガス)から水素を作ることを目的に、「酸素透過性セラミックス膜」による「天然ガス改質技術」の開発に取り組んでいます。改質器の効率化、コンパクト化が可能で、起動時間も短く、小型燃料電池の実用化に弾みをつけることが期待されています。
ねらいと背景
加熱が不要。あっという間に起動
 燃料電池は、水素と酸素を反応させて電気を作ります。天然ガス(メタンが主成分)から水素を取り出して使うものとして、実用化研究が最も進展しているのが「高分子電解質型燃料電池(PEFC)」です。この燃料電池に供給する水素の作り方としては、水蒸気とメタンを反応させて水素を回収する「水蒸気改質法」が主流を占めています。しかし、反応が吸熱反応なため、常に大量の熱を供給しなければならず、起動するまでに20分から1時間もかかります。
 高村助教授は「部分酸化改質法」※1と呼ばれる手法に着目し、メタンと酸素を反応させて、水素と一酸化炭素を回収することを考えました。これだと全てが発熱反応なので、熱を加える必要がなく、あっという間に運転温度に到達します。
 この技術が従来、あまり顧みられなかったのは、空気をそのまま使うため、空気中の窒素によって水素の濃度が薄まることが嫌われたためでした。また、可燃ガスのメタンを空気と反応させるので、安全性の問題もありました。この二つの問題を解決するために、たどり着いたのが、酸素だけをメタン側に安全に供給すると同時に、空気とメタンを直接混じり合わないようにすることでした。この「天然ガス改質技術」のキーになるのが、「酸素透過性セラミックス膜」です。

※1:二酸化炭素まで進行せずに、部分的な酸化でメタンについている水素をとる改質法を言います。
酸素透過性セラミックス膜
酸素透過性セラミックス膜
内容と特徴
1kw級燃料電池に必要な水素十分賄える
 「酸素透過性セラミックス膜」は、酸素イオンと電子だけを通します。膜を介して、一方に空気、他方にメタンを吹き付けると、酸素が膜を通ってメタン側に流れます。空気側の酸素濃度に比べてメタン側の酸素濃度が低いので、この濃度勾配が坂道になって、酸素が浸み出して来るのです。この際、酸素がイオンとして電子と一緒に流れることがポイントで、これによって膜に電気の流れが生れ、反応が恒久的に続くようになります。酸素がメタン側に供給されると、発熱反応によって合成ガスと呼ばれる一酸化炭素と水素の混合ガスが生成します。この合成ガスは、「シフト反応」※2によって、水素と二酸化炭素に変わり、水素だけが燃料電池に供給される仕組みです。
 一酸化炭素は、発電効率を低下させる原因になりますが、このシステムでは一酸化炭素を含まない純水素を生成できます。
 酸素イオン・電子伝導性材料として、ぺロブスカイト型※3の酸化物があります。しかし、高村助教授は、酸素の透過効率を一層高めるため、酸素イオン、電子それぞれを最も良く流す物質を探索し、それを混ぜ合わせた複合材料の開発を試みました。材料選択の幅が広がるからです。その結果、酸素イオンの伝導物質として希土類のセリウム酸化物、酸素透過性セラミックスによる水素分離技術を融合したシステム)電子伝導物質としてスピネル型※4フェライト酸化物を選択。これらの物質を数十〜数百nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の粒に微細化し、粒子同士が緻密なネットワークを形成する酸素透過性セラミックス膜の開発に成功しました。
 この膜は、1cm角の面積で1分間に13.4mの酸素を透過でき、従来のものに比べて30%以上性能がアップしました。高村助教授は、「1kw級家庭用燃料電池に必要な水素は1分当たり10〜15l。これだけの水素を作るために必要な酸素は、多めにみて2.5l。5cm角の膜を10枚積層した装置にすれば十分賄えます」と話しています。

※2:合成ガス中の一酸化炭素を水素と二酸化炭素に変える反応。
※3:「ABX3」の化学式で表される化合物の構造。灰チタン石(ぺロブスカイト)が代表的物質。 ※4:「AB2X4」の化学式で表される化合物の構造。MgAl204が代表的物質。

焼成した膜材料の電子顕微鏡写真
(結晶粒径10〜30nm)

焼成した膜材料の電子顕微鏡写真 (結晶粒径10〜30nm)

展望
従来法を超える性能の達成が課題
 酸素透過性セラミックス膜を使って改質器本体を試作することが、今後の大きなテーマで、他の研究グループと連携をとりながら、すでにその作業に着手しています。
 家庭用燃料電池に採用されるためには、水蒸気改質法に置き換わるような性能を発揮できるかどうかが鍵を握っており、膜自体の高性能化、とくに単位面積当たりの酸素透過量のアップや一層の薄膜化を図ることによって、改質器をよりコンパクト化することが課題になっています。また、天然ガス以外のガスの改質に応用することも目標の一つです。
新たな水素製造システム
(酸素透過性セラミックスによる水素分離技術を融合したシステム)

新たな水素製造システム(酸素透過性セラミックスによる水素分離技術を融合したシステム)

研究者のコメント
「研究当初は酸素がほとんど浸み出さず、厚い壁に阻まれているような感じでした。膜は、一方は酸化性、他方は還元性という極端に違う雰囲気にさらされます。その中で、化学的、熱的、機械的に安定であることが必要で、酸素透過量とはトレード・オフの関係です。非常に細かい粒子から成る複合体に着目した結果、目標の材料を発見でき、改質器を試作するところまで到達しました」

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