研究最前線

世界最高性能の高温超伝導材料を開発

強磁場中で従来の20倍の電流密度を記録
顔写真 松本 要
(まつもと かなめ)
(京都大学大学院工学研究科材料工学専攻材料機能学講座
 材料物理学分野 助教授)
戦略的創造研究推進事業
「ナノ組織制御による高臨界電流超伝導材料の開発」研究代表者
高温超伝導材料※1は、世界中を驚かせ、一大フィーバーを巻き起こしました。その発見から1 8年余りが経ちます。しかし、世界中のどこもまだ本格実用にまでは至っておりません。今なお越えねばならない壁が残っているからですが、京都大学の松本要・助教授らの研究チーム※2は、その壁の一つ、強い磁場の中では大きな電流が流せなかった弱点を克服、強磁場中での電流密度(臨界電流密度※3)をこれまでの3〜20倍にまで高めることができる高温超伝導材料の開発に成功しました。
※1:高温超伝導材料=マイナス200℃以上で超伝導状態になる材料のこと。
※2:京都大学、名古屋大学、東京大学、山形大学、財団法人電力中央研究所のメンバーからなる研究チーム。
※3:臨界電流密度=超伝導材料中に電気抵抗ゼロで流すことができる最大の電流値。それ以上の電流を流すと超伝導が破れ、常伝導状態になる。


ねらいと背景
高温超伝導材料の泣き所は磁場に弱いこと
 超伝導とは、電気がロスなく流れることを言います。つまり、電気抵抗がゼロになるわけで、電気をどんな遠方にまでも送電ロス・ゼロで送れ、ループ(輪)を作れば電気はグルグル無限に回り続けるので電気の永久貯蔵さえ可能と見られています。高温超伝導材料が発見されるまでは、金属系と呼ばれる別系統の超伝導材料の研究開発が内外で進んでいて、この金属系超伝導材料の方はすでに本格実用の時期を迎え、医療機器、分析機器、粒子加速器をはじめ様々な分野に使われています。
 しかし、金属系超伝導材料は、液体ヘリウムでマイナス269℃まで冷やさないと超伝導にならない弱点を持っています。また、ヘリウムは、希ガスの一つで、その呼び名からも分かるように量の少ない資源(天然ガス中に少量含まれ、主産地は米国)なため価格が高いという難点もあります。
 高温超伝導材料に世界中の目が集まったのは、液体ヘリウムではなく、液体窒素(マイナス196℃)中で超伝導になったからです。窒素は、空気中に無尽蔵にあり、空気を冷やせばどこででも液体窒素が作れます。液体窒素の価格は、液体ヘリウムのおよそ1/20と言われています。
 しかし、高温超伝導材料もいいことずくめではありません。磁場に大変弱く、図1に示すように金属系超伝導材料よりはるかに小さな電流しか流せないのです。
 今回の成果は、この大きな課題を見事解決したもので、松本助教授は更なる性能アップを目指しています。
図1 金属系超伝導線材と従来の高温超伝導材料の磁場と臨界電流密度の関係
図1 金属系超伝導線材と従来の高温超伝導材料の磁場と臨界電流密度の関係
内容と特徴
「ピン止め」に成功、性能大幅にアップ
 高温超伝導材料は、紙を重ねたような層状の構造をしており、電気はそれぞれの層の中を流れます。そして、磁場を与えると図2のように非常に細い糸状の磁力線の束(磁束量子と言います)が無数に生じます。液体窒素温度では、この糸状の磁束量子が動き易く、磁場が強くなるにつれて動きが大きくなります。磁束量子が動くと、電流の抵抗になりますから磁場が強くなるほど抵抗が大きくなって臨界電流密度が下がる(図1)というわけです。ちなみに、金属系超伝導材料の場合は、液体ヘリウムの温度が低いので磁束量子はあまり動きません。
 松本助教授らは、「ピン止め」と呼ばれる手法でこの磁束量子の動きを抑えることに成功したのです。ピン止めとは、風で揺れるテープを虫ピンで壁に止めて揺れなくするあのイメージで磁束量子を動かなくするテクニックのことです。セラミックスなどの不純物微粒子が虫ピンの役割を果たします。
 松本助教授らが開発したのは希土類元素※4を含む「希土類系高温超伝導材料」で、「パルスレーザー蒸着法」と呼ばれる方法を使いnm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)オーダーのセラミックス微粒子が整然と一様に分散した高温超伝導薄膜を得るというものです。写真は、得られた薄膜の断面ですが、分散している粒径5nm前後の微粒子がはっきりと写っています。松本助教授は、「5nmサイズのピン止め点が20〜30nmの間隔で分散していることを確認しています」と言っています。図3は、磁場の中での臨界電流密度の測定結果ですが、5T(テスラ、1Tは1万ガウス)の強磁場中で1cm2当り20万A(アンペア)という高温超伝導材料では世界最高の値を記録しています。この値は、従来のほぼ20倍にあたります。

※4:希土類元素:原子番号57のランタンから同71のルテチウムまでの15元素に、同21のスカンジウム、同39のイットリウムを加えた17元素の総称。松本助教授らが使っているのは、この内のサマリウム、ガドリニウム、エルビウムなど。
図2 磁束量子とピン止めのイメージ図

図2 磁束量子とピン止めのイメージ図

図3 新開発のピン止めされた希土類系高温超伝導材料の
磁場下における臨界電流密度特性

図3 新開発のピン止めされた希土類系高温超伝導材料の磁場下における臨界電流密度特性

新開発の希土類系高温超伝導材料の断面を写した電子顕微鏡写真。ピン止めの働きをする微粒子がはっきり写っている(矢印)
新開発の希土類系高温超伝導材料の断面を写した電子顕微鏡写真。
ピン止めの働きをする微粒子がはっきり写っている(矢印)
展望
高温超伝導材料の実用化が早まるかも
 実用になっている金属系超伝導材料の5Tにおける臨界電流密度は、1cm2当り30万Aと言われています。それと比べるとあと一歩という感じですが、松本助教授は「別のピン止めも考えております。30万Aを目指したいと思っていますが、できそうです」と自信のほどを語っています。
 「2010年前後から高温超伝導材料の電力分野や産業分野への利用が活発化するだろう」という見方がありますが、その時期が早まるかもしれません。
 ただ、今回の成果を実用までもっていくには長尺の線材にする技術の確立が必要です。
 高温超伝導材料の線材化は、テープ状にして長尺化を図るというのが主流で、薄い金属製の基板テープの上に高温超伝導材料の薄膜を形成する方式で作ります。メーカー各社は、2010年頃までに長さ1000mの高温超伝導テープを実現することを目指しています。松本助教授らの研究は、長尺テープを作るところまでまだいっていません。
研究者のコメント
「競争がいよいよ始まるな、という感じです。米国でも我々の成果のプレスリリースを見て同様の研究を始めています。4月のアメリカンセラミックス学会では早くも10件余りの発表がありました。今のところは、我々の方がまだリードしていますが、秋になったらどうなるか分からないという感じです。今後、より効果的に研究を進めていく必要があります」
松本助教授ホームページ:http://hightc.mtl.kyoto-u.ac.jp/materials/groups/osamura.html

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