研究最前線

「動脈硬化」の原因、定説を覆す全く新しい治療法の開発が可能に

動脈硬化の仕組みを解明
顔写真 佐田 政隆
(さた まさたか)
(東京大学大学院医学系研究科器官病態内科学 助手)
独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業
研究領域「タイムシグナルと制御」研究者
動脈硬化によって血行に障害がおきると、脳梗塞などを引き起こすようになります。動脈硬化の原因について、従来の定説では、血管の壁をつくる平滑筋細胞が、血管内に移動して増殖するためと考えられていました。東京大学大学院医学系研究科器官病態内科学・佐田政隆助手は、動脈硬化について未だ有効な治療法が確立されていないことに疑問を持ち研究を進めた結果、従来の定説を覆し、骨髄性の造血幹細胞※1が平滑筋に分化増殖するためであることを解明し、新治療法の開発に努めています。
※1:
造血幹細胞=骨髄には、神経、骨、心臓など様々な臓器へ分化する可能性がある幹細胞が存在します。骨髄幹細胞には、血球系へ分化する造血幹細胞や骨、筋肉などに分化する間葉系幹細胞があります。
ねらいと背景
従来からの治療法に限界感じる
 血管は、内皮細胞で覆われていますが、その周りを中膜と呼ばれる平滑筋の筋肉層が囲んで補強しています。血管の内部が何らかの原因で狭くなり、血行に障害が起きると動脈硬化が発症します。
 動脈硬化の治療法としては現在、狭くなった血管内を広げるためにバルーン(血管拡張用の風船)などを使った手術が行われていますが、いったん回復しても数ヶ月後に再手術を必要とする例がほとんどです。
 佐田研究者は、基礎医学の研究を行うとともに、臨床医師として患者の診察や治療にもあたるうちに、従来からの治療法に限界を感じるようになりました。
 米国留学から帰国後の1999年から、動脈硬化の遺伝子学的手法による動脈硬化発症のメカニズムの研究を始めました。マウスを用いた実験を続けた結果、約30年前に米国のロス教授が提唱し、定説となっている考え方とは異なり、動脈硬化は「骨髄からの造血幹細胞※1が血液の中を流れるうちに、血管の傷害箇所に付着して平滑筋細胞に分化し増殖」することが発症の原因であることを解明しました。研究成果は、2001年と2002年の2度にわたり米国の医学雑誌「Nature Medicine」に掲載されました。
血管の壁をつくる平滑筋細胞が血管内に移動して増殖するという従来の常識

内容と特徴
新薬やバイオ人工血管に道
 この研究では、遺伝子の関係で体が青く染まるマウス(青マウス)や緑色蛍光タンパク質を発現するマウス(緑マウス)をつくり、赤マウスと呼ばれる野生型マウスの心臓を青マウスに移植したり、青マウスの骨髄を赤マウスに移植、緑マウスから造血幹細胞を分離し培養するなどの遺伝子学的実験を行いました。実験の結果、動脈硬化の原因である血管内での平滑筋の増殖は、骨髄からの造血幹細胞が分化したものであることが明らかになりました。
 2001年12月から科学技術振興事業団(現・科学技術振興機構)の「さきがけ研究」の中で、骨髄からの造血幹細胞が血管壁の平滑筋細胞に分化する前の細胞(平滑筋前駆細胞)を対象として、どのような刺激によって骨髄から造血幹細胞が分離され、どのようにして血管内を流れ傷害の箇所に付着するのかなど、造血幹細胞が平滑筋に分化するまでの仕組みや、増殖の仕組みを分子レベルで解明する研究を進めています。
 これまでに、赤マウス、青マウス、緑マウスの3種のマウスを用いて実験を行い、血液の流れの中に平滑筋前駆細胞が存在し、動脈硬化に関与することをほぼ証明しました。引き続き、さらに詳細な分子制御機構について検討していきます。
 また、新しい治療法の1つとして、血液の中を循環している平滑筋前駆細胞を吸着し、血管に付着させない新薬などの開発を目指すとともに、患者自身の骨髄の幹細胞を利用したバイオ人工血管を作製する研究も、試験管内で試みることにしています。
遺伝子学的実験例
バイオ人工血管を創る
 まず、骨髄の幹細胞から内皮細胞と平滑筋細胞を分化させます。この内皮細胞と平滑筋細胞を用いてバイオ人工血管を創り、機能不陥った血管の代りに移植します。

展望
10年内に新しい治療法・治療薬実現へ
 従来の定説を覆し、動脈硬化の研究に新しい分野を開拓したことにより、全く新しい治療法の開発が可能になりました。この研究による方法は、患者自身の骨髄からの幹細胞を用いるために倫理的な問題が生じないこと、免疫反応を回避することができるなど優れた特徴を持っています。現在、世界各国で、いろいろな臓器に分化する能力がある万能細胞「成体幹細胞」の研究が急速に進んでいて、動脈硬化など血管病の新しい治療法や治療薬の開発も競争で行われています。
 今後、動物実験の段階から、人間を対象とした臨床試験の段階を経て、実用化へと進むことになりますが、10年以内には新しい治療法や治療薬が実現するものと期待されています。
研究者のコメント
「動脈硬化などの新しい治療法を開発するには、他の分野や別のテーマで研究している人との情報交換や、共同研究も必要だと考えています。私の方からも、積極的に情報を提供したいと思っています。現在、研究に使った遺伝子改変マウスの作り方などのノウハウを、インターネットやメールで公開しているのもその1つです」

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