研究最前線

ガラスで超大容量のメモリー作る方法を開発

サイコロ大の中にDVD2千枚分を書き込める
顔写真 平尾 一之
(ひらお かずゆき)
(京都大学大学院工学研究科 教授)
科学技術振興事業団 国際共同研究事業
フォトンクラフトプロジェクト代表研究者
京都大学大学院工学研究科・平尾一之教授は、何の変哲もないガラスを超大容量のメモリー(情報記録素子)に変える新技術を開発しました。この新技術を使えば、情報を何層も多層に記録する“超高層ビル”方式のメモリーが作れ、わずか1cm角、サイコロ大のガラスの中に何とDVD(デジタル多用途ディスク)2000枚分の情報を蓄えることが可能です。ガラスでメモリーを作った例は世界的にも無く、日本発の成果です。
ねらいと背景
レーザー光を1000兆分の1秒当てて情報を記録
 現在のメモリーの代表選手は、何といってもDVDです。画質が良い上、大量の情報が記録できるのが受けて大ヒット、DVDプレーヤーの世帯普及率は2003年3月末で25%を超えました。
 そして、さらに記録容量を上げるチャレンジが進んでいます。DVDの多層化です。日立製作所などは、記録層を200層重ねる“200階建て超高層DVD”に挑んでいると言われます。
 平尾教授の新技術は、それをさらに上回る記録容量を狙っており、非常に強いレーザー光をほんの一瞬ガラスに当てて情報を書き込むというものです。
 ガラスにレーザー光を打ち込む研究は、これまでも内外で色々行われてきましたが、ことごとく失敗しています。微細なヒビが入ったり、場合によっては溶けてしまうからです。
 平尾教授は、「フェムト秒レーザー」と呼ばれるレーザーを使ってガラスに赤色のレーザー光を1000兆分の1秒だけ当て、ヒビなどの破損を起こさず情報を書き込むことに成功したのです。熱い物でも瞬間的には手で触れます。それと同じ理屈です。
写真 サイコロ大のガラス 写真 フェムト秒レーザー装置
この1cm角、サイコロ大のガラスに原理的にはDVD2000枚分の情報が書き込めますこれがフェムト秒レーザー装置です
(けいはんなプラザ(京都府)のスーパーラボ棟で)
内容と特徴
ガラスにサマリウムを添加
 この新技術には、1000兆分の1秒のレーザー照射のほか、もう一つブレークスルーがあります。ガラスにサマリウムと言う元素を溶かし込んでいることです。サマリウムが入るとレーザー光の当った部分だけが赤色に発光(写真)するようになることを発見したのです。発光していたら「1」、発光がなければ「0」、とすれば情報の記録が行えます。
 一度記録した情報は、橙色(だいだいいろ)のレーザー光の照射で消すことができ、再び赤色のレーザー光を1000兆分の1秒当てれば新たな記録が行え、何度書き込みは、針の先ほどに絞ったレーザー光をガラスに当て、情報を超微細な点(ドット)として記録します。ドットの直径は、約200n(ナノ)m(1万分の2mm)です。
 DVDは、円盤状ですが、この新技術で使うガラスはサイコロ状の立方体で、上から下までびっしり書き込めるため極めて高密度・大容量のメモリーになります。
 平尾教授は、縦、横、高さがそれぞれ1cmのガラスに縦10万ドット、横10万ドットの記録を高さ方向に1万層作り込むことが原理的に可能だと見ています。これは、DVD2000枚分にあたります。
レーザー光の当った所だけがこのように赤く発光します
写真 赤く発光

展望
フェムト秒レーザーに課題
 「国会図書館の情報が全て角砂糖大の大きさに入る記録素子」―米国のホワイトハウスが2000年2月、高らかに発表したナノテクノロジー戦略のトップに挙がっていた開発目標です。角砂糖とサイコロは、ほぼ同じ大きさです。米国もキュービック(立方体)状の超大容量メモリーを狙っているのかもしれません。
 今回のガラスメモリーは、その点からも注目されますが、課題もあります。その一つは、フェムト秒レーザーです。市場がまだあまりないこともあって日本では量産化までいっていないのです。平尾教授が使っているのは米国製(スペクトラフィジックス社製1台と、コヒーレント社製1台)です。価格も安くはなってきていますが、1台3〜4千万円します。これでは高過ぎます。
 大きさも大き過ぎます。平尾教授の研究室にあるフェムト秒レーザーは、1m×3mほどのテーブルを端から端まで専有しています。
研究者のコメント
「この成果は、創造科学技術推進事業(ERATO)から派生したものですが、すでに国内の企業が動画を一瞬に記録するエンターテインメント用システムへの利用を目指しています。3次元光回路などへの応用も一部で始まっています。ガラスでできたメモリーを指輪にして持ち歩く(ウエアラブル・メモリー(身に着けるメモリー)の)時代を実現したいと言うのが私の夢です。基礎研究を実用にまでもっていくのは大変で、苦労しますが、醍醐味はあります」
※:「平尾誘起構造プロジェクト」。研究実施機関は、平成6年10月〜平成11年9月

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