研究最前線

太陽エネルギーで水から水素を作る

画期的な触媒を開発
顔写真 堂免 一成
(どうめん かずなり)
(東京工業大学資源化学研究所 教授)
科学技術振興事業団 戦略的創造研究推進事業継続研究
研究領域「分子複合系の構築と機能」研究代表者
太陽の光を当てるだけで水から水素が取り出せる画期的な触媒(光触媒)を東京工業大学資源化学研究所・堂免一成教授が開発しました。可視光で水を分解することは、これまで不可能に近いと見られていましたが、その壁を見事に突破した世界に誇れる成果です。水素がブクブク出るレベルにまではまだいっていませんが、夢の水素製造法の実現に一歩近づきました。今後5年間かけて実用性を実証する計画です。
ねらいと背景
20年前から開発に取組む
 水素は、究極の無公害エネルギーと位置づけられています。これは、世界共通の認識です。水から安価に必要なだけ水素が得られるようになれば、人類は永遠にエネルギー問題から解放されることになります。
 しかし、人類はまだそのような水素製造法を手にしておりません。水から水素を得る技術の開発が日本で始まったのは1973年、オイルショックの直後でした。それから30年が経ちます。途中で熱がさめてしまったということはありますが、依然未到の技術なのです。
 中でも期待が大きい太陽光による水の分解では触媒の開発が不可欠です。太陽の光は、水の中をエネルギーを持ったまま素通りで突き抜けてしまいますから、光を吸収してそのエネルギーで水を分解する機能を持った光触媒がないと成り立たないのです。
 堂免教授は、20年ほど前から太陽光で水を分解するための光触媒開発を行っており、これまでに紫外光を吸収して水を分解する光触媒の開発に成功しています。
新開発の光触媒

内容と特徴
ついに“青い鳥”見つける
 太陽の光には、女性が嫌う紫外光、人間の目に見える可視光、物を温める赤外光が含まれています。それらの割合は、紫外光が2〜3%、可視光がおよそ50%、赤外光が50%弱です。したがって、これまでに開発された紫外光を吸収する光触媒では、太陽光のエネルギーの僅か2〜3%しか利用できないわけです。これでは効率的な水素製造は望めません。
 このため、早くから可視光で水分解できる光触媒の探索が行われてきましたが、その“青い鳥”は見つかりませんでした。
 堂免教授は、苦節20年にして“青い鳥”を見つけたのです。
 この堂免教授が世界に先駆けて発見した可視光に使える光触媒は、3系統、合せて10種類余りにのぼります。いずれも微粉末です。
 図は、その内の「オキシ・ナイトライド系」と呼ばれる系統の代表的な性能を示したものです。図1で分かるように、従来の光触媒「酸化チタン(TiO2)」は紫外光しか吸収しませんが、新開発の光触媒「窒化タンタル(Ta3N5)」は紫外光と可視光の両方を吸収します。
 図2は、エタノール(エチルアルコール)を溶かした水に可視光を当て続けて新開発の光触媒「タンタル・オキシ・ナイトライド(TaON)」による水素の発生状況を記したものです。水素の発生量は時間と共に増えています。
※:
オキシ・ナイトライド系、オキシ・サルファイド系、フルオロ・オキシ・ナイトライド系の3系統で、次の化学式で表される物質です。
 ・オキシ・ナイトライド系=TaON、Ta3N5、LaTaON2、CaNbO2N、LaTiO2Nなど
 ・オキシ・サルファイド系=Sm2Ti2S2O5、Gd2Ti2S2O5など
 ・フルオロ・オキシ・ナイトライド系=TiNxOyFz

図1:新開発の光触媒「窒化タンタル(Ta3N5)」と、従来の光触媒「酸化チナン(TiO2)」の光吸収(吸光)の比較
図1

図2:エタノールを溶かした水に可視光を当てた場合の新規光触媒「タンタル・オキシ・ナイトライド(TaON)」の水素発生状況
図2

展望
今後5年間で実用性を実証
 地球に降り注がれる太陽エネルギーは、膨大です。人類が消費しているエネルギーは、その1万分の1です。
 この未開のエネルギーから水素を得る方法としては、光触媒で水を直接分解する方法以外にも太陽電池を使う道があります。太陽電池で得た電気で水を電気分解する方法です。
 どちらが有望かはまだはっきりしていませんが、水素を大量に生産するのには光触媒方式の方が向いていると言われています。堂免教授は、地球の表面積(海も含みます)の0.1%の広さ(日本の陸地面積にほぼ相当します)に光触媒方式の水素生産装置を設置すれば、全人類が消費するエネルギーをまかなえると見ています。
 堂免教授の研究は、科学技術振興事業団の戦略的創造研究推進事業(CREST)の研究テーマとして進めてきたもので、今年の11月終了しますが、引き続き継続研究を行う予定です。堂免教授は、この間に実用性を実証する考えで、メタンガスから水素を作っている今の水素製造プラント並みの生産性を持つレベルにまで持って行く計画です。
研究者のコメント
「光触媒による水素生産は、太陽電池による水素生産よりシステムが簡単になります。したがって、広大な面積に展開するのに向いていると思います。光触媒の寿命としては、劣化せずに1年位使えるのが目標です。実用化までには、もう一つブレークスルーが必要と思いますが、10〜15年後には水素がある規模で取り出せるようになると見ています」

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