研究最前線

リウマチ治療に突破口

新薬誕生の期待も
顔写真 高柳 広
(たかやなぎ ひろし)
(東京大学大学院医学系研究科 助手)
科学技術振興事業団 戦略的創造研究推進事業
研究領域「生体と制御」研究者
関節の骨が壊れるリウマチ患者は、世界人口の1%、日本だけでも100万人いると言われています。このリウマチに代表される自己免疫性関節炎を医学の新分野である骨免疫学の立場から解明し、二つの大きな成果をあげました。これらの成果は新しい治療法の開発や新薬開発の突破口になるものと期待されます。「さきがけ研究(PRESTO*)」の「生体と制御」研究領域の平成13年度選定テーマの1つで、研究者は東京大学大学院医学系研究科免疫学講座の高柳広助手です。
【注】
*1 PRESTOとはPrecursory Research for Embryonic Science and Technologyの略。個人研究型とポスドク参加型があり、高柳助手の研究は後者。
ねらいと背景
骨の代謝と免疫の関係に着目
 骨では、常に古い組織が分解され、新しい組織に置き換わっています。このような骨の再構築の際、骨芽細胞による新しい骨作りと破骨細胞による古い骨の分解のバランスがとれていれば問題はないのですが、骨作りより骨分解の方が多くなると問題です。リウマチの骨破壊は、こうした骨分解の過剰から起きます。
 では一体、何が破骨細胞を増やしているのか?それが分かれば対策が立てられます。1998(平成10)年、米国と日本で「破骨細胞分化因子(RANKL)」がそれぞれ別個に発見され、その後の研究から免疫系の異常が余分な破骨細胞を生んでいることが分かりました。骨の代謝と免疫系は、多くの因子を共有し、その細胞群は骨髄という同じ環境でつくられるのに、これまでは互いに無関係で、独立した別個の分野の学問として研究されてきました。
 しかし、RANKLの発見で骨の代謝と免疫学の接点が発見されてから、この分野の研究は2000(平成12)年頃から「骨免疫学(0steoimmunology=オステオイムノロジー)」と呼ばれるようになりました。
骨減少性疾患の代表的なもの
内容と特徴
インターフェロンが大きく関与していることを発見
 1つはインターフェロン(INF)−βが骨再構築のバランスを取るのに欠かせない因子であることの発見です。マウスの実験から、RANKLは、破骨細胞の分化を促進する一方で、INF−βを通して破骨細胞の作り過ぎを防ぐことを明らかにしました。ウイルスなどの病原体から体を守るINF−βが、骨を守る作用も持っていたのです。高柳助手の「さきがけ研究」最初の成果であり、昨年4月の「ネイチャー」に掲載されました。
 もう1つは、造血幹細胞が破骨細胞になる時に必須と思われる因子の発見です。この因子は、破骨細胞形成の過程で最も重要な鍵を握る因子(マスターレギュレーター)ではないかと見られています。この因子を欠いた細胞(万能細胞)を作り、破骨細胞になるか実験したら、どのようにしても破骨細胞にならないことが分かりました。
破骨細胞の形成の概念図

INF(インターフェロン)−βの骨組織の影響
展望
歯周病や末期がんに効く可能性も
 リウマチの治療では、炎症や痛さは抑えられても、骨の破壊が止められず、関節機能障害につながることが大きな課題でした。高柳助手の成果は、その原因である破骨細胞の増加の防止あるいは予防に役立つ治療法や新薬開発の道を拓くかもしれません。3年の研究期間の残りの期間で、その研究を進めることにしています。新治療法や新薬が誕生すれば、その福音は関節炎以外にも及びます。例えば、歯ぐきがグラグラになる歯周病、骨髄病、骨に転移してしまった末期がんや、骨粗しょう症などにも役立つものと見られています。
研究者のコメント
「骨と免疫をつなげる研究はまだはじまったばかりです。3人ほどのグループで研究を進めていますが、共同研究をさせていただいた多くの研究者のかたがたの御支援のおかげで新たな発見に結実させることができました。また、PRESTからの支援がなければ、最新の手法を利用した大規模な遺伝子の解析を行うこともできなかったと思っています」

高柳助手は昨年11月、骨免疫学の論文で米国「サイエンス」誌などが主催する分子生物学のポスドク対象の「世界若手研究者賞」(受賞者7人)に選ばれた。同賞には、科学技術振興事業団さきがけ研究者で、「タイムシグナルと制御」研究領域の瀬藤光利研究者も受賞しています。

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